SION
『Naked Tracks〜光へ〜』

〜SIONの「核」〜 (2008/11/20)

 SIONの新作に、ハマっている。1週間ずっと、本作『Naked Tracks〜光へ〜』をステレオにセットしたままになっている。
 そのSIONの新作は「新しいアルバムが出る時、いっしょに俺のデモテープというか、ひとりでやってるのも出せたらなあと、馬鹿な事を前から思ったりしたことがありました」という彼の指針に基づいた、デモ曲集のようなものとなった。『20th milestone』から1曲、『住人〜Jyunin〜』から4曲をシンプルにアレンジし、新曲8曲を加えるという新譜とも編集盤ともとれる内容。ヴォーカルはもちろん、ギターやキーボードなど、すべての演奏はSIONひとりによるもので、それゆえゴテゴテしないシンプルな出来となっている。

 冒頭の、街の喧騒をイントロとエンディングに据え置いた「住人」はオリジナルよりうんと短く、ギターのみの演奏で、アルバムのイントロ的な存在になっている。
 続く「どけ、終わりの足音なら」は本作唯一のエレクトリック・ギター(しかし激しいものではない)が主となり、随所にハーモニカが挟まれた仕上がり。オリジナルより数段シンプルで、SIONの声が響いてくる。
 ギターのみの3曲目の「暦」は新曲。過ぎていく日々を歌い、その中で自分の父親を尊敬している描写を挟んだ感動的な詞が秀逸。個人的に、私の父親がとうに定年退職してなおかつ闘病中なので、「船を降りた俺の親父は うまく陸を歩けなかった」「雨に打たれ 日に焼けて それでも黙々と生きたあなたになりたい」といった歌詞は胸を打った。父親の背中を見て育つ男なら、特別な感慨を抱くだろう秀逸曲。
 4曲目の「なるようにしかならないが」も新曲。短いハーモニカと爪弾かれるギターをメインに構成された曲で、「膝で眠る猫に聞く おまえも寂しくなったりするんか」「生きることは楽しいけど 生きることは寂しいな」という歌詞が無常観と生への執着を語っている。「なるようにしかならないが まだじたばたはやめないぜ」という部分からもそれが聴き取れる。時折挟まれるSIONの「……はぁっ」という息遣いが生々しくて良い。
 イントロとエンディングをテープ・コラージュ(「駄目だ、駄目だ……」と言っている?)に挟まれた5曲目の「ジョニーデップ以外は」はオリジナルに較べて短く、本作での「住人」にも似た感じを受ける。透明なギターとキーボードのガラスのような音だけのシンプルな演奏は、オリジナルよりダイレクトにメッセージが伝わってくる。
 6曲目の「Hallelujah」は豪華なイメージがあったオリジナルに較べ、ギターだけになり随分とシンプルにアレンジされている。コーラスの「ハレルヤ」もSIONが唸るように歌っている。
 7曲目の「karan」は新曲。ポロリポロリと弾かれるキーボードで始まり、ギターの弾き語りに移行する。寄り添い合ったふたりを描いた、質素ながら深みある隠れラヴ・ソング。全体的に穏やかな本作中、最も穏やかな曲でもある。
 8曲目の「いつか海を見て」も新曲。ギターと少しのハーモニカのみのシンプルな曲で、海への憧憬が切々と歌われる。そういう意味では「暦」とあわせて聴くと感慨も深まるかも知れない。
 9曲目の「Slide」も新曲。生まれた街より今の暮らしの方が長くなった、懐かしい景色は記憶から薄らいでいってセピア色に染まる、といった歌詞は本作のジャケットを象徴している。今と未来との間をスライドする、という「今のSION」が聴ける曲。ギターに混じってアコーディオンらしい音も鳴り響く。
 10曲目の「宝物」も新曲。自分の宝物の価値を問う歌詞は、その宝物というものは宝石やおもちゃではなく、人との繋がりのようなものだと感じさせる。「面白くなるのはこれからさ」というところに、前進するSIONが見える。コーラスの声は一聴すると「誰だ?」と思ってしまうが、やはりSIONによるもの(ブログで「俺、ボーイ・ソプラノっすから」と冗談めかして発言していた)。
 11曲目の「表に」も新曲。最も短くシンプルな曲だが、静寂の中SIONのしゃがれ声が響く、刹那くなる曲。勇気を履いて表に送り出せ、という歌詞が背中を押してくれる。
 新曲に挟まれた、実質的なタイトル曲となった12曲目の「光へ」は、やはりオリジナルより断然シンプルなギターとハーモニカだけのアレンジ。生きる力を描いたこの曲は、アルバム・タイトルになるだけあって、メッセージ性が強く感じられる。生きることの力強さを光という象徴に託した秀逸曲だ。
 最終曲の新曲「磨りガラス越しのオレンジ」は印象的なギター・フレーズとハミングから始まる、磨りガラス越しの朝の様子を描いた素朴な曲。どんな朝日よりおまえといる朝が好きだ、というSIONの声が優しく、心に沁みる。そうして優しく、本作は終わりを迎え、しかしリピート再生される……。

 本作は、SIONの「核」となるヴォーカルが生きていて、シンプルなためリアルでダイレクトな肌触り。ネット通販とライヴ会場のみでの販売というのが惜しいぐらい、秀逸な内容だ。
「なにしろひとりでのレコーディング。『MOGAMI』も『ひっかき楽団』もいない。俺がみんなみたいに凄い演奏ができるわけはない。だがしかし、チープであろうが裸であろうが、俺は唄ができた時の喜びや力を信じてたりもするのです。そして今、それをする必要があったのでした」
 とは本作に寄せられたSIONのコメント。確かに、バンドのような勢いのある演奏ではないが、逆に質素な分、メッセージ性が強く出ており、SIONの魅力が十二分に発揮されている。パーソナルな感じを受ける、宅録にも似たソフトな手触り。SIONの「らしさ」を最も具現化している作品と言えるだろう。耳もとで、SIONが優しく子守唄を歌ってくれているような、ささやかながら嬉しい作品。
 SIONファンはもちろんのこと、「SIONってどんな歌をうたう人なんだろう」と思っている方にも、本作はお薦め。フォーキーなSIONの表現の奥底を感じられる、繰り返し味わうごとに味わいが深くなる逸品。本作で、SIONの「核」に触れることができるだろう。


Naked Tracks〜光へ〜
1. 住人
2. どけ、終わりの足音なら
3.
4. なるようにしかならないが
5. ジョニーデップ以外は
6. Hallelujah
7. karan
8. いつか海を見て
9. Slide
10. 宝物
11. 表に
12. 光へ
13. 磨りガラス越しのオレンジ

(SION-0001 / GCA-1022)