ryotaro
『jelly, nico & i』

〜幻想的なサウンドトラック〜 (2008/08/07)

「幻想的」。
 これが、本作を表すに相応しい言葉ではないだろうか。
 いきなり琴線に触れるオープニングから、エンディングまで、一環として心地好い鍵盤のインストゥルメンタル・ナンバーが紡がれる。ヴォーカル曲もあるが、その「声」もいち楽器として響いている。
 そんなelementsのアコーディオニスト、ryotaroのソロ作品が世に出た。主な収録楽曲は数年前に制作された彼が主演する映画『jellyfish』のサントラ(1、4、5、6、8、10,11)で、数曲を追加収録した内容になっているのだが、音楽は古びていない。寧ろ、当時の音楽が移り変わろうとするのを実感できる良盤である。

 オープニングを飾る「jellyfish opening」は、クリスタル・ガラスが共鳴し合うような、美しく儚い響き。いきなり、アルバムの幻想世界に惹き込まれてしまう。
 続く「tsumetai asa」は短いリズムが加わり、時折呻き声のようなヴォーカルが乗るポスト・ロック的ナンバー。elementsの進化形態を思わせる。
 3曲目の「chiapulin drops」ではワルツに転じる。ここにきてキーボードがさらに活躍し、打ち込みも重なり、幽玄の世界を紡ぎ出している。だが決して暗くなく、フェリーニの映画のような映像を喚起させるふわふわとした不思議な感覚。後半には待ってました! とばかりにアコーディオンが流麗に鳴り響く。キーボード群も操るが、やはりryotaroといえばアコーディオン。ここでリスナーはグイッと彼の音楽世界に傾倒することになるだろう。
 4曲目の「siegel #1」では、エレクトリック・ピアノが淡々とテーマを弾くようにこだまする。そこに近未来的なシンセ・ノイズが重なり、不可思議なマッチ感を味わさせる。
 続く「siegel #2」では前曲と同じ旋律を用いながらもアコーディオンにアレンジし、ギターが動的にコラージュされている。さながらバンド・ヴァージョンといった仕上がりだ。サーカス小屋の一幕を思わせる響きに、一抹の安堵感と恐怖感を覚える。これから何が行われるのだろう、そんな不安にさえ駆り立てられる。
 6曲目の「kohyane se」では再びポスト・ロック然とした姿になり、ギターと打ち込みが動的に響く。妖艶なHyagnghaのヴォーカルも乗り、どこか中近東の祭礼的雰囲気を思わせる。アコーディオンも鳴りまくり。本作のトータル的な雰囲気をよく表しており、アルバムの中核的な曲と言えるかも知れない。
 7曲目「orgod」はモールス信号のような音色から始まり、シンセ音が重なっていくポスト・ロック。本作はelements活動中に制作された映画のサントラなので、本作は彼らがポスト・ロック的なスタンスをとった時の産物かも知れない。だが他の曲より長く、自信のほどを窺える。
 8曲目「short dream」は名の如きショート・ナンバー。遠くから鐘の音のような響きが鳴るところから始まり、暗雲のようなシンセ・ノイズが被さっていく。
 9曲目「white」はストリングスの悲壮的な響きからアコーディオンが重なっていき、重なり合って、緊張感を保ったまま激しくアコーディオンが響きわたり、すべてを白に覆い尽くしてしまうように無に還る。本作中最も、アコーディオンを堪能できる1曲である。曲の長さも6分超と、気合が入っている。
 10曲目「jelly-f26」は映画タイトルでもある主題の「jellyfish」にまつわる重大な楽曲。クラシックのような優しい調べがアコーディオンと重なって、たゆたうような優しい調べに導いてくれる。ラストは荘厳に終わる。
 エンディングの「jellyfish ending」は「jellyfish opening」の旋律を刻み始め、やがてヴォーカルが乗っていく展開になっているアルバムのコーダ楽曲だが、Nadia Porcarによるヴォーカルが優しく、包み込むように曲をリードする。ギターや打ち込みも嫌らしくない。そして世界は、リプライズするかのようにアコーディオンの優しい旋律に彩られていく……。

 本作は、決して精神を高揚させるようなものではない。
 寧ろ、鎮静作用のある、スリーピング・ミュージックや、リラックスのための音楽である。かといって、全編穏やかなヒーリングのような安直なものではない。elementsの活動中にryotaroは本作の大半を完成させていたというが、満を持しての発表、といった感じである。
 願わくば、ライヴ会場限定発売の本作が、少しでも多くの人の手に渡るように。傑作と言うには作り込まれていながらまだ少し荒削りな感があるが、完成度は高く、今後のryotaroのソロ活動に期待が持てる。
 elementsの休止を受けて、今はPICARESQUEやtRace elementsなどで活動しているryotaro。若き音楽家の道は、まだ第一歩を踏み出したばかりだ。


jelly, nico & i
1. jellyfish opening
2. tsumetai asa
3. chiapulin drops
4. siegel #1
5. siegel #2
6. kohyane se
7. orgod
8. short dream
9. white
10. jelly-f26
11. jellyfish ending

(NR 001)