anemone
『クラシックス.』
〜エレクトロニカの旋律と儚く甘い声の融合〜 (2003/11/27)

「機械的なエレクトロニカと人的なヴォイスの融合」
これが、アネモネの基本指針じゃないだろうか。
とイキナリ始めたところで、まだ「アネモネって何?」という方が殆どだろう。そりゃしょうがない。だって本稿で扱う『クラシックス.』は彼女(アネモネ)の実質的なメジャー・デビュー・アルバムなのだから……。
アネモネは、作詞、作曲、ミックス、デザイン……あらゆることを「自ら」行う才女。プロフィールでは誕生日まで公開しており、「隠匿によるイメージ捏造」を好んでいないように思える。女性がひとりで、それも等身大で、すべてを行っているように。
2002年にミュージック・マインより1stアルバム『primary
portrait』をリリース、すべてをひとりで手がける才女振りが話題となり、翌年アパレル・メーカーと提携したコラボレイション・ミニ・アルバム『恋人RMX』を発表。これらの活動から評価が高まり、ユニバーサルJに移籍しての本作、つまり3作目にして実質的なメジャー・デビュー・アルバムである『クラシックス.』の発表にまで繋がったわけである。
その本作を聴いた筆者は、奇しくも遊佐未森の新作『ブーゲンビリア』を好んで聴いており、「機械的なエレクトロニカと人的なヴォイスの融合」に強く興味を持っていたところだった。よって筆者にとって(ずっと気にはしつつも本作でやっと聴けた)アネモネのファースト・インパクトは、遊佐未森との比較から始まることになるのは必定だった。
確かに、近年の遊佐未森は「カリントロニカ」なる「カントリーなエレクトロニカ」を指針としており、アネモネの音の質感と似たものがある。しかし決定的に異なるのは、遊佐未森の醸し出す音の質感が「浮遊感」を中心としたものであるのに対し、アネモネの質感はもっと、地に足が着いている。アーシーとかオーガニックなんて言葉でよく表される、スピリチュアルなものを強く感じさせる。かといってグルーヴィなのじゃなく、透明で、消えてしまいそうな儚さを放っている。なのに、その輪郭は色濃い。強いヴァイブを放っている。喩えば声を引いてインストになっても、聴くに値する楽曲を誇っている。
何よりアネモネは、遊佐未森より「甘く強い」声を持っている。それは最もアップ・テンポでアプローチの広さを誇る1stシングル「浸透」や、『primary
portrait』収録の傑作曲をリミックス再収録、しかも2ndシングルにもなった「愛のままに(夕焼けmix)」などを聴けば解ることだ。恋するような刹那い気分で、胸を一杯にしてくれる歌声。その奥に内包されている儚さ。でも弱いわけじゃなく、強い意志のある声。
風のような、儚い歌声。
しかしどこか力強く、意志がある。
またその歌声を取り除いても、優秀なエレクトロニカの響きがある。それ自体が単独作品になれるぐらいの。
アネモネは、日本語にもこだわりを見せている。
現在のところ、リミックス・ネームを除いて曲名はすべて日本語かカタカナ(日本語英語)であるし、歌詞だってそうだ。そのため風景描写中心の歌詞は理解しやすく、時折覗かせる心情表現がストレートに伝わる。「アイ・ラヴ・ユー」より「好き」の方が、甘い刹那さを味わわせてくれるものだということを、忘れていないかい?
「そうさ 優しく好きって香るものさ」
(「風にしなる」より)
しかし、第三者的に恋愛を「眺める」人だ。温度感というか――歌詞と歌声に温度差がある。感極まったような歌声なのに、視点は冷静かつ沈着。それこそ「才女」のようなたたずまい。どこ吹く風のような、対象を眺めながらも見詰め過ぎない距離感。
それが「水」の質感を思わせる楽曲群(特にインスト曲「ブランケット」を聴くといい)とまじり、アネモネ特有の、湿気のある風となって耳に運ばれる。その香りは甘く、人はそれを、決して嫌いじゃない。
ああ、
風にしなって、水を吸って、アネモネという花が咲いているからだな。
「初夏の風のような彼女の歌が響いてきた
あなたとわたししか信じてはいけない
限りある時間を無駄にしないで」
(「クラシックス.」より)
断言しよう。
エレクトロニカにこだわる人へ、宅録万歳な人へ、甘い女性ヴォーカルに弱い人へ……こんな傑作を、見逃すのはもったいない。
| クラシックス. | |
| 1. | ヴァイブス |
| 2. | 八月のオレンジ |
| 3. | サナトリウム |
| 4. | 夏は夕暮 |
| 5. | 風にしなる |
| 6. | よあけ |
| 7. | 愛のままに(夕焼けmix) |
| 8. | ブランケット |
| 9. | 心の傍に |
| 10. | 浸透 |
| 11. | 波紋 |
| 12. | ここにきて |
| 13. | 微熱 |
| 14. | クラシックス. |
(UMCK-1171)