クーラ・シェイカー
『ザ・ベスト・オブ・クーラ・シェイカー』

〜みじかくもサイケに燃え〜 (2003/3/6)

 クーラ・シェイカーのベスト盤が出ている、
 そう知っても、手が出ずにいた。2003年初頭に海外盤が発売されたそれは、私には「契約上のベスト」として認識されてしまったのだ。だってそりゃしょうがない。突然のバンド解散から、もう3年以上経過しているのだから。一般的なレコード会社やレーベルでの約束事として、あらゆるミュージシャンは解散や移籍に伴うベスト盤の発売は許可せざるを得ない。だから世には「何で?」「何これ?」「また?」というベスト盤が絶えないのだ。
 私的な範囲で言えば……変なリミックス音源が邪魔なドアーズ。解散後のルー・リードの活躍により代表曲がはっきりして、単なる代表曲集になったヴェルヴェット・アンダーグラウンド。まさに契約上の金銭目当て丸見えのジョン・ウェットン。日本では、毎回毎回レア音源を小出しにされているSION。シングルを網羅しているようで、単に並べただけのBUCK-TICKにSOFT BALLET(それじゃ嫌だから、ということで両者ともそれに先駆けてリメイク・ベストを出していたのはサスガだ)。
 優秀なベスト盤の例も少し。自身の選曲というだけで随分と味のあるものになり、シングルのみの曲も含む気の利いたジョージ・ハリスン。ロバート・フリップ自らが毎回、徹底編集するキング・クリムゾン。リミックスほかメーカーの勝手な所作が市川哲史氏によりまとめられたジャパン。無粋なメーカー選曲ベストに納得いかず編まれた大鷹俊一氏によるルー・リード……。
 と、私的な範囲でそこそこに着眼点あるものを選んだだけでも、幾らでも例は浮かぶ。だからこそ私は、オリジナル・アルバムが2枚しかないクーラのベストなんて、単純な契約解消アイテムだろうと思っていたのだ。シングル表題曲をすべてそのまま並べて、アルバム曲を挟んだぐらいのものだろう、と。
 しかし輸入盤を店頭で耳にするや、偏見であったことを認めた。“Sound Of Drums”のイントロに“Rhadi Rhadi”が被せてある! ひょっとすると手の込んだものなのか? と思い、ちゃんと聴いてみると、果たしてその通り。ベスト盤のひとつの指標である「ファンにも初心者にも」聴けるものだった。

 全体的に、グルーヴを強調したセレクション。それは彼らの持ち味であり、ウリであり、ファースト『K』発売時の印象でもあり、バンドが成長しようとしたコンセプチュアルなセカンド『ペザンツ、ピッグス&アストロノウツ』発表後でもファンが望んだものだった。だからこそ嬉しくもあり、淋しくもある。セカンドに見えた彼らの創造性の豊かさに魅せられた者としては、残念な選曲と言えなくもない。
 しかし、勢い一発な選曲ではなく、寧ろ起伏に富んでいるのでバンドの音楽性の推移さえ見え、しかし一挙に楽しめるものになっている。何しろ発表されたアルバムは2枚だけなのだから、そのベストとなる本作の内容はえらく濃い。グルーヴ一発の曲からサイケデリックかつアシッドな曲、メロウなアコースティック曲に70年代趣味が爆発したプログレ風味まで、様々なものがこれ1作で楽しめる。シングルのみの発表だった“Hush(ディープ・パープル・ヴァージョンに基づいた、ジョー・サウスのカヴァー曲)”と、シングル・カップリング曲の7、12、15曲目も収録。しかも全曲リマスタリングが施されているようで、音質は数段クリアになっている。この時点で既に、ただの「契約解消ベスト」ではなかった。
 そこへきて、ファンがどうしても注目してしまうのはヴァージョン違い。それがまた、注目すべきものでもあった。
“Sound Of Drums”は前述のように、(2枚ある同曲シングル盤の1枚に収録されていた)前後をフェイドさせたアルバム・ヴァージョンの冒頭に“Rhadi Rhadi”のイントロを被せるという特殊ヴァージョン。“Mystical Machine Gun”など、中核はシングル・エディットを採用しながら前後だけはアルバム・ヴァージョンで繋げるというもの。他にも“108 Battles (Of The Mind)”のラスト1音(ギター音)が削られ、続く“Start All Over”とさながらメドレーのように展開するなど、若干いじられた箇所は多くあり、ただの組み替えベストではないことが一聴してはっきり解る。
 そこへとどめとなるのが、本作でしか聴けない楽曲が2曲あること。見慣れない“Ballad Of A Thin Man (Mr.Jones)”は、完全未発表となるボブ・ディランの『追憶のハイウェイ61』収録曲「やせっぽちのバラッド」のカヴァー曲。未発表曲だけに派手ではないが、原曲とはまるで違い、ブラス隊も含んで(ということはセカンド頃の録音だ――と思っていたら、本文執筆後に出た国内盤掲載のクリスピアンによるライナーに「最後の録音」とあった)幻想的に、映像的に、サイケデリックに展開する(因みに、私の持論のひとつなのだが、バンドのイメージはヴォーカルに帰属する。だからザ・ジーヴァズでもクリスピアン・ミルズが歌っている限りサイケな雰囲気が強く残る)。この選曲もまた、渋いではないか。クーラが、今ではザ・コーラルにも受け継がれる「温故知新」精神を持ったバンドであったことを証明している。
 そのうえラストの“Govinda”終了後には、荘厳なシークレット・トラックも収録されている。セカンドに収録された隠し曲“Stotra”の要領で10分の無音の後に始まる曲なのだが……これがまた妙なことで、私は一度本作をMDに録音していたのだが、無音部分ごと丸々録音した筈なのに、再生してみるとなぜか無音部分だけオミットされていた! ポータブルCDプレイヤー再生時にも、無音部分中の一時停止を解除するとシークレット・トラックが始まるなど、似たような現象が起こっている。まさか、私だけに起こった怪現象ではないと思いたいのだが……とまれこの曲はクーラの歴史を振り返りつつ、自ら楔を落としたような曲だ。さながら、バンド全体の曲をリプリーズしたように響いている――喩えばキング・クリムゾンによる『クリムゾン・キングの宮殿』の荘厳ながら自己破壊的なリプリーズを思い出してみるといい。それを未聴であれば、映画のサウンド・トラックにありがちな荘厳なフィナーレを思い浮かべるか、或いはセカンドの表面的最終曲“Namami Nanda-Nandana”に重厚なストリングスとブラスを重ねてみるといい。この曲に正式なタイトルは存在しないが、オリジナル・ブックレットのライナー・ノーツには全歌詞が引用されており、中でもコーラスとなるヒンドゥー語の詠唱部分にはクォーテーションが用いられている。その“Aum Keshavaya Namah Aum(オーム・ケシャヴァヤ・マナー・オーム)”が、ファンの間ではこの曲の仮題となるだろう――クーラの残した、最後の新曲に与えられた永遠の仮題として。
 通して聴くと、本作は多くのファンに表面的な理解をされてしまったグルーヴ路線のみでなく、ナイーヴな側面が強く出ているようにも思える。彼らの貫いた美意識は、ここに完結したわけだ。私的には、過去回帰ばかりして音楽の最前線を見ることを忘れていた筆者を「温故知新」という姿勢でもって引き戻してくれた、クーラ・シェイカーというバンドにはベストなど存在しない。なぜなら、温故知新を武器とした彼らが、逆に温故知新されてしまっては意味がなくなるからだ。だからここにあるのは「未発表曲や初披露ヴァージョンを多く含む、クーラ・シェイカーの編集盤」と思い込むことにする。これは私の中のことなので、読者諸兄はベストとしてとらえて当然のこと。私にとって、このバンドは思い入れが強過ぎたのだ。

 現在、ブリティッシュながらアメリカ賛美なストレート・ロックを展開しているザ・ジーヴァズが快進撃を続けている。それとは違い、クリスピアン・ミルズは、以前にはこんなにもブリティッシュで、幻想的で、グルーヴに溺れたサウンドを展開していた。もとより“Grateful When You're Dead / Jerry Was There”なんていう、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアを称える(または追悼する、本来の意味でトリビュートする)曲もあったのだから、アメリカに視点が行ってもおかしくはない(しかもこれは日本デビュー曲だ)。ただ、そのために簡潔なロックンロールになっているのは、クリスピアンのやりたいことが遂にできて嬉しい半面、とても淋しく思う。
 そんな時に、本作を聴くとしよう。

……ただひとつだけ、納得のいかない点がある。それも普段は「リスナーが好みでウダウダ言っても仕方ない」と思っている、選曲についてだ。それもヴァージョンはこっち使えよとか、グルーヴを主眼にするなら“Hey Dude”はライヴ・ヴァージョンだろうとか、インド曲を全部入れてほしかった、なんて私的なことじゃない。それを言ったら「それじゃアルバム未収録曲集とか出した方が有意義だよね」なんて無粋なことを考える自分だっているのだし。
 それでも、私には言っておくべきことがひとつあるのだ。
 このベスト盤には、間違いなく“Gokula”が収録されるべきだった。なぜならこの曲のリメイク曲“Old Friends, New Friends”(何と思わせ振りなタイトル!)をクリスピアン・ミルズは現在のバンド、ザ・ジーヴァズで何度も演奏しており、それでもってふたつのバンドに掛け橋ができた筈だからだ。クリスピアン・ミルズはザ・ジーヴァスのメンバーである以前に、クーラ・シェイカーのメンバーだった。それを証明し、ふたつのバンド間にある歴史を繋ぐことができる楽曲が“Gokula”だったのだ。しかもこの曲は、当時のクーラ・シェイカー(或いはクリスピアン・ミルズ)に強く香っていたインド嗜好が珍しがられるだけではなく、お墨付きになったことを意味する曲でもある。“Gokula”はジョージ・ハリスンによる名義上の初ソロ作にして、ジェーン・バーキン主演のサイケデリック・フィルムのサントラ『不思議の壁』収録曲中に使用されたエリック・クラプトンのギター・フレーズを借用しているのだ。しかもそのフレーズは、インドに造詣の深いジョージにお願いし、バンドのインド嗜好ともども認められ、授かったものなのだ。つまり、これを収録しないということは「ジョージ・ハリスン → クーラ・シェイカー → ザ・ジーヴァズ」と繋がっていた歴史を敢えて紡がず、中断させたということになる。
 でも、それでもいいかな、とは思っている。インド嗜好が珍しがられ、或いは崇拝され、そして馬鹿にされていたクーラに、もはやそればかりを求めては失礼かとも思うのだ。彼らの(表面的な)最大の武器はグルーヴであり、本作はそれを中核にしたベストである。だから、彼らを解りやすく知るきっかけとして存在さえすれば、それはそれでいい。ジョージの偶像化が2001年11月30日(日本時間)の死去からだいぶ経った今、また強まるのも御免だものね。

 最後に、本作の国内初回盤には全ビデオ・クリップを収録したDVDが付属している。日本でも唯一ヘヴィ・ローテーションされた“Mystical Machine Gun”以外は、フル・サイズでは日本初登場ばかり。何せ解散しているので、今後のクリップ集リリースは期待できないのが現状だろう。単体で製品化しても売れ行きはそれほど望めないだろうし、曲数が少ないから価格も上げられず、利潤はさほど望めない。だがザ・ジーヴァズの快進撃をみすみす見逃す手はない……からこそ、DVD付属は有意義には違いない。
 インド的な旋律を持つ楽曲では必ずインド人女性をフィーチュアし、どの曲でもサイケデリックな処理を施した映像が楽しめる。楽曲ヴァージョンとしては“Grateful When You're Dead”では後半の“Jerry Was There”がカットされ、“Mystical Machine Gun”は(当然ではあるが)シングル・ヴァージョンになっている。イメージを喚起する映像はめまぐるしく移り変わり、色彩も豊かで、それがグルーヴにまみれてひどくサイケに映る……そう、クーラ・シェイカーは、みじかくもサイケに燃えた短命の輝きだったのだ。その輝きが活かされ、クリスピアン・ミルズのザ・ジーヴァズと、ジョニー・マー&ヒーラーズの結成に加わったベーシスト、アロンザ・ベヴァンとが活躍することを祈りたい……そういえば、数奇なことにジャケットに映るのは進路の決まったそのふたりだけだった。またクーラ・シェイカーの発端となったのはふたりの出会いだった。巡り合わせというものも不思議なもんである。噂ひとつ聞かないドラマーのポール・ウィンターハートと、サイケ風味を担っていた鍵盤奏者のジェイ・ダーリントンにも前途あれ。


KOLLECTED - The Best Of ザ・ベスト・オブ・クーラ・シェイカー
<CD>
1. Sound Of Drums サウンド・オブ・ドラムス
2. Into The Deep イントゥ・ザ・ディープ
3. Grateful When You're Dead
/ Jerry Was There
グレイトフル・ホエン・ユーアー・デッド
/ジェリー・ワズ・ゼア
4. 108 Battles (Of The Mind) 108バトルス(オフ・ザ・マインド)
5. Start All Over スタート・オール・オーヴァー
6. Hey Dude ヘイ・デュード
7. Drop In The Sea ドロップ・イン・ザ・シー
8. Shower Your Love シャワー・ユア・ラヴ
9. Hush ハッシュ
10. Tattva タットヴァ
11. 303 303
12. Light Of The Day ライト・オブ・ザ・デイ
13. Mystical Machine Gun ミスティカル・マシン・ガン
14. Ballad Of A Thin Man (Mr.Jones) やせっぽちのバラッド
15. Dance In Your Shodow ダンス・イン・ユア・シャドウ
16. Govinda ゴヴィンダ
<DVD>
1. Grateful When You're Dead グレイトフル・ホエン・ユーアー・デッド
2. Govinda ゴヴィンダ
3. Hey Dude ヘイ・デュード
4. Tattova タットヴァ
5. Hush ハッシュ
6. Mystical Machine Gun ミスティカル・マシン・ガン
7. Shower Your Love シャワー・ユア・ラヴ

(EICP-191〜2)