キング・クリムゾン
『ヴルーム・ヴルーム』

〜「コレクターズ」シリーズの定義とは?〜 (2001/11/1)

 クリムゾン・ファンにとってはお馴染み「フリップ翁への納税」である。
 毎回毎回、ライヴ音源を小出しにしてはファンを喜ばせ、また怒らせる。熱心なクリムゾン・ファンに義務付けられた「納税」が、また行われた。それも6人クリムゾンでの「21世紀の精神異常者」をとうとう収録して……。
 と書くと、まるでその1曲にしか意義がないんじゃないの、と言われそうだから、先に断言しておこう――

「このライヴ盤は6人編成での『21世紀の精神異常者』が収録されていることのみに意義がある」

 おお、言い切ってしまった。
 しかし、発売前より世間が注目していたのはその1点であったのはまったくの事実。発売後も、それがウリになっているのも事実だ。その事実に踊らされるわけではないのだが……その前評判の通り、というのが結論である。まずはそこから、つまりディスク1から見ていこう。2枚組にして、それぞれ別題が設けられているのに、本作のメイン・タイトルとなっているディスク1から……

 6人編成でのライヴ盤となると、我々には既に『B'ブーム』という優秀なライヴ・アルバムが与えられている。そこでの収録曲と、本作ディスク1『ヴルーム・ヴルーム』とは、収録曲が12曲中6曲、つまり半分重複している。残りも4曲はライヴ・ベスト盤『サーカス』や、各種『コレクターズ・キング・クリムゾン』で発表済だ。そうなると、最終的に残ったインプロ曲「バイカー・ベイブズ・オブ・ザ・リオ・グランデ」と「21世紀の精神異常者」に注目が移るのも必定ではないか?
 そこへきて、発表済の楽曲は、さほどアレンジが加えられているわけでもない。ダブル・トリオになってから間もない演奏の『B'ブーム』などより練られている/こなれているが、どうしても細かい部分での指摘になってしまう。無論、相変わらず演奏のクオリティは高いのだが。
 では、インプロ曲は?
 これがまた、相変わらずの調子である。『スラックアタック』の一部を抜粋でもしたかのような……この時期のクリムゾンは、どうにも似たようなインプロが多い。どれも「B'ブーム」の延長上にあるようなものばかりだ。なるべく引き合いに出したくはないのだが、70年代のインプロのように「インプロなのにこんなに聴かせるのか!」というものが少ない。次の曲への繋ぎとして、雰囲気作りとして演奏されているような感がある。
 では、大問題の1曲は?
 これはもはや、不問である。演奏も今までの編成よりずっとメタリックに尖っており、特にギターの音色が鋭い。オルタナというか、グランジ的な演奏になっている。一時期ダウンロードにより入手可能であった音源をもとにしているのだが、そちらより音量のマスター・レヴェルが高い。恐らくブリューによるソロ・パートもあり、荒々しい。6人もいるのにブレイク・ポイントではきちんと演奏を止める。恐ろしい技術であり、本作の大看板となるのは間違いない。それはこの曲が演奏された時の歓声がひときわ大きいことからも容易に読み取れる。
 が、ここで疑問がある。
 これをどうして、同曲のみでまとめたミニ・アルバムに収録しなかったのだろうか?
 それは当時のクリムゾンがこの曲を封印していることだとか、いつまでもその曲のイメージを植え付けられること、さらには、本作のようにライヴ盤としてリリースしなければ「もう持ってるからいいや。他の曲は似た演奏だし」と敬遠される可能性が高いこと、などが理由に挙げられよう。
 そう、やはりフリップは「策士」であるのだ! エサを実にうまく使っている。これは人によっては「さすがだ!」と快哉を打つか、または「買わせ過ぎだ!」と嘆くことになるだろう。
 私かい?
 私は、このライヴ盤がディスク1のみであれば、前者に回ったのだろうけどね……。

 さて、残るディスク2、こちらは『オン・ブロードウェイ』である。
 そのタイトルを見て「おや?」と思った方も多かっただろう。そしてその疑問も、内容を見ると予想通り。『コレクターズ・キング・クリムゾン』で発表済の同タイトル盤を基本にし、若干の楽曲を削除・追加した内容となっている。つまり、殆どの収録曲が重複しているのだ。2枚組であった『コレクターズ』の『ブロードウェイ』から『ヴルーム・ヴルーム』となるべく楽曲が重複しないよう(「B'ブーム」「スラック」のみ重複)選ばれた11曲を基軸とし、収録順序を変更、さらに『コレクターズ』の『ブロードウェイ』では未収録だった3曲を追加して1枚のディスクにまとめあげている。日本以外では一般流通ではないコレクターズ・クラブ音源が正規ライヴ盤にて発売ということで、海外では手放しで迎えられているのだろう。
 しかし、日本ではポニーキャニオンから限定ではあるが正規ライヴ盤扱いとして流通している。ここが悩みの種なのだ。
 つまり、海外では正規ライヴ盤扱いではないのだが、日本では正規ライヴ盤扱いである(まぁいずれにせよクリムゾン納税者にとってはどれも正規盤であるのだが)。そうなると後述するが「コレクターズ」についての矛盾が生じてくるのだ。
 では、追加収録された3曲――「セラ・ハン・ジンジート」に「フレイム・バイ・フレイム」、そして「フリー・アズ・ア・バード」――はどうだろう?
 うち2曲、「セラ・ハン・ジンジート」と「フレイム・バイ・フレイム」もやはり「相変わらず」のひとことで片が付く。相変わらずクオリティの高い演奏で、そのうえ6人編成ときている。しかし後者はやはり『B'ブーム』で披露済。しかし前者も6人とはいえさしたる変化もないのが事実。やはり細かい変更点に目がいく程度だ。普段では無視されがちな「語り」も(恐らくテープ再生で?)再現されているのはありがたいが。
 となると、必然的に注目されるのは「フリー・アズ・ア・バード」となる。
 これはこの2枚組ライヴ・アルバムのもうひとつのウリであるのだが、やはり「6人編成での『21世紀の精神異常者』」のインパクトには俄然劣ってしまう。それもビートルズの「最後の未発表曲」のカヴァーであるし、注目度はうんと低いのが現状だろう。
 しかもこれは、明らかに「ブリューの趣味」である。
 彼はソロ作でもこの曲をカヴァーしていたし、後にプロジェクトを経て4人編成になってしまったクリムゾンでのライヴでも「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」をカヴァーしていた(『ヘヴィ・コンストラクション』収録)。もちろん普通のカヴァーではなく、ピアノ音源のギター・シンセに繋いだ弾き語り……つまり「ギターによるピアノの弾き語り」というシロモノであり、そう考えると面白い。が、単純に音として聴くと、まったくヒネリもないカヴァーである。クリムゾンではなく、ブリューひとりのパフォーマンスだ。ああ、着目度もそりゃ低い。ただでさえ未だにブリューは毛嫌いされているのだから。
 というわけで、どうしてもこのディスク2に疑問を抱いてしまうのだ。
 いっそ、ディスク1だけであれば「曲は重複するけど日にちが違うし『21馬鹿』はあるし、いいんじゃないの」となるのだが……まぁ、演奏楽曲の重複は『コレクターズ』じゃ当然だし、2枚組にしては値段が安いので怒りはしないけれども。しかし正直「買わせ過ぎじゃないの?」とも思う。正規ライヴ盤では演奏時期も重なっていなかったのに、今にして、とうとう重なってしまったのだから。

 こうして改めて眺めやると、本作には同編成による曲の重複が多い。さらには日本ではディスク2の殆どの楽曲は演奏日まで完全重複となる。となると「大した魅力にも欠ける」という見解も出てきてしまうのだ。
 それを「21世紀の精神異常者」と「フリー・アズ・ア・バード」の2曲は補えるか?
 答えは、イエスでもありノーでもある。
 実際のところ「この2曲が購買目的を誘うエサになっている」というのが現状だろう。どんな公演でも聴きたい、というヘヴィ・リスナーであればそのエサがある限り問題なく聴けるのだろうが、そうしたリスナーのために「コレクターズ・クリムゾン」がある筈だ。
 しかし今回、そこから正規盤へと音源が流用されてしまった。
 これは「スタジオ」「正規盤ライヴ」「コレクターのためのライヴ」という垣根を作っていた筈のクリムゾンが、自らそれを崩してしまったことになる。それは同時にフリップの言う「『コレクターズ』は買いたい者だけが買えばいい」という価値判断が崩れてしまうことでもある。
 そう――「じゃあ『コレクターズ』はマニア向けじゃないの?」という疑問が湧いてくる。つまりは「『コレクターズ』の定義って何?」と改めて考えてしまうのだ。
 こうなるとフリップの「『コレクターズ』は聴きたい人だけ聴いてくれればいい」という発言も怪しくなる。おいおいマニア向け音源なのに正規ライヴ盤扱いかい? だとか、マニア向け程度の演奏を正規ライヴ盤として出すのか! といった感情論が湧き起こることだろう。
 しかし結局のところ、こういった矛盾は策士めいたフリップの思わせ振りな編集に、リスナーがやきもきしている程度のことだ。デモ音源や音質の悪い音源でもない限り、クリムゾンの『コレクターズ』ライヴ盤はクオリティが高い。それが一般流通になった、ということを喜べばいいだけの話である。また、それだけリスナーがクリムゾンに高いクオリティを要求し、クリムゾンもそれを提供できている証拠ともなり得る。
 だから素直に『B'ブーム』と共に聴くことにしよう。
 音源の重要性は違うが『エピタフ』と『続・エプタフ』のようなものだと思って。
 そして私は『コレクターズ』シリーズの定義を、以下のように改めて考えることにしよう。

「キング・クリムゾンのデモ、ライヴなどの音源から、熱心なリスナー向けとしてのリリース」
「またはそれが一般リスナーにも受け入れられるかとの判断材料としての先行リリース」
「そしてそれは、一般リスナーはやはり『聴きたい者だけ買えばいい』だけのこと」

 最後に、以下はまったくの私的意見となる。
 私としては、似たような楽曲を何度もリリースするよりも、ブラッフォードとマステロットによるドラム・バトル“B'Bush”あたりを収録してほしいものなのだが(ひょっとして「コナンドラム」に改題されたのじゃあるまいな?)。そういった、ダブル・トリオならではの、または未発表のインプロがあるだろうから、似たような楽曲の中にインプロを小出しにするのではなく、いっそのこと『スラックアタック』のような「インプロ集」でも出せば企画として優れていると思うのだが、いかがだろうか?
 また、今回はどうにもジャケット・デザインのセンスが……よろしいとは言いがたい。最近の正規ライヴ盤ではこの画家によるジャケットが使われているが、好き嫌いが分かれるのは仕方がない。私も嫌いではない。しかし、今作ははっきり言って「ダサい」のである。どっちのディスクとも。まぁ、ディスク1はインプロ曲からイメージされたものだろうし、ディスク2はブロードウェイにクリムゾンが出演、というイメージを男の眼鏡に投影している。
 のは解る。
 のだけれども……。


VROOOM VROOOM ヴルーム・ヴルーム
1. Vrooom Vrooom ヴルーム・ヴルーム
2. Coda: Marine 475 コーダ:マリーン 475
3. Dinosaur ダイナソー
4. B'Boom B'ブーム
5. Thrak スラック
6. The Talking Drum ザ・トーキング・ドラム
7. Lark's Tongue's In Aspic - Part II 太陽と戦慄 パートII
8. Neurotica ニューロティカ
9. Prism プリズム
10. Red レッド
11. Inprov: Biker Babes Of The Rio Grande インプロヴィゼイション:バイカー・ベイブズ・オブ・ザ・リオ・グランデ
12. 21st Century Schizoid Man 21世紀のスキッツォイド・マン
(21世紀の精神異常者)
ON BROADWAY オン・ブロードウェイ
1. Conundrum コナンドラム
2. Thela Hun Ginjeet セラ・ハン・ジンジート
3. Frame By Frame フレイム・バイ・フレイム
4. People ピープル
5. One Time ワン・タイム
6. Sex Sleep Eat Drink Dream セックス、スリープ、イート、ドリンク、ドリーム
7. Indiscipline インディシプリン
8. Two Sticks トゥー・スティックス
9. Elephant Talk エレファント・トーク
10. Three Of A Perfect Pair スリー・オブ・ア・パーフェクト・ペアー
11. B'Boom B'ブーム
12. Thrak スラック
13. Free As A Bird フリー・アズ・ア・バード
14. Walking On Air ウォーキング・オン・エアー

(PCCY 01545)