SION
『20th milestone』
〜酒に似合うアルバム〜 (2007/08/22)

20作目のアルバムにして、『新宿の片隅で』以来となるインディーズからの作品発表。それも、「マイルストーン」を銘打っての力作。それが、本作『20th
milestone』である。
苦境に立たされた者がそれを脱する歌詞の「マイナスを脱ぎ捨てる」では、SIONは「痛くも痒くもない 問題ない これからさ」と歌っている。これはインディーズに戻ってしまったことを「どうってことないね」と言っているのではないだろうか。SIONにはメジャーもインディーも関係ない。ただそこに、歌う唄があるから歌うだけだ。そんな力まず、かといって脱力せず、丁度良い力具合で歌っている、天然のSIONが本作には詰まっている。
2曲目「Valentine」では純朴なヴァレンタイン・デイの思いを印象的なギター・フレーズに合わせて歌い、続く「Makers
Mark」では銘酒の誉れ高いバーボン「メーカーズ・マーク」を呑みながら追憶している情景が思い浮かぶ。ゆるいオルガンが酔いどれを表すようで心地好い。
4曲目「忘れられない人のひとりくらい」では、不意に思い出してしまう懐かしい人を「胸の中にあったっていいのさ」と語る。刻まれ、中間部では勇壮なソロも取るギターが小気味よい。「前へ」では、前へ進むべき時を迎えた迷える人を「今の暮らしを嘆いてる時間はない 悲しみに暮れている時じゃない」「今の自分を嘆いてる時間はない 諦めに甘えてる時じゃない」と励まし、「前へ 前へ 行け 一歩でも 一歩でも」と背中を押す。自分の力不足を感じているリスナーには励みになる曲だ。ここではブルース・ハープも吹かれる。
6曲目「わすれな草」はロマンティックな歌詞とメランコリックな曲調がマッチしている。そのうえで「君」を「きれいすぎた ただそっと咲いている君がいい」と慎みを呼ぶ歌詞がさりげなく胸を刺す。「どけ、終わりの足音なら」では障害となる「お前」に「どけ」と叫び、その前を歩くから、と男らしく「明日に用があるんだ」と勇壮に歩んでいく。リズミカルでエレクトリックなフレーズも耳に残る。
8曲目「それさえあれば」は生きるための「何か」を求めて、フライパンの上を歩いている、と表現する。それは生活のためだったり愛情のためだったり、目的は異なれど手段は同じ。ブギー調の曲調もどこか懐かしい。「笑顔」では「笑った顔がいいぜ お前の笑顔が一番いいぜ」と、何物にも代えがたい「笑顔」の尊さを歌う。アコーディオンが一段とメロウな雰囲気を醸し出す曲調も、本作中では特筆に値するだろう。
9曲目「元気はなくすなよ」は生き方を迷っている人には特に響く曲だろう。ここで踏ん張ったらおもしろい事があるような気がする、という歌詞が胸を打つ。そして「元気はなくさんさ お前も元気はなくすなよ」と訴えかける。本作中、最も優しく勇気付けられる曲だ。相変わらずメロウな曲調が心地好い。酒に合う一曲だ。最後の「2007」は2007年を淡々と過ごしている自分を眺めやり、「だけどいつもとは違う いつもとは違う思いで」毎日を過ごしている自分を見詰めている。ゆったりとした曲調も嫌味じゃない。こうして本作はフェイド・アウトの曲なしでしっとりと終わる。
総じて、酒の似合うアルバムだ。SIONの作品には大概酒が似合うが、本作は特に似合う。それは、それだけ本作が腰を据えて作られた作品であり、アコースティックな響きが優秀な作品であり、優秀な出来の作品であることの証明になりはしまいか。オビに打たれた「最高傑作」のコピーも、あながち嘘じゃない。
インディーズに戻りながらも、こうした傑作を生み出したSIONに、乾杯したい(メーカーズ・マークじゃなくてもいいからさ)。これからは、インディーズというある種自由度の高いフィールドでSIONなりの速度で歩んでいってもらいたい。
SIONと愛猫たまごに、そして天国のうりきちに、乾杯。
| 20th milestone | |
| 1. | マイナスを脱ぎ捨てる |
| 2. | Valentine |
| 3. | Makers Mark |
| 4. | 忘れられない人のひとりくらい |
| 5. | 前へ |
| 6. | わすれな草 |
| 7. | どけ、終わりの足音なら |
| 8. | それさえあれば |
| 9. | 笑顔 |
| 10. | 元気はなくすなよ |
| 11. | 2007 |
(UGCA-1016)