ウェットン/ダウンズ
『ルビコン』
〜「ハーフ・エイジア」の払拭〜 (2006/10/26)

傑作。
それ以上の、それ以下の言葉も思い付かない。『アイコン
II』と銘打たれて登場した本作『ルビコン』は、ハード・ポップの傑作たりうる出来に仕上がっている。
オープニング・ナンバーの「ザ・ダイ・イズ・キャスト」から、哀愁と激動が曲を覆い尽くす。ライヴ演奏もされたというこの曲は、オープニングに相応しい郷愁を誘うイントロから、一気にハード・ポップの世界に導いてくれる。中間部に披露される、哀愁味誘うヴァイオリンも美しい。
続く「フィンガー・オン・ザ・トリガー」もパワー・ポップの応酬だ。一時は危ぶまれていたウェットンの咽喉も、見事なファルセットを決めている。「リフレクションズ(オヴ・マイ・ライフ)」は一転して、たおやかな歌を聞かせるナンバー。コーラス・ワークも勇壮で、何よりウェットンの哀愁あふれるヴォーカルが素晴らしい。
「トゥ・キャッチ・ア・シーフ」は女性ゲスト・ヴォーカル、アネク・ファン・ガースバーゲンとのデュエットで始まる美しいドラマティックなナンバー。ここからウェットン/ダウンズならではと言える重厚な叙情的メロディを堪能できる。センシティヴな琴線に触れる「ティアーズ・オヴ・ジョイ」はヴァイオリンからまたデュエット、そしてまたヴァイオリンと、楽曲の美しさを堪能できる一品だ。
「シャノン」は一転して、明るいシンセ音が耳を引く。アイリッシュ系の名前に多い「シャノン」を冠したナンバーは、まさしくアイリッシュな旋律を楽しめる。トラッドからの影響も強く、間奏部分などにそれが見受けられる。「ザ・ハンギング・トゥリー」はどこか荘厳な雰囲気を醸し出す秀逸曲。
次のトラックを見て驚く者は、少なくないだろう。ジョン・ウェットン/リチャード・パーマー=ジェイムスによる『モンキー・ビジネス』にデモ・トラックが収録されていた「ザ・グローリー・オヴ・ウィニング」が、ここに完成されていたのだ。しかもその出来は、アルバム中でも一、二を争う素晴らしい完成度。長年あたため続けてきたアイディアが、ここに昇華したのだ。聞けば、ライヴでも演奏されて好評を博したという。コーラス・ワークもキーボード・ソロも勇壮な、一大傑作曲だ。ピアノの淋しげな旋律から始まる「ワールプール」は、一転してパワー・ポップに姿を変える。しかしどこかしら哀愁が漂っており、荘厳な雰囲気さえ保っている。
そして、タイトル・トラックとなる(実質的)最終曲「ルビコン」。郷愁を誘うたおやかな調べと共に、ミドル・テンポの演奏と歌唱が続く。荘厳なコーラス・ワーク、哀愁のギター・ソロは、さすがタイトル曲の威厳を保っている。歌詞も孤独と哀愁に満ちていて、アルバムの核を成すに相応しい傑作曲だ。イタリアのルビコン川を渡ったふたりには、何が待ち受けているのか? それは今後の、このプロジェクトの行く末を見守っていくことで確認したい。
日本盤ボーナス・トラック「ザ・ハーバー・ウォール」は、ボーナス・トラックということもあってか「おまけ」の印象が強いが、それでも、耳を引くメロディを保っている。ルビコン川を渡った先に「壁」があったというのも、このプロジェクトなりの皮肉であろうか。ゆるやかにアルバムを締めくくる、佳曲である。
今まで、「ウェットン/ダウンズ」にエイジアの残り香を求めていたが、それは間違いだったことを痛感した。このふたりはこのふたりで、優秀なソングライティング・チームであるのだ。確かに『アイコン』にはエイジア像を求めるきらいが、ファンにも評論家にもあった。しかしこの『ルビコン』で、それを払拭したといっても過言ではない。
願わくば、エイジア・ヒット・メドレーなどに時間を費やさず、この『アイコン』二部作を中心としたライヴを演ってほしいものだ。どちらも、それほどのクオリティに満ちた傑作であるのだし、「今のウェットン」を求めるファンは喜ぶだろう。オールド・ナンバーに時間を割いてしまうのは解らないでもないが、一度、実現してもらいたい。
| RUBICON | ルビコン | |
| 1. | The Die Is Cast | ザ・ダイ・イズ・キャスト |
| 2. | Finger On The Trigger | フィンガー・オン・ザ・トリガー |
| 3. | Reflections (Of My Life) | リフレクションズ(オヴ・マイ・ライフ) |
| 4. | To Catch A Thief | トゥ・キャッチ・ア・シーフ |
| 5. | Tears Of A Joy | ティアーズ・オヴ・ア・ジョイ |
| 6. | Shannon | シャノン |
| 7. | The Hanging Tree | ザ・ハンギング・トゥリー |
| 8. | The Glory Of Winning | ザ・グローリー・オヴ・ウィニング |
| 9. | Whirlpool | ワールプール |
| 10. | Rubicon | ルビコン |
| <日本盤ボーナス・トラック> | ||
| 11. | The Harbour Wall | ザ・ハーバー・ウォール |
(MICP-10616)