キング・クリムゾン
『レヴェル・ファイヴ』
〜「ふるい」としてのミニ・アルバム〜 (2002/4/6)

またクリムゾンのライヴ音源である。
しかし今回ばかりは、これに色めく人々も多かった。本作に収録されたのは過去の音源ではなく「現在のクリムゾンの音」であり、しかもそれが、実質的な「太陽と戦慄
パートV」であるのだから。
5曲入りミニ・アルバムながら45分という形態の本作は、発売前から「『太陽と戦慄
パートII』によく似た新曲が含まれている」とアナウンスされていた。そればかりが噂にのぼり、他に収録された新曲1曲と過去曲2曲は、まるで無視されるようになってしまった。
だが私は、実は無視されたこれらにこそ大きな意義がある、と初めに言い切ってしまおう。
1曲目の「デンジャラス・カーヴズ」は事前情報を組み込まれていた者には、いかにも「トーキング・ドラム」を髣髴させる。聴く前からメイン・タイトルである次曲へと繋がる、雰囲気作りのためのインスト曲というイメージが働いてしまうのだ。だがよく聴いてみると、パット・マステロットが叩くリズムは幾分クラブ寄りのもので、やはりこれが最新型クリムゾンの音であると認識させてくれる。次曲に直接的に繋がるコーダ部分もノイズ音ではなく鐘の音だ。
そうして続く2曲目、メイン・タイトルの「レヴェル・ファイヴ」――当初から、この曲は「太陽と戦慄
パートV」として作曲されていた。だがフリップのよくある気まぐれで、その題名を変えてしまったという。それは『ヴルーム』『スラック』収録の「ヴルーム」が、当初は「太陽と戦慄
パートIV」の予定だったことを思い出させる。ファンの期待をそそるには充分な事前情報だ。これがもし、フリップの気まぐれではなく予定だったのなら、彼はやはり策士であると言える。
その出来は?
駄曲である筈はない。一時期より以降のクリムゾンの代表曲である「太陽と戦慄」として作曲されたものであるのだし、何よりそれを、今までで最も安定した体制を誇る現在のクリムゾンが演奏しているのだから。だが、確かに事前情報通り「パートII」に似てはいるが、寧ろ「パート
IV」に近い。そのふたつを合わせて割って、今のクリムゾンの嗜好を加えた感じだろうか……いや待て、中間部は「パートIII」にも似ている。さらには、冒頭部分は「パートI」に似ているではないか! そうやって、この曲は今までの「太陽と戦慄」の総括になっている。つまりは「太陽と戦慄」の「リメイク/リモデル」ということになる。セルフ・リメイク。あるいはセルフ・リモデル……フリップの言葉を借りるなら「楽曲も有機体であり、常に進化する」といったところだろう。もともと「太陽と戦慄」は似たリフや展開を用いて、その時代性に合わせて形態を変えて進化する楽曲だった。だがこの曲の大切な点は、タイトルが「太陽と戦慄」ではないということだ。「太陽と戦慄」は「パートV」に進化する前に時代性を読み取り、己れの持ち味を再確認する段取りを踏む必要があったのだ。「パートV」として完成するためのステップとして「レヴェル・ファイヴ」へと突入する必要性が。
はい、終わり。
ここで終わり!
……これが、本作を聴いたリスナーの大方の実情ではなかろうか。話題性充分の「レヴェル・ファイヴ」とその前奏となる「デンジャラス・カーヴズ」を、さながら「トーキング・ドラム〜太陽と戦慄
パートII」として聴いておしまい、というのが。
だが冒頭に記したように、本作の価値は、続く3トラックにこそあるのだ。
3曲目「ヴァーチュエス・サークル」も新曲だが、前曲と比べると至って地味なものだ。聞き飛ばしてしまうリスナーも少なくはないだろう。一聴するとインプロ主体と思えるが、しっかりと作曲されている。それはオーダー・メイドのみ販売された輸入盤(手書きシリアル・ナンバー入りでディシプリン・グローバル・モービルから通販された)と日本盤を聴き比べれば解ることだ。イントロこそ日本盤と通販輸入盤は違う始まり方をする(大差ではない)が、トレイ・ガンのベースと思しき主旋律が始まると、後の演奏は大体同じ。決してインプロではないのだ。しかもその雰囲気が、現在流行の「音響系」にも通じるものがある(クリムゾンが「人力クラブ・ミュージック」を始めた後に、同じ方法論で追随する者も多かった)。これにはスティックも併用しているに違いないガンの存在が大きい。フリップの音はどれかは判らないが、なるべく正確無比なリズムに徹しているのだろうし、ブリューはしっかり「クリムゾンらしい」ギターを弾いているのだろう。近作をきちんと聴いてみれば、そのギター・テクニックだけでも彼の過小評価を食い止められる筈だ。そうして迎える終わり際が日本盤と通販輸入盤ではまったく異なり、日本盤ではまたも「トーキング・ドラム」を髣髴とさせる蝿の羽音が響く。だが通販輸入盤では隠しトラック(下記参照)のイントロ部分からブリューのアナウンスを抜いたもの、それが被せられて終わっているのだ!
短い隠しトラック(曲間ブランク内に録音された次の前奏)を挟んだ4曲目「コンストラクション・オブ・ライト」は言わずもがな、目下最新スタジオ作品となる同タイトルの中心曲。この曲こそ、現在のクリムゾンの指針を最も的確に表わしている。人力クラブ・ミュージック志向ながら、正確無比のテクニック。まるでスタジオ版と同じように再現されているところに度肝を抜かれる。それは特に前半のインスト部分に顕著で、こんな曲を完全に演ってみろ、と言われてもおいそれとできやしないだろう。彼らのプロフェッショナリズムを肌で感じられる楽曲だ。
またも短い隠しトラック(同じく曲間ブランク内に録音された歓声)を挟み、見た目には最終曲である5曲目「ザ・ディセプション・オブ・ザ・スラッシュ」が続く。この曲が「ProjeKct」シリーズ最大の収穫物にして、現在のクリムゾンの方向性とリンクすることは近作を理解するリスナーには自明の理だろう。オリジナルは「ProjeKct」名義での演奏だったが、クリムゾン名義の本作トラックの方が数段切れ味鋭く、美しいながらも若干の退屈さがあった原曲を越えている。
やがてそれが「さざなみのように(この曲を表わすのに既に使い古された表現だ)」終わってから、1分ほどのブランクを経て、最近の彼らのライヴ盤ではおなじみの隠しトラックが始まる。ブリューのアナウンスと、映画の宣伝に使われるような衝撃音が被せられ、そのまま始まるインスト曲。鋭いギターが空気をつんざく。しかしリズムは乾いており、現在のクリムゾンの方向性を考えるとなかなかに興味深い。これもインプロのように思えるが、ライナーの説明によると他の新曲のひとつなのだそうだ。だがその説明が曖昧でタイトルは確定できない。最近のクリムゾンのライナーはこの“MASA
MATSUZAKI”という方が担当しているようだが、いつも情報不足、あるいは説明下手だ。ヴォイスプリント・ジャパンから発売され続けるジョン・ウェットンの盤にも彼が書いているが、毎回リスナーの憤りをかっている。フリップの信頼は厚いようなので、人間性などは決して疑わないが、必要な情報だけは書いていてほしい。
とまれ、その新曲をもって期待させ、このミニ・アルバムながら45分というヴォリュームを持つ作品は幕を閉じる。
本作に於いてクリムゾンは、現在の方向性をオールド・ファンにも解りやすいように翻訳してくれたのではないだろうか。だからこそ本作は、1、2曲目のみを目的とすると、クリムゾンに70年代的なもの「ばかり」を求める者にはうまく作用し、80年代も含めて他の時代の彼らすべてを好む者には、いまいち消化不足に聞こえてしまう。だが翻訳された現在ではなく、リアルな現在を同時に示している3曲目以降を含めれば、両者の反応は逆転する筈だ。
前述した「ヴルーム」さながらに、新曲はミニ・アルバムからスタジオ・フル・アルバムに再録音されるという。その際には国内盤ライナー(最近はデータ部分しか役に立たないものになってきている)にも記されている、他の新曲も陽の目を見ることだろう。
つまりは、本作は次作への橋掛けとなる存在であり、同時にリスナーの「ふるい」をする役目をも果たしていると言えよう。
未だに過去作の雰囲気を求めるか、
現在の彼らを見詰めていくか、
その「ふるい」を。
| LEVEL FIVE | レヴェル・ファイヴ | |
| 1. | Dangerous Curves | デンジャラス・カーヴズ |
| 2. | Level Five | レヴェル・ファイヴ |
| 3. | Virtuous Circle | ヴァーチュエス・サークル |
| 4. | The ConstruKction Of Light | ザ・コンストラクション・オブ・ライト |
| 5. | The Deception Of The Thrush | ザ・ディセプション・オブ・ザ・スラッシュ |
(PCCY 01576)