anemone
『BRESSIMO』

〜エレクトロニカ・ミーツ・ハートフル・ポップ〜 (2004/08/18)

 メジャー・デビュー・アルバム『クラシックス.』が賞賛に値する出来だったアネモネの、待望のミニ・アルバムは、新たに移籍したFate recordsよりリリースされた。この「ミニ・アルバム」というフォーマットは彼女の表現的手法の中では常套手段である(インディーズ・デビュー・アルバム『Primary Portrait』などを見よ)。
 今回は事前より「新レーベルの立ち上げ」「生ドラムの導入」など新たな基軸が宣言されていたため、どのような形に仕上がるかが興味深かった。そうしたらアネモネ、「待望」の言葉にに相応しい、スケール感のある傑作を生み出してくれた。
“Breath(息)”と“Bless(賞賛)”のダブル・ミーニングにワン・アクセント、ものごとの最上級を示す「〜ッシモ」を加えた本作『BRESSIMO』は、S.E.などをさかんにまじえて凝った作りだった『クラシックス.』に較べ、スリムでスマート、だけどやんちゃな趣を見せている。全体の音色として、だいぶ音数が少なくなり、シンプルで輪郭をつかみやすいものになっている。

 まずは、冒頭曲「第三の道」を聴くといい。インストゥルメンタルであるこの曲の、なんと清々しいことか。夏の終わりに触れた冷たい水の感触にも似た、ひんやりと染みわたるエレクトロ・ポップ・インストゥルメンタル・ナンバー。7分という時間の長さを忘れさせられるぐらい、聴き手を没頭させてくれる。懐かしさ、郷愁、夏の終わり。そんなシーンにこの1曲はじんわり浸透してくる。シンプル・イズ・ベスト、それがこの曲の、並びに本作の指標であると言えよう。
 続いて、古びれたラジオのようなギターの音色から始まる「カナリア」。時折混じわるエレクトロなノイズ音は輪郭がくっきりしているのが、対照的で面白い。そうしてようやくアネモネの声が、響きわたる。優しいけど刹那い小鳥にでもなったかのような錯覚。たゆたうひかり。ゆらめくわたし。
 そこへ繰り出される「箱舟の部屋」は明るく、ポジティヴなメッセージ性を持ったポップ・ナンバー。TV番組のエンディング曲にもなるなど、大きな前進を感じさせる。ポップ・ミュージシャンとしてのアネモネを感じたいのなら、この曲はマストだ。夏の終わりを懐かしがる歌詞がセンスフル。そう、ここで語られるは夏の終わり。その刹那さをアネモネは朗々と歌い上げている。
「あるく」は冒頭から明るい色彩を放つワルツ。しかし途中ではモノトーンな色合いも見せる。何があっても「あるく」というポジティヴィティが歌詞に込められている。
「惑星日誌」も三拍子に、アコースティックなギターとデジタルの混合がうまくいった逸品。小技の効いたドラミングがここでは味わえる。歌詞の視野が宇宙を見るかの如く広く、さすが「惑星日誌」といったところか。それでも原寸大でここにあろう、とする「ちから」が感じられる。
 イントロから少しばかりディスコテックな「空の輪郭」は箸休めといった感のあるインタールード。懐かしいギターとシンセの響きとが、一発でその世界に酔わせてくれる。アネモネのスキャットも幻想的で、終幕へ向けたプレリュードのように感じられる。
 そして「潮騒」。何とノスタルジックな佳曲であることだろうか! 夏の終わりを語る歌詞が、何ともの哀しいことか――「エレクトロニカ・ミーツ・ハートフル・ポップ」という本作の売り文句が、最も似合う曲だ。「潮騒が止まらない」という一節が刹那く、幽玄にきこえる。そうして本作は幕を閉じる……潮騒の余韻を残して。

 結論。
 本作は、アネモネが新たなステップを踏むに相応しい傑作である。そして全体をノスタルジックな、夏の終わりを描いているような刹那さが包み込んでいる。新たなアネモネの指針がメランコリックに、ささやかにここに示されている。
 夏の余韻を感じたい人、エレクトロニカ・ミーツ・ハートフル・ポップという文字にピンときた人、センスフルな曲に実際触れてみた人……そうした人々、いかがだろう? いや寧ろ、誰だっていい。アネモネは聴き手を選ばない。そして、自由を愛する人にこそ聴いてほしい。
 敏感な空気と賞賛すべき音楽が出会った、最上級のブレッシモ。
 シンプル・イズ・ベスト、その言葉をもう一度用いて、この拙文を終わりとしたい。

 チアーズ!


BRESSIMO
1. 第三の道
2. カナリア
3. 箱舟の部屋
4. あるく
5. 惑星日誌
6. 空の輪郭
7. 潮騒

(MICP-10481)