イエス
『マグニフィケイション』

〜オーケストラとの共存は難しい〜 (2001/10/2)

 オーケストラとの共演、
 そのアナウンスから、リスナーの多くは『時間と言葉』の路線を思い描いたのかも知れない。そのせいか、セールス前より批判的意見が多く、現に、アルバム製作に先駆けてイエス自身の要請で行われた「次回のツアーにオーケストラを用いるのに賛成か?」というアンケートでは、意見は見事なまでに真っ二つに分かれた。過去回帰になるのか? それともオーケストラが全面に押し出されるのか? クラシカルなアプローチを行うのか?……などと不安が先走ってしまったのだろう。
 しかしイエスは、同じことを何度も繰り返すことはしない。
 結果として、オーケストラをうまく組み込んだアルバムになった。イゴール・コロシェフ脱退によるキーボーディストの不在も、逆に有効利用できたことになるだろう。そういった人事異動を活用するのもまた、イエスらしいことではあるのだが。
 全体的に穏やかで、ジョン・アンダーソンの描く歌詞世界にこの優しい色合いの音はしっくりくる。何でも、バンドでのオーケストラとの共演はアンダーソンのかねてからの夢であったとのことで(ソロでは共演済)、ここへきてようやくその悲願を達成できた、ということになるのだろう。その想いが詰まっているせいか、オーケストラをフル活用し、彼の「楽園志向」がまた普段と異なった形で結実している。イエス作品の中では、最も歌詞世界と音が合った作品と言っても過言ではないだろう。
 心地好い。
 実に、心地好い世界である。

……しかし、だ。
 私は正直に言えば、このアルバムを「傑作」と呼ぶことはできない。確かにオーケストラの使い方は巧妙であるし、それによる味付けも嫌味ではない。かといって脇役過ぎるわけでもなく、その匙加減はきわめて良いのだろう。
 各メンバーの演奏も、オーケストラの脇役程度ではなく、しっかりと鳴っている。飽くまでメンバーの楽器がメインの楽曲作りだ。特に意外とマッチしたのはアラン・ホワイトのドラムだろうか。オーケストラとも合わせられるというのはセッション・ドラマーであった彼の成せる技で、これはかつてのメンバー、ビル・ブラッフォードでは(自分の志向とドラム・テクが前面に出過ぎて)難しいことではないだろうか。
 しかし、他のふたりは? となると少し疑問だ。
 スティーヴ・ハウのギターはアコースティック或いはクラシカルなアプローチを多く試みており、しっくりくる。しかしそれゆえに、彼特有の「弾き過ぎる」荒々しいプレイもないし、どこか影を潜めている印象が強い。クリス・スクワイアのベースかて、前作『ラダー』では暴れていたものの、今回は曲に合わせてなぞっていくようなプレイが多い。
 つまりは、協調性を重視したため、各楽器の個性が目立たずに平坦な作りとなってしまっているのだ。
 導入曲である1曲目の「マグニフィケイション」こそ、曲の盛り上げ方も往年より培われたイエス流のものでしっくりくる(因みにイエスのオリジナル・アルバムの1曲目にはまずハズレがないと私は思う)。アルバム前半の流れも、そこから自然なものだろう。
 しかし、クリス・スクワイアがメイン・ヴォーカルを歌う5曲目「キャン・ユー・イマジン」あたりから、妙な違和感を覚える。当該曲は小曲とも言える3分弱のもので、彼がビリー・シャーウッドと組んで製作したアルバムを思わせる。しかし、それが違和感の原因なのではない。
 中腹へきて、小さく、まとまってしまった。
 恐らくは中休みにもなるような配置なのだろうが、それ以後の曲が、私には非常に似通ってきこえてしまうのだ。殊に、前述した「キーボーディスト不在」がこれ以後ではネックとなってしまう。それをオーケストラで補い、半ば「シンセ代わり」のような印象を持ってしまうのだ。
 それでいて、長尺の2曲などはそのオーケストラが主導になり、メンバーの楽器個性が埋没してしまっている。整合性が崩れ、無理に引き伸ばした冗長な曲のように思えてしまうのだ。長い曲を求める往年のファンが確実に存在するので、仕方がないとも思うけれども……正直に言えば、退屈なのだ。
 また、アルバム全体の印象も、言い換えれば「カッチリとかたまっている」という言い方もできるだろう。オーケストラの音配分を考えたあげく、ほぼ均一化しているからこそ、小さくまとまっているような感さえ湧いてしまうのだ。私の好む前半部分は、(オペラなどの常套手段だが)曲に起伏を設けるためのS.E.的な使い方が巧妙だった。曲の緩急もくっきりしていた。何より、歌もバンドの楽器もオーケストラに負けていない。
 それが後半では、負けているのだ。
 それでいて、オーケストラの演奏自体にも、緩急が乏しくなる。ゆるく、やはり冗長な感があるのだ。

……という批判は、これが「イエスのアルバム」だからこそのものだ。
 これが「ジョン・アンダーソンのアルバム」であれば文句はない。寧ろ、私には本作が「アンダーソンのソロ作にイエス・メンバーが参加したような」雰囲気を感じてしまう。どこか借りてきた猫のような佇まいを。
 イエスの「イメージ」は、アンダーソンの声やハウのギター、スクワイアのベースなどと共に、常に「キーボード・サウンド」があったのではないか、と私は考える。トニー・ケイのたおやかなオルガン然り、リック・ウェイクマンのきらびやかなシンセ然り……それがないため、私は違和感を感じているだけなのだろう。恐らく、オーケストラを用いず、ライヴなどでシンセサイザーで本作を再現するのならば、評価もまた変わるかと思われる。
 しかし現在の私には、これを容易には許容できない。余り使いたくない言葉だが……「イエスらしさ」が感じられないのだ。その原因は明らかにオーケストラにあり、それを基にした曲作りにある。イメージを捨て去ることができれば、どんなにか良いアルバムとなるだろうか。

 オーケストラとの共存は、難しい。


MAGNIFICATION マグニフィケイション
1. Magnification マグニフィケイション
2. Spirit Of Survival スピリット・オブ・サヴァイヴァル
3. Don't Go ドント・ゴー
4. Give Love Each Day ギヴ・ラヴ・イーチ・デイ
5. Can You Imagine キャン・ユー・イマジン
6. We Agree ウィー・アグリー
7. Soft As A Dove ソフト・アズ・ア・ダヴ
8. Dreamtime ドリームタイム
9. In The Presence Of
 i) Deeper
 ii) Death of Ego
 iii) True Beginner
 iv) Turn Around and Remember
イン・ザ・プレゼンス・オブ
 i) ディーパー
 ii) デス・オブ・エゴ
 iii) トゥルー・ビギナー
 iv) ターン・アラウンド・アンド・リメンバー
10. Time Is Time タイム・イズ・タイム
<日本盤ボーナス・トラック>
11. Long Distance Runaround 遥かなる想い出

(TECI 24077)