ブロンド・レッドヘッド
『23』

〜気怠く、憂鬱に、しかし現実的に〜 (2007/04/19)

 前作も前々作も、ついでに言ってしまえばその前の作品までも傑作続きだったブロンド・レッドヘッド。“MISERY IS A BUTTERFLY”以来となる3年振りの新作は、前作のネオ・ゴシック路線を踏襲か? と思えば、きわめてシンプルな音作りに徹しており、まったく手触りの違う作品になっていた。
 通算7作目のアルバム・タイトルは『23』。カズにとって、特別な番号(今まで部屋の番号や電話番号、住所の番号などに共通して「23」が含まれていたそうだ。因みに、このアルバムの規格番号まで「23」が含まれている!)を持ってきた野心作だ。
 ビデオ・クリップも制作された冒頭曲「23」は渦巻くようなサウンドにカズのヴォーカルが響く、表題曲にして傑作曲。清く汚れた「彼」に捧げた愛に満ちた歌詞が皮肉でもある。続く「ドクター・ストレンジラブ」は、カズが「ストレンジラブ博士」に呼びかけながら、まるで彼に恋しているかのように歌いかけるロック・ナンバー。「ザ・ドレス」は正体を隠すドレスをあばき、しかし「あなた」を愛しているという、カズの囁くようなヴォーカルが陰鬱に響く、後ろに響くギターがややミニマルな要素を持つ楽曲。ようやくアメデオが登場する「SW」は逃避願望をベッドに打ち付けている男を描く、ギター・リフ主体のナンバー。中間部では戯曲的なストリングスがフィーチュアされる。「スプリング・アンド・バイ・サマー・フォール」ではアメデオのヴォーカルが続く。意味深な、「嘘」と「きみ」と「季節の移ろい」を吟じた詩的な歌詞に、シンプルなギター・リフ主体の(シンセらしき音も入っている)楽曲。アメデオはファルセットも使いこなす。シモーネのドラミングがタイトだ。アルバム中でも甘く、明るい色彩を放つ「サイレントリー」ではカズが「愛しい人」を歌う純粋なラヴ・ソング。ブロンド・レッドヘッドにしては直球の(ひねりはもちろんあるが)歌詞が味わい深い。うら淋しいメロディに乗せてアメデオが淡々と歌う「パブリッシャー」には、父母に理解を求められない孤独な少年の様が歌詞に表れている。人工的なヴォイスから始まり、メランコリックな旋律を放つ「ヒロイン」では「ローランド」なる人物に置いていかれた悲劇のヒロインをカズが演じる。タイトなシモーネのリズムと、物憂いギターに乗せてカズが歌う「トップ・ランキング」は、示唆的な歌詞と「彼らはあなたの家を焼き払うだろう」という最終フレーズが意味深。本編の最終トラックとなる、「失うこと」を歌った「マイ・インピュア・ヘア」では、退廃と堕落がテーマとなっている。そのテーマの通り、楽曲もゆるやかでダルな音作り。ところどころにノイジーなギターがきこえたり、最後に(終曲を意味する)ノイズが入っていたりする。残る2曲は、日本盤ボーナス・トラック。打ち込みっぽいリズムや、フィードバックするギターをバックにカズが歌う「サインズ・アロング・ザ・パース」は「あなた」に「わたし」が導かれるか棄てられるかを任せ、道に残された痕跡を集めていこう、という抽象的な歌詞。「ハリー・アンド・アイ」はボーナス・トラックながら本作中最も長尺(約8分)の、しかしドラマティックではない淡白な展開が続くナンバー。中間部ではシーケンスも使用している。「きみ」を巡ったまた抽象的な歌詞が意味深だ。カズのヴォーカルにはイコライジングが施されている。エンディングまでの長い余韻が、ボーナス・トラックながら終曲に相応しい。
 本作は全体的にダルで、淡々としたギター・リフやリズムを中心とした作品となっている。前作のような大仰なストリングスはないし、前々作のような漆黒の闇もない。ここにあるのは、なべて言うなれば「その現実を認めよ」というメッセージ。そして音。ここ数作の中でもきわめてシャープでシンプルな、トリオならではの持ち味を活かした作品となっている。それでいてシンセ類の音は(前作のストリングスの代わりのように)増えており、以前にあった「ツイン・ギターの絡み」などは少ない。その分、シモーネのドラムがまるで打ち込みのように精緻に組み立てられている。
 ところで試しに、本作を「23時」に聴いてみるといい。その時間は本作と見事に融合し、リスナーは幽玄の世界に引き込まれ、気付けばエンディングまで聴き通していることだろう。1時間弱、揺り籠に揺られているような甘くアンニュイな感覚。それは安らぎの時に用いるとなおのこと効果がある筈だ。
 古くからのファンには、本作は過渡期的作品としてとらえられてしまうかも知れない。しかしそれは、ブロンド・レッドヘッドが今まで変化し続けてきたからこそ、与えられる評価ではないだろうか。
 傑作とは言わないが、駄作でもない。ブロンド・レッドヘッドを知るための一枚としても薦められないが、決して悪くはない。進化の末に、骨子を重んじた形となったのが本作『23』であるのだろう。今後のライヴ活動で彼らの表現する音色がどう変化していくかが楽しみである。


23 23
1. 23 23
2. Dr.Strangeluv ドクター・ストレンジラブ
3. The Dress ザ・ドレス
4. SW SW
5. Spring And By Summer Fall スプリング・アンド・バイ・サマー・フォール
6. Silently サイレントリー
7. Publisher パブリッシャー
8. Heroine ヒロイン
9. Top Ranking トップ・ランキング
10. My Impure Hair マイ・インピュア・ヘア
<日本盤ボーナス・トラック>
11. Signs Along The Path サインズ・アロング・ザ・パース
12. (We Are A Real Team) Harry And I ハリー・アンド・アイ

(WPCB-10023)