アネクドテン
『グラヴィティー』

〜アネクドテンとメロトロン〜 (2003/10/19)

 ほっとした。
 本作を聴いてまず思ったのは、それである。キング・クリムゾンのフォロワーということを惜しげもなく晒した『暗鬱』から現代プログレの寵児として期待され、やがてバンドの自己に目醒めるもファンの期待に応えねば、という中途半端な作品が続いていただけに、本作でやっと「アネクドテンの音」になったのに、安心したのだ。だからこそセカンド『ニュークリアス』は延長線上の作品だと受け止めたし、サード『フロム・ウィズイン』は自己を急に出そうと足掻いて闇に向かった思考錯誤になってしまったのだと思う。
 ところが本作。冒頭2曲からしてやっとこさ、このバンドにありそうでなかった「グルーヴ感」が出てきた。常にメロトロンを期待され、またそれに頼ってばかりで期待を裏切らないため出せなかった、「身をよじるような」グルーヴ。それはことベース音に顕著で、ジョン・ウェットン的ヒズミを出そうとしていた今までと違い、楽曲そのものを先導するような疾走感――それはベース本来の役目――がある。
 続くバラード(3)だって、潔いものだ。ここまで「歌主体」のアネクドテンを、聴いたことがあるだろうか? 今まで音圧ベースか重厚メロトロンばかりが前に出ていた感が強かったが、ここでは4人の演奏が「調和」している。ここへきてようやく「バンドとしてまとまった」ように思われるのだ。それはメロトロンが「主」でなくなった(4)にも言える。単純な楽器の響きではなく、楽曲自体を尊重するような仕上がりになっている……。

 で、ここらへんで、思うのだ。
 もはやメロトロンは彼らのお約束じゃあるが、いっそのこと、それを使わない作品を作ってみてはどうだろうか?
 メロトロンの重厚な音が、バンド自体の輪郭を曖昧にしているような気がしてならないのだ。これだけ立派なグルーヴも叙情も醸し出せるバンドに成長したのに、未だにそれで「覆ってしまう」のはもったいない。それがなくたって楽曲は成立するし、本作からメロトロンの音を抜き取って考えてみても、クオリティは成立している。それは言い換えるならば、メロトロンに頼っている限りは同じことの繰り返しに陥るだろう、ということでもある。その証拠が喩えば、オルガン・ソロの挟まれた(2)や同じくオルガン主体の(4)、バックグラウンドの音がメロトロンの代わりにヴィブラフォン主体となった(5)である。特に(5)なんてダウナーな陶酔感が特筆モノなのに、もし分厚いメロトロンが付加されたら駄曲になってしまう。
 こうした場面に現れたのは、「サイケデリック」な音像。実はアネクドテンって、プログレ優等生のような扱いをされなければ、今頃ヘヴィ・サイケの雄にでもなれたんじゃないか? と思うほど、メロトロン以外の演奏が「しっくり」きてるのだ。逆に言えば、メロトロンが後から取って付けたものである感さえ湧いてくる。だから「メロトロン・ロックの王者」みたいな宣伝文句や作曲法は、そろそろ転換期を迎えているのじゃないだろうか。彼らの紡ぐ楽曲自身が、もはやメロトロンを「核」じゃなく「手段」としてしか、必要としていないように感ぜられて仕方がない。
 そう思いながら、流れる(6)だってオルガンが響いており、メロトロンも前面に押し出されず、重圧でない陶酔感こそが心地好い。ピアノとアコースティック・ギター主体でフォーキーに鳴らされる(7)なんて、アネクドテン史上最高の「歌モノ」じゃないか。で、その先にオルガン先導で混沌とした音情景を描き、唐突に世界が閉じる(8)なんかは実に潔く、シュールでさえある。まるでこの瞬間に、今までのバンドの歴史さえ閉じてしまっても構わないぐらいに。

 だからもう、いいんじゃないのか?
 アネクドテンにメロトロンを求めるのも、アネクドテンが必要以上にメロトロンを使うのも。
 逆に言えば、アネクドテンが今後もメロトロン「主体」で進むのであれば、筆者は落胆するかも知れない。何だ結局はイメージ模倣の繰り返しなのかよ、と。しかしそれを思わせたセカンドやそこからの脱却が枷となったサードより、4作目となる本作は雄大に「アネクドテンのオリジナル・アルバム」としてそびえ立っている。メロトロンはヴィンテージ・キーボードなのだから、見せ付けるように使うより「効果的な脇役」として、「伊武雅人の渋いひと声」のようなたたずまいで鳴っていると心地好い。
 一度は「予想通り堕ちたか」と思ったものの、ここで自己確立を成功させた彼らの今後に、マジ期待したい。もはやプログレの寵児なんて云々は脱ぎ捨ててさぁ。


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<日本盤ボーナス・ディスク>
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(ARK-1061)