ウェットン/ダウンズ
『アイコン3』

〜偉大なるマンネリズム〜 (2009/04/22)

 偉大なるマンネリズム、
 それが実直な感想だった。
 本作『アイコン3』は、アイコン三部作の最終作であるが、実質内容はそれまでの延長線上にあり、大きな作風の変化はない。相変わらずのポップ・センスが爆発したハードAOR路線であるので、ウェットンのソロと比較しても大差はない。プログレ盲信者のためのアプローチのような媚びへつらいもなく、再結成エイジアと較べてどうだと訊かれると答えに詰まる。
 だが、それでいいのだ。
 このユニットは、エイジアの布石として始まった。それが独立した存在となって、半ばウェットンのソロ作代わりとして活動を続けている。それでいいではないか。水戸黄門が印籠を出さないと不自然だ。
 そう、ウェットンは出すごとにクオリティの落ちるソロ作を出さなくなった。その代わりにアイコン・プロジェクトでのリリースを続け、軒並み好評な作品を生み出している。それにはやはり、ダウンズの力が大きく関与している。そのままでは消化不良になってしまうウェットンのアイディアやセンスも、ダウンズが具現化してくれるからだ。そのためのプロジェクトであり、飽くまでウェットン主体で、ダウンズは媒介としてそこにいる。
 かといってダウンズは存在感ないのかと訊かれれば、ノーだ。キーボードの音ひとつを取っても、ダウンズらしさが滲み出ている。そこにウェットンの声が乗るから、心から満足できるのだ。助さん格さんのいないご老公が、これといって魅力的でないように。
 などと『水戸黄門』の例ばかり出して済ませられるのは、実際によくできたマンネリの上に作られた音楽である証拠だ。さらには、日本盤のライナーに充分な解説が載っているので、引用するようなセコい真似はしたくなかっただけのことだ。今作の解説は丁寧で、熱心だ。いつものウェットン関連のような投げ槍だったり盲信ではない。なのでバックグラウンドや各曲についてはそちらを参照されたい。ここでは、私が感じ取った『アイコン3』の感想のようなものを綴ろう。

 まず、全体的なイメージだが、これはアイコン・プロジェクトの路線そのまんまである。よってハードAOR路線でストリングスが絡んできて、女性ヴォーカルがゲスト参加という形は第1作から変わっていない。異なるのは、若干、本当に若干だが、プログレを意識したような展開があること。かといって変拍子のようなものではなく、途中にインストゥルメンタルを挟んでいたりサウンドが凝っている程度だが。そういったところをプログレ信者は評価するだろう。
 続いてサウンド面だが、これは作品が違うので違いは多々見られる。なかでも盟友デヴィッド・キルミンスターの採用はギター・サウンドが不充分だったこのユニットの輪郭を際立たせることになった。ウェットンのヴォーカルはソロ混迷期より張りがあり、リユニオン・エイジアから入ったファンでも馴染めるだろう。その代わりベースはこれといって特徴がなく、こなしている感を受ける。ダウンズの鍵盤さばきは相変わらず。良く言えば的確であり、悪く言えばエイジアなどと変化がない。このふたりのサウンドを求めても違和感はないだろう。
 歌詞については、前よりさらにパーソナルになっているきらいがある。こと冒頭曲はウェットン自身の手術をモティーフにしたのだろうと思われるし、多くの曲で具体的な固有名詞が出てきて私的な表現にとどまっているように感じられる。だがそれも、ウェットンの作詞センスを熟知している方には「うんうん、いつも通りで安心できる」となるだろう。良くも悪くも英国的だ。
 それでは、アイコン・シリーズの最終作は最高傑作か? と訊かれると、少し考える。そののちに、三部作はそれぞれ価値観が違うので、安易に最高傑作はどれだと言えない、という曖昧ながら明確な結論に辿り着く。
『アイコン』は黄金タッグ復活とエイジアへの布石、
『ルビコン』はユニットの独立による作風確立、
『アイコン3』はユニットの世界観の具現化、
 というのが、実質上のそれぞれの意味であると思われる。飽くまで私見だが。
 決して「総決算」だとか「最高傑作」などといった、単純な売り文句で済ませられるものではない。本作は、このユニット独自の「色」を拡げ、その輪郭を浮き彫りにしている。それは言い換えれば可能性の限界が見えたということでもあるが、そんなもの、ポップ・サイドのウェットン・ファンであればもとより承知のうえ。ウェットンご老公には進化など求めていない。ただダウンズ格さんの懐刀である「印籠」が備わっていれば、それでいいのだ。

 そういうわけで、本作はファンには傑作、そうでない人には平均的な出来にきこえるだろうアルバムだ。
 あとはウェットン/ダウンズ自身がもっと自信を持てれば、アイコン・プロジェクトのみの選曲のライヴもできるだろう。そうなれば一丁前なのだが、やはり黄門様になって印籠を出した方がファンも当人も安心するのだろうな。
 だからこそ本作は、ウェットンのファンか否かが問われるアルバムでもある。
 しかし、予定されているオフィシャル・ブートレッグの限定ボックスをリリースするような商法はいかがなものか、と思う。信者ではなく、いちファンとして。


ICON 3 アイコン3
1. Twice the Man I Was トワイス・ザ・マン・アイ・ワズ
2. Destiny デスティニー
3. Green Lights And Blue Skies グリーン・ライツ・アンド・ブルー・スカイズ
4. Raven レイヴン
5. My Life Is in Your Hands マイ・ライフ・イズ・イン・ユア・ハンズ
6. Sex, Power And Money セックス、パワー&マネー
7. Anna's Kiss アンナズ・キッス
8. Under The Sky アンダー・ザ・スカイ
9. Don't Go Out Tonight ドント・ゴー・アウト・トゥナイト
10. Never Thought I'd See You Again ネヴァー・ソート・アイド・シー・ユー・アゲイン
11. Live Another Day リヴ・アナザー・デイ(日本盤ボーナス・トラック)
12. Peace In Our Time ピース・イン・アワ・タイム

KICP-91370