デヴィッド・ボウイ
『リアリティ』

〜ボウイ風「栄枯盛衰模索戯画」〜 (2003/10/19)

 大体にして、「最近のボウイ」という言葉がよろしくない。
 いつだってボウイは「以前の(=最盛期)」「最近の(=衰退期)」という言葉で語られてきた。しかしボウイはれっきとして、「今」生きていて音楽活動をしているのだ。しかも常に「今」を意識した作品を仕上げている。それを昔基準のものさしで測ってしまうのは、非常にもったいない。それは彼が「今」発している信号が、もし仮にどんなに面白いものであっても、それを拒否してしまうことになるからだ。
 そんなリスナーがもしいたら、筆者は本作『リアリティ』をもって、大声で「ざまぁみろ」と言いたい。
「時の人」デヴィッド・ボウイ、大傑作の提示である。

 本作を通して聴いた時の喜びといったら、初めて『ジギー・スターダスト』を聴いたのにも似た興奮だった。
 発売以前から、本作の出来が良いとは聞いていた。けれどいつもの「近作の中では」というニュアンスがそこにはあったのだが、前作『ヒーザン』よりも素直に受け入れられる「良さ」がうかがえた。そりゃ前作『ヒーザン』は完成度も高く、ソロ復帰後のボウイ作品では音楽的に興味深いものがあったが、何より渋かった。率直に言えば暗かった。毎度毎度の暗中模索(暗中模倣)の癖が抜けずに方法論を求め過ぎてしまい、そのため彼が持っている筈の大いなるポップ性を欠いているように思えて仕方がなかったのだ。だから評論家筋の受けは良かったのだが、筆者個人としては「良いけど特別に聴きたい作品じゃない」という烙印を押したうえにCD平積みの刑を課してしまった。
 そこへきて、本作。
 何て、堂々としているんだろう! そしてこんなにキラキラしているボウイが聴けるなんて、久方振りのような気がしてならない。幾つもの曲がメドレー調になっており、全曲がポップで、その殆どがシングル・カットにも絶え得るメジャー感に満ち溢れている。今のところシングル・リリースされているのは(1)のみだが、いつものシングル乱発より、ずっとスマートに本作からのシングル・カットは行われ続けるに違いない。けれどその方法論は(11)が『ブラック・タイ・ホワイト・ノイズ』に収録されていてもおかしくはない耳ざわりに仕上がっているように、実際には劇的な変化を遂げているわけではない。
 そういえば前作は、楽曲のベクトルがマイナー志向だったようにも思える。そこへ、まるで反転したかのように「聴きやすい」本作。もし、ボウイがこの2作を、2年連続でリリースする予定を組んでいたのだとしたら彼を「物真似野郎ではなくやはり策士」と認めざるを得ない。だってそのぐらい用意周到というか、落としてすくい上げる所作が上手くいっているのだ。これで筆者の『ヒーザン』観も変わるというものだ。
 策と言えば――ジョナサン、リッチマンの(2)、ジョージ・ハリスンが書いた(9)のロニー・スペクター・ヴァージョン、日本盤ボーナス・トラックとなっているキンクスの(12)と、本作にはカヴァー曲も多い。どれもシングル曲になれる輝きを持った出来映えで、特に原曲ではフィル・スペクターによったストリングス・ワークを、盟友トニー・ヴィスコンティ(晴れて本作でもプロデューサーに)が今風に再現した(9)は特筆に価する。じゃなくても渋い佳曲をメジャー感いっぱいに仕上げた(2)も、意外な選曲&ボートラ収録により明るい結末を飾った(12)も、ホントこの人は「誰かのものを自分のものにする」のが上手い。過去には自分のものを他人に奪われたからか……なんてアンジーな憶測はともかくとして、ボウイお得意の「模倣じゃなく自己流への『チェンジ』」を、これらには強く感じるのだ。
 で、彼には珍しくカヴァー曲が多いのには、創造性を失ったなんて阿呆なことじゃなく……ひょっとして、ボウイが描きたかった「現実(リアリティ)」とは、それ即ち「栄枯盛衰」なのじゃないかと思えてくる。じゃなきゃ、どうして「今のボウイ」が、「過去のボウイ」の持ち曲であった「愛しき反抗」を再収録するのだ? それがまた「初回盤ボーナス・ディスク」にのみ収録というのが、思わせ振りで仕方ない。その歌声もサウンド・ワークも、はっきりと「今」のものとして輝いている。キラキラしている。

 しかし。
 オールド・ファンは未だに「最盛期のボウイ」を求めてしまうのだな。
 そう思うと、前述の「愛しき反抗」再録やタイトル・チューンである(10)なんぞは、ともすると冒頭に書いたような比較を求められてしまう自分への「自己揶揄」なんじゃないかと思うのだ。どんなに比較したって、求めたって、もう「屈折する星くず」なんて歌わない。それは「リアリティ」を失ってしまったものだから。

 もう、ボウイには「グラムの退廃」なんて必要ない。
 それを求め続ける盲信者も、いっそのこと居なくなってしまえ。
 そう言い放ちたいほど、本作のジャケット・イラストに現れた「キラキラしたエグさ」は実に意図的で、心地好い。「これが皆の求めるボウイ像ですよ!」と言わんばかりのアニメ調イラストは、そうやって、本作の「真の意味」をも晒している。
 見てみよ、(3)の諧謔的かつ勇ましい曲名――“Never Get Old”――を!


REALITY リアリティ
1. New Star Killer ニュー・スター・キラー
2. Pablo Picasso パブロ・ピカソ
3. Never Get Old ネヴァー・ゲット・オールド
4. The Loneliest Guy ザ・ロンリエスト・ガイ
5. Looking For Water ルッキング・フォー・ウォーター
6. She'll Drive The Big Car シール・ドライヴ・ザ・ビッグ・カー
7. Days デイズ
8. Fall Dog Bombs The Moon フォール・ドッグ・ボムズ・ザ・ムーン
9. Try Some, Buy Some トライ・サム、バイ・サム
10. Reality リアリティ
11. Bring Me The Disco King ブリング・ミー・ザ・ディスコ・キング
12. Waterloo Sunset ウォータールー・サンセット
<初回限定ボーナス・ディスク>
1. Fly フライ
2. Queen Of All The Tarts (Overture) クィーン・オブ・オール・ザ・ターツ(序曲)
3. Rebel Rebel 美しき反抗

(SICP-444〜5)