安藤裕子
『THE BEST '03〜'09』

〜孤独感、そして生への願い〜 (2009/04/15)

 安藤裕子の魅力は「やり場のない孤独感」だ。
 ベスト盤で初めて彼女の音楽と言葉に接して、直感的にそう思った。それから歌詞を読むと自分に向けた散文詩的なものが多いことに気付かされ、初回限定のブックレットを読むと太宰治的な感性を受け取った。DVD付きなのでビデオ・クリップを見ると意外なほど無邪気な振る舞いをしていたが、笑顔は余りない。あってもどこか不自然だ。ブックレットで「笑顔が苦手」と綴っているので、感情を表に現すのが苦手なのだと思われる。それはひとりで泣き通したエピソードなどからも類推される。
 しかし、その孤独感こそが、彼女を形成している無機質な有機体であるのだ。
 エネルギーに溢れた詩を書くのは簡単だ。逆にシュルレアリスティックなものは小手先で書ける。しかし安藤の詩は、生きている。鬱々としながら、真逆、生命力に溢れている。騒ぎ立てたり先導(扇動)するのではなく、ささやかで小さな希望に向かってひとりで歩いていくようなもの。そこには、「生きたい」という願望が詰め込まれている。

「でも生きていたいの 誰かに伝えていたいの」(忘れものの森)

 不器用なのだろうな、と思う。
 それは逆に言えば、自分に正直であるということ。前に太宰を挙げたが、安藤が太宰を読んでいたかどうかは知らないものの、彼に近い感受性を直感する。
 自分がうまく表現できない。
 表現するにはいっそ、道化になればいい。
 安藤の詩は、かくも哲学的だ。単なる歌詞として聞き飛ばしては(読み棄てては)いけない気がする。そこには他の「表現者モドキ」のような取り繕った感はなく。硬い何層にもなったミルフィーユ。切って初めてわかる樹の年輪。殻を破ればどろりと流れてしまう卵。深く厚く、しかし中にはやわらかい「あたたかさ」に満ちた詩の世界がある。

 それではサウンドはどうなのか。
 多くの曲にピアノが用いられ、またストリングスも多用されているので、素朴ながら完成された感を受ける。簡単に言ってしまえば声質はLitaの積しのに似ており、歌唱法はCHARA、音楽性は初期のBonnie Pinkのアコースティック楽曲に近い。
 だけどそんな簡単なものじゃない。
 ラウンジ・ミュージックのように、安藤の曲は「自然に」存在する。空間を捏造するのではなく、曲そのものが空間になってしまう感じ。空気感。
 様々な意味で、空気のような人だ。なくても構わない筈なのに、あると寧ろ邪魔にもなるのに、なくてはならないもの。
 しかし本人は、他者の介在を望んでいないように思われる。歌詞やビデオ・クリップの表情を見ると、最終的には自分しか見ていないという自我の強さを感じる。宇宙は自己のなかにある。その内的宇宙を外に表現するため、安藤は歌う。歌い続ける。安藤にとっては、「表現」も生理現象ぐらいに「自然」なのだ。川上未映子の感性に近いものを感じた。
 だが所属レコード会社がエイベックスであるため、本作や過去作には幾つも仕様があり、またPV集がリリースされていたにもかかわらず本作にDVDが付いたりと、会社側の金儲けの手段になってしまっている感は否めない。過去作を聴いてみたいと思ったが、そういった事情が見えて少し萎えてしまった。安藤には、不便な安定よりも便利な不安定を選んでほしいと思った。結果的に利用されてしまっているのは惜しいことだ。

 それでも手記を読んで、ほろりと、泣いてしまった。
 この人のファルセットは、大好きだ。


THE BEST '03'〜09
1. のうぜんかつら(リプライズ)
2. パラレル
3. サリー
4. ドラマチックレコード
5. 忘れものの森
6. あなたと私にできる事
7. TEXAS
8. 海原の月
9. The Still Steel Down
10. Lost child,
11. 唄い前夜
12. 隣人に光が差すとき
13. 聖者の行進
14. はじまりの唄
<DVD>
1. サリー
2. ドラマチックレコード
3. 忘れものの森
4. 水色の調べ
5. 隣人に光が差すとき
6. あなたと私にできる事
7. Lost child,
8. さみしがり屋の言葉達
9. のうぜんかつら(リプライズ)
10. TEXAS
11. The Still Steel Down
12. 唄い前夜
13. 海原の月
14. パラレル
15. HAPPY
16. はじまりの唄

(CTCR-14627/B)