elements
『フリーダム・リ・キャプチャード』

〜出発点にしてひとつの完成形〜 (2003/1/26)

「エレメンツ」って知ってるかい?
 人によっては、クラブ系のバンドだろう。またはフランス的だったりジャマイカ的な曲を思い浮かべるかも知れない。だが、存じている者には総じて「アイリッシュな」バンドとして知られている。これは彼らの目下最新録音作であり、代表作として挙げられるだろう『ビアティテュード』の印象に起因する。何せ、私が彼らを知ったのもそれからであり、全国流通のスタンスが本格的に整ったのもその前後だから、私にとってその印象が強いのも当然なのだが。けれどもクラブ寄りな『singler sky』や、フランス的或いはジャマイカンな『SANS PATRiE』は彼らの音楽性にある一側面を強調した作品であり、中核となる表現形式を晒け出したのは、アイリッシュな漂白感を漂わせた『ビアティテュード』であると、私は考えている。
 アイルランド系カナダ人ながら京都在住、という経歴からしてミクスチャーな詩人ヴォーカリスト“max”を中核とし、アンダーグラウンド・シーンの重鎮や実力派が集まったのが、この「エレメンツ」だ。メンバー全員が経歴ありで、そのため「何でもこなせる」というのが、非常に強みになっている。そこらへんのプロデューサー主導バンドなんか相手にならない。そんなバンドが、日本にいることを私は嬉しく思うね!
 彼らは前述のアルバムをリリースして後、数回のライヴを行ってからバンドとしての活動は一時停止状態にあった。ここは芸達者揃いなので推して知るべしだが、その間でも「max + ryotaro」のみによるアコースティック・ユニット“trace elements”や、「max + ryotaro + nasuno」とゲスト・メンバーによるインプロヴィゼイション・ユニット“Alternate Symphonic Elements(A.S.E.)”などの活動は続いていた。セッションでも活躍できるメンバー達なのだから、活動が断続的になってしまうのは致し方ない。しかしそんな中でも、常に“〜elements”として活動を続けてきたのは、いちファンとして嬉しかったものだ。
 そうした「武者修行」を経た現在、5人が最集結して“elements”として新作を予定している、という情報も入っている。さながら“ProjeKct”に分裂した後に集まったキング・クリムゾンを髣髴とさせ、否が応でも期待させるではないか! しかも“trace elements”の作品もリリースが決まり、そのうえ“A.S.E.”も作品が予定されているとか? まさに快哉を打ちたくなる状態の中に、我々はいるというわけだ。

 さて、そんなバンド変遷の中、この度ドロップされたのが、彼らのインディーズ・デビュー・アルバムながら、追加音源も含んだ本作『フリーダム・リ・キャプチャード』である。彼らを知るのが少しばかり遅かったせいで、本作のオリジナルとなる『freedom captured』を未聴だった私は、喜び勇んでCDをプレイヤーに落としながらも、不安になったものだ。セカンド・アルバム『SANS PATRiE』が異国趣味が漂いまくりで統一感は少し弱い作品であったから、ひょっとするとそれより未完成な作品ではあるまいな? などと。
 しかし冒頭の“(She's) in her element”から、それは誤りであったと気付く。確かに初期の味であったレゲエ趣味は感じられるものの強過ぎず、アイリッシュな響きは寧ろ『ビアティテュード』的ではないか! この1曲だけでも様々な音楽が詰め込まれているので、偏った聴き方をしていないリスナーほど興味を惹かれることだろう。特にmaxの嗜好が強く出て、アイリッシュな中にレゲエ・ビートが多く含まれている。それらをとりまとめているのがryotaroによるアコーディオンとmichihisaによるトリートメントで、それがアイリッシュな雰囲気を醸し出し、まとめている――これは本作全体に言えることで、奇しくも、出世作となった『ビアティテュード』にも同様のことが言えるだろう。こと本作では全曲のプロデューサーである、michihisaのトリートメントを強く感じさせる。彼はギターのみの演奏にとどまってはいるが、スタートしたばかりのバンドの原型を作ったのは、まさに彼の所作によるものであると感じられる。
 では、各曲を見ていこう。
 前述の“(She's) in her element”はオリジナル作『freedom captured』より先にコンピ盤『アルファ・ステイション〜elements of love』にて発表されており、オリジナル作『freedom captured』の収録にあたってリテイクされたもの。さらに本作『フリーダム“リ”キャプチャード』でもリテイクされたもの。中でも“Let's Dance”のヴォーカル・フレーズにも似たアコーディオンが聴ける部分はその後の躍進に想い馳せられるものだ。歌詞は自由の象徴としての「彼女」を巡るものであり、2ヴァージョン収録の“circus of the sun”と並んで本作中核曲のひとつと言える。
 続く“destiny in a motorcar”は、冒頭に中核曲のひとつを配置してからの2曲目としては最適な曲。余り多くはないハーモニカも入っていて、ギターのトーンが明るい。また、ここでの“motorcar”は「自由」を目指す手段の象徴ではないかと思われる。運命付けられた世界から逃れ、自由を目指す手段としての。
 3曲目の“i ain't got no home”はアコースティック・ギターのみでmaxが歌うシンプルな曲だが「僕には家がない、どこへも行けない」と歌うのがミクスチャーな経歴を持つmaxであるから、静かな曲と共に説得力が溢れる。後の“Baby's Brew”など、アコースティック性を前面に出した楽曲が生まれるのもこの曲が原点として存在するからだろうし、ともすると“trace elements”の原点とさえ言える。また『SANS PATRiE』でイントロに配置されていた“(no home)”が、実際には本作収録のこれが原本であり、その抜粋であることも始めて知った。知りたくとも、今まで本作が全国流通していなかった(できなかった)ためだ。
 そうして「家がない」と嘆く詩人も“(i'm not) falling down”では「平気だよ!」と強く生きていく。潰れても倒れても生きていくよ、と。テンポが早まる不気味なリプリーズを含み、曲調が似ていそうでいて起伏に富んでいる。
 ここで中核曲“circus of the sun (almost acoustic version)”が早くも登場。ただ、ここで現れる中核はたおやかなアコースティック主体のヴァージョンで、まず詩世界の魅力を見せてくれる。太陽に自由を求め、投影し、思い馳せる……その後の彼らのライヴでも編成問わずよく演奏された曲で、指針とも言えるだろう。
 その自由のために“helicopter ride”がある。運命から逃れるための“motorcar”と似て、ここでの“helicopter”は自由を目指すための、それも危険回避のための一手段と見ていいだろう。それに乗る権力者を皮肉る歌詞は、後々にも受け継がれているポリティカルなスタンスだ。
 2、4曲目と並んで、やはり展開曲を作るのがうまいなぁ、と思わせるのが“stone cold blind”。最もエレクトリックでパーカッシヴなのだが、それがアコースティック性の強いアルバム中での刺激となる。歌詞は“Mr.Y”に投影した似肉げな権力者批判で、前曲と共に考察に足るだろう。
 当時のレーベル名でもあった8曲目の“lemon”は、言うなればインタールード。リハーサル・ノイズのように前衛的な音群がしばらく響き、やがて突然切れ、maxによるフランス語が口走られる。そしてまたノイズじみた喧騒……最終曲の前のアクセントとしても有用だ。
 やがて辿り着くのが、最終曲“circus of the sun”。こちらはアコースティックではなく、演奏がもう少し強調されたもの。“freedom!”と叫ぶ詩人の姿が、誇らしく見える……因みに本作だけでも2ヴァージョン収録されたこの曲も、前述のコンピ盤に収録されたものとは演奏の一部か全部が再録音されているようで、まったく別のヴァージョンになっている。

 参った! 文句のひとつも出てこない。
 通して聴いただけでもリプリーズやインタールード的な楽曲も含み、起伏に富むことが解る。それら諸楽曲が2ヴァージョン収録によって中核となる“circus of the sun”に絡み、全編「自由」を探るコンセプトのもと楽曲の方向性が貫かれている。何と潔いことか! バンドのデビュー作にして、原点となるには余りに完成度が高く、それゆえに以後は実験性が高まるのも納得がいく。その末に回帰的に辿り着いた『ビアティテュード』が傑作であったことも。
 そうして、本編を終えた後に、本作はファンにとっては目玉となるライヴ・テイクが2曲「続けて」収録されている。本作で原曲が披露されている“helicopter ride”と、当時の代表曲にして、現在のところ唯一のシングル表題曲でもある“let's dance”だ。
 彼らは、既存曲をライヴ演奏する際には、原曲とまるで違った側面を見せる。喩えば『singler sky』収録の“i”という曲。原曲はシンプルなものだったのだが、ライヴではワイルドで、即興的で、エレクトリックで、しかもMichihisaがmaxと共に“i”と叫ぶ、素晴らしいものだった。だから正直、私は「ライヴ音源追加収録」という情報を耳にしてから“i”の収録を期待してしまった。それは今回叶わなかったので、そのうちに、ライヴ盤発売という形で叶えば望ましいと思っている……勝手な見解ではあるが。
 本作のライヴ・トラック2曲では特に顕著だが、原曲ではどちらかというと楽曲の流れを促す役目に徹していたnasunoとtoruが、自ら前面に出る。そのためビートが強調され、もともとの楽曲の魅力に相乗して、まさに“Live VERSION”と呼びたいものに仕上がっている。それが常に、ライヴでは見受けられる。全員が個性を集結させ、爆発する。だからこそライヴ盤の発売を願いたいところだが、それは想いばかり先走った私の時期尚早ということにして、しかしながらライヴ・テイクが採用されたことに強い喜びを禁じ得ない。

 私は『ビアティテュード』から彼らを知ったという不届き者ではあるが、そこで彼らの資質を感じたのは正解だった! さかのぼるような聴き方をしてしまっていたが、今後はリアル・タイムで、できる限り応援していきたいと思っている。なので、今年はエレメンツのコーナーを作るぞ! という宣言でもって、本作全国発売への祝辞とさせて頂きたい。
 めでたく、そして、ありがたい。


freedom re captured フリーダム・リ・キャプチャード
1. (she's) in her element (シーズ)イン・ハー・エレメント
2. destiny in a motorcar ディスティニー・イン・ア・モーターカー
3. i ain't got no home アイ・エイント・ガット・ノー・ホーム
4. (i'm not) falling down (アイム・ノット)フォーリング・ダウン
5. circus of the sun (almost acoustic version) サーカス・オブ・ザ・サン(オルモスト・アコースティック・ヴァージョン)
6. helicopter ride ヘリコプター・ライド
7. stone cold blind ストーン・コールド・ブラインド
8. lemon レモン
9. circus of the sun サーカス・オブ・ザ・サン
<ボーナス・トラック>
10. helicopter ride (live version) ヘリコプター・ライド(ライヴ・ヴァージョン)
11. let's dance (live version) レッツ・ダンス(ライヴ・ヴァージョン)

(MXCY 80006)