エクストリーム
『サウダージ・デ・ロック』
〜ファンク・メタル復活〜 (2008/08/20)

コアなファンを持つアメリカン・ロック・バンド、エクストリームが復活した。
約13年振りとなるニュー・アルバムでは、ヴァン・ヘイレンに引き抜かれたヴォーカル、ゲイリー・シェロンに、ソロで活動していた超絶ギタリスト、ヌーノ・ベッテンコート、結成初期からボトムを支えるベース、パット・バジャー、という3人のオリジナル・メンバーに加え、ヌーノのソロ・プロジェクトに参加したケヴィン・フィグェリドがドラムに加入。解散後にゲイリーとヌーノがライヴ・イヴェントで再会し、何度かエクストリーム名義でライヴ活動を行ったことから再結成の話ができていったようだ。2003年に再会を果たしてから、オリジナル・メンバーでのライヴもあったという。
ファーストではその力量を見せ、セカンドが名作となり、佳曲がありながらもコンセプトありきになって多少まとまりに欠けたサードから失速、4作目ではメンバー交代もありスカスカになってしまったエクストリームだが、5作目となる本作では、彼らの基本方針である「ファンク・メタル」がまた牙を剥いた。それでいて新しい挑戦も見せている、復活作であり挑戦作と言えるだろう。
冒頭の「スター」はアカペラで突然始まり、コーラスをまじえたヘヴィなリフに移行する。その様は、彼らのルーツのひとつにクイーンがあることを思わせる。流麗なアルバムの切り出しだ。続く「コンフォタブリィ・ダム」はファンに対する最高のサーヴィス。「ファンク・メタル」を体現したヘヴィでダンサブル、さらにヌーノのコーラスも入るこの曲は、エクストリーム健在をまざまざと見せ付けてくれる。今後のライヴで盛り上がる曲になるだろう。まさか曲名はピンク・フロイドの名曲「コンフォタブリー・ナム」からのもじりだろうか? 新加入のケヴィンのドラム・ワークも秀逸だ。リズミカルなギター・リフから始まる3曲目「ラーン・トゥ・ラヴ」はゲイリーの伸びやかな歌声が堪能できる。相変わらず早弾きを得意とするヌーノのソロも、唸るパットのベースも勇ましい。カントリー調の4曲目「テイク・アス・アライヴ」では彼らの新しい姿が見られる。カントリーを下地としていながら、疾走するエクストリーム節になっている。5曲目の「ラン」は若干4作目を思わせるシンプルな作風。しかしリフが図太くファンキーで、コーラス・ワークやギター・ソロもしっかりしている。6曲目の「ラスト・アワー」は歌詞が素晴らしい。無情の愛をうたうバラードで、そこはかとなく悲哀がこもっている。エクストリームの新しい側面を見せる1曲と言えるだろう。再びリズミカルな7曲目の「フラワー・マン」は、やはりファンキーで初期の作風を思わせながらも、向上したチーム・ワークが感じられる。8曲目の「キング・オヴ・ザ・レイディーズ」はラップ調のヴォーカルとコーラスが淡々としたリズムに乗る、新たな試みを見せた曲。ピアノの旋律が鳴り響く9曲目は、ほんのりとサードの後半らしい雰囲気が漂う「ゴースト」。歌詞にある頭の中にいるゴーストとは、昔のエクストリーム像ではないだろうか。憂愁で耽美的なバラードに過去からの脱却が垣間見られる。転じて10曲目の「スライド」はまたもファンクにくねる、シンプルな骨子の見える曲だ。この曲と「サンライズ」ではケヴィンも曲作りに参加している。11曲目「インターフェイス」は、ヌーノが組んだバンド、ドラマゴッズの曲。それをエクストリーム流にアレンジし直したもの。よって唯一作詞がゲイリーではなくヌーノのもので、ヌーノもコーラスで大いに声を聴かせてくれる。本作3曲目のバラードで、透き通ったギターが味わえる佳曲。12曲目の「サンライズ」はまたもシンプルかつファンキーな曲。さすがにここまで続くと、少し食傷気味になるかも? 実質最終曲の、13曲目「ピース
(サウダージ)」は本作の中核と言うべき曲。ブランクを設けてあり、この曲に集中してほしいという意思が見えるかのようだ。ピアノを軸とした楽曲に乗る抽象的で「祈り」を捧げる歌詞が意味深。淡々とした演奏に泣くようなギター・ソロが重なる様がアルバムの最後に相応しく、ファンクに冒された耳を浄化してくれる。14曲目にボーナス収録された「ミスター・ベイツ」の1986年デモは、おまけと考えたい。ファーストのリリース前のデモ音源なので、本作と一緒に聴くと浮いてしまう。できればオーディオのプログラム機能を使って13曲目までをリピートで聴きたいところだ。だが、彼らの標榜する「ファンク・メタル」のルーツを知りたい方には、重要な資料となるだろう。
こうした全曲は、殆どの曲を4人だけで演奏しているようで、ホーン・セクションなどは使わず、キーボードの音も少なめで、ライヴ感のある仕上がりになっている。サードほど作り込んだものではなく、セカンドほど緻密にできていない。空気感は似ているものの4作目ほどスカスカではないが、骨子に重きを置いているあたりは近く、またファンク要素が強いのでファーストが好きな方にも向いているのではないだろうか。しかし、その路線を単純に踏襲したわけではなく「大人になった」音楽を聴かせてくれる。
音楽的に際立った活躍をしているのはやはりヌーノだが、ヌーノのソロ・プロジェクトとは決定的に何かが違う。それがゲイリーのヴォーカルだ。何よりヌーノの曲にはゲイリーの声が合う。ただ強いて言えば、名作『ポルノグラフィティ』のような突き抜けたキャッチーさがない。曲が小粒というか、ここから代表曲のようなものはなかなか選べない。しかし、そんなことはファンの我儘だ。彼ら、特にヌーノはその方向性を敢えて避けているようなきらいもある。ヌーノの解散後に築いてきた音楽と近しいものを感じる。そこに、ゲイリーの声が乗るのだ。それだけでもう、エクストリーム。今の彼らの目指す音楽は過去にはない。
アルバムのタイトルにある“saudade”とは、過ぎ去ったものを懐かしむ気持ちで「郷愁」に似ているが、それに二度と出会うことはないだろうという諦めや宿命を含意しているポルトガル語。そう、彼らは「ファンク・メタル」を大切に自分のスタイルとして踏襲しながら、それだけじゃないという再結成の決意のようなものをこの作品で示している。
新生エクストリームは、今後大規模なツアーを行うという。そこでまた、彼らとそのファンが成長するのが楽しみだ。
……と、期待に胸膨らませるような結句を書いたが、どうにもしっくり来ない。
13年のブランクを経て大復活、という期待に、本作は耐えられているのだろうか?
前述したが、まず楽曲が小粒で抜きん出たものがない。せいぜい冒頭の2曲ぐらいだろうか。あとは平坦なバラードやワン・パターンになってしまったノリ先行のファンク・メタルが続くのみ。決して、高いレヴェルの作品とは言えない。水準には達しているかも知れないが、傑作の類ではない。それは作風が4作目を踏襲したようなシンプルな曲作りにあることも影響している。サードのように凝った構成なら聴き応えがあったし、セカンドのような装飾されながらも自己流を逸脱していない名作を目指していたら、こんな苦言は呈していない筈だ。それこそ初期衝動に身を任せたファーストの方が潔かったかも知れない。
なぜ作風を4作目に準ずる作風にしたのだろう? それは、音楽的変遷からは自然かも知れない。しかし、このままでは次作はもっとスカスカになってしまう。いっそ、豪奢なストリングスや効果音、ホーン・セクションなどを招いてやりたいことをやり尽くしてしまえばいいのだ。
本作からエクストリームを聴き始めた方、悪いことは言わない、『ポルノグラフィティ』を一度でもいいから聴いてみてほしい。作り込まれたその完成度は本作の比ではない。彼らの代表作たらしめる素晴らしい作品であり、ゲイリーが「ゴースト」で払拭しようとした過去の虚像だ。
決して、過去の作風を持出して景気のいい曲ばかり作ってくれ、と言うのではない。ただ、余りにも渋過ぎる。これでは過去からの熱狂的なファンが支持するだけで、新規ファンは求められない。ファンの求めるエクストリーム像と現実のエクストリーム像との乖離が始まっている。いや、それは正確には4作目から始まっていた。エクストリームは成功以来、試行錯誤を重ねてきたのだろう。そうして、シンプルでありながらファンク・メタルを継ぐ曲を作るようになったのだろう。
看板のヌーノも、ギターを盛んに弾いてはいるが、余り芳しい活躍ではない。ギター・ソロは何度もあるが、やや即興的な、深く考えられたものではない。だがゲイリーの歌詞は、やや一方的だった以前より良くなっている。パットとケヴィンは意外と貢献しているが、曲が凡庸なものが多いので雰囲気をファンキーにするために存在しているような感じだ。
エクストリームに過去の亡霊を求めてはいけない。
しかし、本作を「入魂の復活作」と呼ぶことはできない。
聴き込めば、印象も変わるのだろう。だが私は、10回ほど聴いて同じ感想を抱いた。
「大丈夫か? エクストリーム」
ライヴ・ツアーが成功し、創作意欲が増して再び傑作曲を連発してくれるようなバンドになってほしい。それが個人観的な、しかし率直な言葉である。
| SAUDADES DE ROCK | サウダージ・デ・ロック | |
| 1. | Star | スター |
| 2. | Comfortably Dumb | コンフォタブリィ・ダム |
| 3. | Learn To Love | ラーン・トゥ・ラヴ |
| 4. | Take Us Alive | テイク・アス・アライヴ |
| 5. | Run | ラン |
| 6. | Last Hour | ラスト・アワー |
| 7. | Flower Man | フラワー・マン |
| 8. | King Of The Ladies | キング・オヴ・ザ・レイディーズ |
| 9. | Ghost | ゴースト |
| 10. | Slide | スライド |
| 11. | Interface | インターフェイス |
| 12. | Sunrise | サンライズ |
| 13. | Peace (Saudade) | ピース(サウダージ) |
| <日本盤ボーナス・トラック> | ||
| 14. | Mr.Bates (1986 Demo) | ミスター・ベイツ(1986 デモ) |
(VICP-64384)