マイケル・キスク
『キスク』

〜真摯な「歌」〜 (2006/09/22)

 マイケル・キスクは、ソロ・キャリアでは不遇の人である。
 まだヘヴィ・メタルの残り香を感じさせる『インスタント・クラリティ』然り、方向性がいまいち定まらなかった『R.T.S.』然り、バンドとしてヘヴィ・ロックに挑んだ『スーパレッド』然り……誰もが、「メタル・シーンにカム・バックしてほしい」と訴えかけ、第二の「イーグル・フライ・フリー」を求めるなか、暗中模索してきた。
 だが彼は、頑としてそれを断ってきた。実に10年余。時にはそのプレッシャーに苛まれたこともあっただろう。しかしいま、彼はまさにハロウィンの呪縛から「解放」される時がやってきたのだ。
 セルフ・タイトルとなった『キスク』。そこに届けられた歌声は、もはやメタルなどというものに縛られない、アコースティックな輝きを見せる傑作だった。よりプライヴェイトに、内省的に、歌声はまっすぐ届いてくる。キスクは本作を発表することによって、「自由」を得たのだ。あまりにも早過ぎた栄光の影を払拭する、自由を。
 ここには、みずみずしい実直な歌声が生きている。アコースティックというスタイルをもってして、何より「歌」が生きている。過去の栄光を求める方には不満だろうが、いまのキスクは、「歌」をうたうことに喜びを得ている。もはやそこにメタルの疾走感はない。ゆったりとした、たおやかな「歌」が響いている。
 その歌声の、何と染みわたることか!
 本作ではキスクの、シンガー・ソングライターとしての実力を垣間見ることができる。ヴォーカルはかつての武器だった高音域ではなく、中音域を主体としている。カントリーやビートルズ的なアプローチは、そんな彼の「ルーツ」であり、現在の「スタイル」であるのだろう。過去作のなかで最もクリエイティヴィティが実を結んだ傑作である。メタル回帰願望を望む方々は、キスクがゲスト参加しているトビアス・サメットやアイーナの諸作を聴いていればいい。ただ、いまのキスクにメタル回帰を求めるのは間違っている。いまのキスクは、音圧に誤魔化されない真摯な歌をうたうことを望んでいる。それは本作を聴けば一目瞭然だろう。
 本作は、決して静謐なアルバムではない。エレクトリック・ギターもそこかしこにフィーチュアされており、アコースティック「的」なスタンスでまとまっている。しかしそれは「歌」を邪魔するものではない。寧ろ引き立てる、脇役としての響きに徹している。演奏の質はクリアで、透明感にあふれている。開放感に満ちた「歌」の輪郭を強調する、伴奏としての演奏。そこに主張はない。キスクの歌声を生かすために、脇役に徹したゆったりとした演奏。メタル・キスクの時代は終わったのだ。
 喩えば「キングス・フォール」の歌詞を見よ。「僕は一人で息を吸うことが出来る/合わせる必要など全く無い/僕はこんな種族さ、静かなトーンを発する/僕は誰も喜ばせるつもりは無い」……ここには、ソロ・シンガーとして孤高の道を歩むキスクの穏やかな決意が秘められている。
 それでも、キスクにメタル回帰を望むのかい?
 キスクは頑として、それを断るだろう。この傑作『キスク』のレコーディングで感じ取った穏やかな波動を、みずみずしい感性を、いつまでも保ってくれるだろう。それが現在のキスクのスタンスであり、ファンはそれを見守るべきではないだろうか。
 この、のびやかな声で綴られた傑作を、みすみす見逃す手はない。「歌心」あふれるアルバムを、放っておく術はない。自らの指針を打ち立てた自信に満ちた輝きが、ここにはある。
 一度、じっくりと聴いてみるといい。聴けば聴くほど、味がにじみ出る作品なのだから。


KISKE キスク
1. Fed By Stones フェド・バイ・ストーンズ
2. All-Solutions オール・ソリューションズ
3. Knew I Would ニュー・アイ・ウッド
4. Kings-Fall キングス・フォール
5. Hearts Are Free ハーツ・アー・フリー
6. The King Of It All ザ・キング・オブ・イット・オール
7. Sing My Song シング・マイ・ソング
8. Silently Craving サイレントリー・クレイヴィング
9. Truly トゥルーリー
10. Painted ペインテッド
11. Sad As The World サッド・アズ・ザ・ワールド
<日本盤ボーナス・トラック>
12. Mary In The Morning メアリー・イン・ザ・モーニング

(KICP-1155)