マイケル・キスク
『パスト・イン・ディファレント・ウェイズ』

〜「リアル」なキスクの今〜 (2008/09/15)

 4ヶ月ほど購入が遅れてしまったが、まだ新作なのでここに筆を下ろそうかと思う。
 マイケル・キスクの新作、それは意外なことに、ハロウィン時代の楽曲のセルフ・カヴァーだった。アコースティック・アレンジでの再録音というところが今のキスクらしいが、それにしても今にして過去を振り返るというのはどういうことだろう? と少し考えあぐねてしまった。しかし、聴いてみてすぐに、これは単なる回顧作ではなく、過去の虚像を打ち破り、新たなる指針を示唆したものなのだと理解した。
 ハロウィン時代の楽曲をセルフ・カヴァーする、というのはキスク自身のアイディアではなかったらしく、当初はキスクも「そんなことに意味があるのか」と反対したそうだが、結局、彼の過去を見詰めることで新たなる指針を打ち出すことになる。それは、装飾された過去ではなく、リアルな「今」。アコースティック・アレンジというのはキスク自身の作風の変化であり、現在の基本指針であり、そして曲を、詞を、リアルに伝える実際的な手法だ。過去を払拭するのではなく、乗り越えることで、キスクは成長しようとしている。
 ホーンやストリングスを除いて、基本的にはキスクとその友人達による4人組のバンドとして録音されている。さながら前作『キスク』のような、その延長上にあるものだ。その演奏は曲の「核」をまざまざと見せ付けた仕上がりで、装飾による見せかけではなく、リアルに胸を打つ。本作の核心は、曲の「リアル」な伝え方にある。前作でその手応えを得たのだろうか、本作もアコースティックな調べが染み渡る。
 通して聴くと、「ユー・オールウェイズ・ウォーク・アローン」「ユア・ターン」「イン・ザ・ナイト」といった、アルバムでは比較的目立たなかった楽曲が脚光を浴びているのがまず解る。『ピンク・バブルズ・ゴー・エイプ』からの曲が意外と多く、いまいちな評価だった楽曲の再評価を願っているようにも思える。特に「キッズ・オブ・ザ・センチュリー」のアコースティック・アレンジは意外だが、マッチする。『カメレオン』からの曲は他の曲よりアレンジが少なく、特に「ロンギング」は原曲そのままに等しい。だが「ホエン・ザ・シナー」などはドライヴ感のあった原曲からうまくアレンジされている。「アイ・ビリーヴ」は相変わらずの荘厳さで耳を引く。『守護神伝』からの曲が少ないのは、キスク自身それほどソングライティングに携わっていなかった(当時弱冠18歳なのだし)のと、誇大妄想的に膨れ上がったその評価を今にして問うのではなく、それよりもリアルな自分を見てほしいという欲求が現れているのだろう。だからこそ、本作は「マイケル・キスク作」による楽曲しか収録していない。等身大のキスクを見詰め直す、そのために本作がある。
 ハロウィンの曲なのだから、アコースティック・アレンジとはいえ、久々にハイ・トーン・ヴォイスを聴かせてくれる箇所もある。それが過去のファンを惹き付ける点になるかも知れないが、寧ろ、ハイ・トーン・ヴォイスではない、ナチュラルな歌声にこそキスクの「リアル」を感じる。それと同時に、メタル・シーンへのカム・バックを完全に断ったという印象を受ける。メタルで知られるハロウィンの曲を、非メタルでカヴァーしたのだから、それは自然と「メタル・シーンへのカム・バックへの拒否」を意味する。未だメタル畑で語られがちなキスクだが、それを本作で完全に断っているのだ。いちロック・ミュージシャンとして、いや、いちミュージシャンとして、自分を見てほしいというメッセージが本作には込められている。
『パスト・イン・ディファレント・ウェイズ』
「違う手段で表現された過去」
 キスクは、忌み嫌ってきた過去というものに今、対峙することができるようになった。そして今の、リアルな力でそれを覆い尽くすことができるようになった。その証が本作であり、ハロウィン時代の楽曲を演奏しても苦ではなくなったことだ。
 これから、十年余のブランクを経て、ライヴを行いたいというキスク。そこでは、キスクの「リアルな姿」が醸し出されることだろう。過去の亡霊に悩まされることなく、新たな道を踏み出したキスクに、喝采をあげたい。


PAST IN DIFFERENT WAYS パスト・イン・ディファレント・ウェイズ
1. You Always Walk Alone ユー・オールウェイズ・ウォーク・アローン
2. We Got That Right ウィー・ゴット・ザ・ライト
3. I Believe アイ・ビリーヴ
4. Longing ロンギング
5. Your Turn ユア・ターン
6. Kids of the Century キッズ・オブ・ザ・センチュリー
7. In the Night イン・ザ・ナイト
8. Going Home ゴーイング・ホーム
9. A Little Time ア・リトル・タイム
10. When the Sinner ホエン・ザ・シナー
11. Different Ways ディファレント・ウェイズ
<日本盤ボーナス・トラック>
12. How The Web Was Woven ハウ・ザ・ウェブ・ワズ・ウォウヴン

(KICP-1309)