BUCK-TICK
『memento mori』

〜文芸的な傑作〜 (2009/02/17)

 BUCK-TICKの新作は、大々的に宣伝されている。メンバーもメーカーもそれほどの自信作であり、傑作であるのだと思っているのだろう。現に聴いてみると、実に素晴らしい内容だった。
 タイトルの「メメント・モリ」とは「『死を忘れるな』の意だが、逆に生きること、今を大事にという意味を込めて」名付けられたという。現に表題曲「Mement mori」(こちらは「M」が大文字)には「REMEMBER TO DIE」という一節がある。そういった姿勢がどの曲の歌詞にも反映されている。
 初回限定盤のみSHM-CD(通常のプレイヤーでも再生できる、音質が向上したCD)仕様で、レコーディング・ドキュメンタリーを収録したDVD付きスペシャル・パッケージ仕様。

 いきなり「真っ赤な夜-Bloody-」が炸裂し、アルバムの世界にグイグイと引き込まれてしまう。「赤」「雨」といった言葉が連発され、そこへきてここのヴァージョン名は「Bloody」。そうか、「真っ赤な夜」とは「血に染まった夜」のことだったのか、と納得させられる。疾走感溢れるナンバーで、冒頭によく解るがシングル・ヴァージョンに若干のリミックスが施されている。
 続く「Les Enfants Terribles」は今井による歌詞で、コクトーの『恐るべき子供たち』を意識しているようだ。「イケないNO NO BOY」なんて、デビュー直後のレア曲のタイトルを用いた歌詞は自嘲するようで皮肉っぽい。鋭いリフが執拗に繰り返され、時折今井も歌う。転じて透明感のあるギター・ソロも印象的。
 シングル曲の「GALAXY」は、B-T流ポップ・ナンバーの極致。B-Tの癖に(笑)ポップにハジけるのは、ダーク路線になってからも初期からのポップ性を保ち続けてきたことの証だ。「命キラキラ」など歌詞の端々から突き抜けた感を受ける。初心者には最も馴染みやすい曲になるだろう。シングルと同ヴァージョンのようだ。
 印象的なリフから始まる「アンブレラ」も今井による作詞。堕天使がイカロス気取りで太陽に向かっていく歌詞には、またも「雨」が登場する。ストレートながらトリッキーな面もある曲で、奇妙なリズムが癖になる。もはやB-Tには「ヴァース、ブリッジ、コーラス」という定型的な歌は嵌まらない。
 ドライヴする「勝手にしやがれ」は星野曲。ゴダールの同名の映画を意識しているのだろうか、「そう私は生きているのさ」「ダイアモンド ただの石ころさ」などと印象的な歌詞。間奏部分はギター・ソロの後に同じオルガン・リフが繰り返されるもので、短いが癖になる曲。
 一転してアコースティックな「Coyote」は、よく読むと哀しい歌詞のB-T流バラード。自殺による愛の別れを描いているようだ。ある本に「天気が良かったから自殺した」というものがあったが、この曲でも夕日の美しさが語られている。そんなものだろう。そして愛を棄ててでも選ぶほど、死とは絶対的なものなのだろう。
 穏やかなピアノによるアコースティックな「Message」は星野曲。すべては幻であるとして、それでも歌い続け、純愛を貫く歌詞は本作中最も普遍的で愛すべきものだ。小粒だが、やさしく沁み込むような秀逸曲。美しい曲で、純粋に「音」を楽しめる。
 ファンの間で「沖縄民謡」と呼ばれてきた表題曲の「Memento mori」は今井によるもので、ヴォーカル・ラインやメロディに若干だが沖縄音階を使用している。しかしそこはB-T。単純に沖縄風にするなんて幼稚なことはしない。土着的なフレーズが展開するので、奮い立つこと間違いなし。「LOVE AND DEATH 愛と死 出会いと別れ」という歌詞に、本作の作風すべてが集約されていると言えるだろう。「人生は愛と死」という、本作の最大のキィ・ワードも込められている。
 攻撃的なイントロで始まる「Jonathan Jet-Coaster」は発売前から評価が高く、別名で「かもめのジョナサン」と呼ばれていたもの。さながら「かもめのジョナサン」をステルス戦闘機に喩えたような歌詞には「I hope to die」という、死を望むものが出てくる。死は必然であり絶対的なものであることを何気なく示しているのだ。B-Tらしい鋭角的なナンバーで、ギターがリフからソロから、どれも恰好いい。
 グルーヴィな「スズメバチ」は、今井による「突き刺す」などを多用した歌詞で、まさにセックスを歌ったものらしく刺激的。カタカナが多いのがB-Tらしい。というより「らしさ」を意図しているのだろう。
 続く「Lullaby-III」は『十三階は月光』のインスト曲「Lullaby II」が進化して歌詞も付いたような感触を受ける。実際ゴシックな音作りで、デカダンな歌詞が味わい深い。「流れ出すROMANCE」という歌詞は、やはり『十三階は月光』を意識したのだろうか。
 転じて「MOTEL 13」は星野曲。「お前は誰だっけ?」と言ってしまうような女をモーテルに連れ込んで愛してしまうという歌詞は、愛の刹那性を語ったものと言えるかも知れない。
 シングル・ヴァージョンを若干リミックスした「セレナーデ -愛しのアンブレラ-Sweety-」は、今井の歌詞によく出てくる少年的な愛の形が曲調とマッチして微笑ましい。しかし「恋は幻」と再び恋愛の刹那性を歌っているのは、刹那的な表現をよく世に出すB-Tらしさと言えるだろうか。
 ギターのカッティングから始まる「天使は誰だ」も今井作詞。冒頭から「嘆きのリボルバー」と前作とのリンクを思わせるが、ここではジョン・レノンの命を奪ったリボルバーを歌っている。愛の果てに命を奪ってしまうという暗喩が施されているのが皮肉っぽい。軽快なロック・チューンといった出来で、最後までテンポがいい。
 ラストを飾るのは、雄大な「HEAVEN」。「天国」というタイトルとは裏腹に、この世界の美しさ、生きることの悦びを歌った素晴らしい傑作曲。「生きよう、生き抜こう、そして恋をしよう」というメッセージが切々と歌われる。壮大なスケールの楽曲で、シングル曲の中では群を抜く完成された世界観。「その目がCRAZYでLOVELY BLUE BLUE SKY」なんていう癖になる歌詞は櫻井とB-Tでなければ出てこない。赤と白のカーネイションは暗喩であると思われるので、花言葉を調べてみるといい。ヴァージョン表記はないが、エンディングがエクステンドされて尾を引くように終わる。

 前作『天使のリボルバー』は若干惰性で作られたような曲もあったが、本作にはそれがまるでない。どの曲もアルバムを貫く「LOVE AND DEATH」を表現した、刹那的で絶対的な存在感を放っている。B-T初心者にも薦められる親しみやすさと、コアなファンも納得できる深い世界観が凝縮されている。
 断言しよう。本作は邦楽界に於ける今年の最重要アルバムだ! これを聴かずしてロックを語るなかれ。


Memento mori
1. 真っ赤な夜-Bloody-
2. Les Enfants Terribles
3. GALAXY
4. アンブレラ
5. 勝手にしやがれ
6. Coyote
7. Message
8. Memento mori
9. Jonathan Jet-Coaster
10. スズメバチ
11. Lullaby-III
12. MOTEL 13
13. セレナーデ -愛しのアンブレラ-Sweety-
14. 天使は誰だ
15. HEAVEN

(BVCR-17074 〜 5)