ジョン・ウェットン
『ロック・オヴ・フェイス』

〜じっくりと、聴き込んで……〜 (2003/1/28)

「『アークエンジェル』に近い」
 というのが、ひと通り聴いた最初の感想だった。過去のソロ作と比べると、明る過ぎないうえにイントロが設けられ、鎮魂の雰囲気が漂っている。同作収録の「アフター・オール」が鎮魂歌だったことにも似た、どこか魂を弔わんとする雰囲気が……
 なぜなら本作は、ウェットンが以前より(特にエイジア時代)頼ることも多かったマイク・ストーンを悼んでのアルバムになったからだ。彼がそう「名言」したわけではないが、本作に旧友ジェフ・ダウンズが参加するきっかけとなったのがマイク・ストーンの葬儀での再会だったそうで、そこからアルバムの雰囲気に通じるものがあってもおかしくはない。静かで、荘厳な曲ばかりなのも確かだが、全体的にヴォーカルはエコーがかけられており、また鍵盤では主にオルガンとストリングスを多用しているので「神聖な(或いは、教会での演奏にも似た)感」を醸し出しているわけだ。アカペラ曲もあり、そうした印象は必然であるように思える。しかもよく見るとDDD(クラシックなどによく見受けられる、録音からミックス・ダウン、マスタリングに至るまですべてがデジタルで処理された録音。所謂「デジタル録音」のこと)のようだ。これも荘厳さを醸し出すのにひと役買っているのは間違いない。
 そのため、大きな刺激は少ない。派手か地味かでのみ言えば、地味なものになってしまうだろう。だから一聴しただけでは、リスナーは期待した分の「らしさ」が求められずに残念がってしまうかも知れない。
 しかし、それは時期尚早だ。よくよく聴き直してみよう。『アークエンジェル』が数曲を除いて地味だったものの、聴き込めば聴き込むほど味が出る作品だったように。だから本来なら、私もこの文章を数ヵ月後にでも書いた方が良かったのかも知れない。だが敢えて、現状でこれを書くことにしている。ウェットンの現在が、私の中で慣性になる前に書き留めておきたいからだ。

 イントロダクションとなる(1).には、申し訳ないが苦笑してしまった。なぜなら鐘の音に続くオルガンの音と、それに被さるギターの音色が余りにもピンク・フロイドによる「狂ったダイアモンド」に似ていたからだ。だからこそ、私は違和感をなかなか拭えずにいたのだが……表題曲に始まる前半部分は、従来の「ウェットン節」に、シンフォニックと表現すれば良いのだろう、荘厳な雰囲気が融合した展開を見せる。それがアルバム全体のトーンでもあり、印象であると思って構わないだろう。最も顕著なのが(5).で、アルバムの雰囲気に馴染めなかったのならば、まずこの曲を繰り返して聴くといい。ウェットンが本作で何を伝えたいのかが、最も現れているナンバーだ。リチャード・パーマー・ジェイムスによる歌詞もそれを汲んで、感慨深いものになっている。
 そういえば、再会が話題となったジェフ・ダウンズの比率がどれだけなのか、クレジットを見る限りでは判らないが(共作曲(4).と(10).だけだと思われる)、聴いていて「それ」と解るフレーズが随所に挟まれている。彼のプレイは特徴がないようで強くあるのだから。喩えば(4).など、印象がエイジアの「偽りの微笑み」に近いのが解るだろう。しかし本作はウェットンのアルバムであり、エイジア作品ではないことを承知しているのだろう、事前に期待されていた「エイジア的」なものは曲としてもフレーズとしても、ごく少ない。そのさりげなさも「らしい」ので評価に値する。
 本作中でもインスト(7).の後に展開する、(8).と(9).は出色の出来だろう。ラナ・レーン提供曲のセルフ・カヴァー(8).でのサックスとギターが交互するインタープレイは歌以前に曲として盛り上がり、(9).では「ウェットン節」を最も感じさせる、と、それぞれ曲と歌で際立っている。(10).を挟んで、アカペラによる最終曲(11).に最終的には繋がっていくような展開も評価できる。また最後はアカペラというのも、荘厳な本作を締めくくるのには相応しい。
 けれども、
 願わくは、(シングル曲にもなり得るような)突き抜けたポップなナンバーが1、2曲あれば傑作となったのかも知れない。決して悪くなく、寧ろ前作『ウェルカム・トゥ・ヘヴン』より自然な、無理をしない、落ち着いた佇まいが好印象なのだ。けれど全体が少しばかり平坦に見えるので、起伏の「起」があれば、なお素晴らしくなった筈だ。
 だが聴き込めば味が出る、それに間違いはない。寧ろ、少し無理してアップ・テンポに展開させていたきらいのあった前作より「らしさ」は強いと言えるだろう。だから私が前述した「もうちょっと突き抜けた曲を」というのは我儘なのだろう。ツアー・メンバーを中心とした録音も、大仰に構えることのない本作の完成(或いはウェットンの感性)に大きく関与しているに違いない。
 だからこそ「傑作! お勧め!」などと言えない。寧ろ言わない。そんな真似はおこがましく、出過ぎた行為だ。しかしながら本作は、しっとりとした佳作であり、優秀なものであることは断言しよう。広い空間の中、大きな音で聴くか、もしくはヘッドフォンで聴いてもらいたい。聞き流すより、じっくりと聴けばその味が解る筈だから。
 本作をもって、何より、マイク・ストーンの冥福を祈りたい。

 ボーナス・トラックはこれも旧交をあたためることになった、ビリー・ライスギャングとの共作。エッジの利いた曲で、やはりギター・ソロが特徴的。もう1曲はライヴ収録によるビーチ・ボーイズ「神のみぞ知る」のカヴァー。そういえば市川哲史氏が、ウェットンを「バッハとビートルズとブライアン・ウィルソンが好きなポップスおじさん」と言っていたことがあったなぁ……と実感。だが誰の声かは解らないが、コーラスがダミ声であるのには残念。どうしても本家と比較してしまう。それにしても、こういう自己ルーツのカヴァーをライヴ演奏できるようになったというのは、誇らしくもあり今後が楽しみでもある。


ROCK OF FAITH ロック・オヴ・フェイス
(ロク・オブ・ッフェイス)
1. Mondrago モンドラゴ
2. Rock Of Faith ロック・オヴ・フェイス
3. A New Day ア・ニュー・デイ
4. I've Come To Take You Home アイヴ・カム・トゥ・テイク・ユー・ホーム
5. Who Will Light A Candle? フー・ウィル・ライト・ア・キャンドル?
6. Nothing's Gonna Stand In Our Way ナッシングズ・ゴナ・スタンド・イン・アワ・ウェイ
7. Altro Mondo オルトロ・モンド
8. I Believe In You アイ・ビリーヴ・イン・ユー
9. Take Me To The Waterline テイク・ミー・トゥ・ザ・ウォーターライン
10. I Lay Down アイ・レイ・ダウン
11. When You Were Young ホエン・ユー・アワー・ヤング
<ボーナス・トラック>
12. Cold Comfort コールド・コンフォート
13. God Only Knows ゴッド・オンリー・ノウズ

(MICP 10347)