ジョン・ウェットン
『アンソロジー』

〜「オフィシャルであるのに無許可」の痛手〜 (2001/7/14)

 ジョン・ウェットンのベスト盤、
 そういえば、それは今まであってないようなものだった。唯一“KING'S ROAD”というタイトルの輸入盤があったが、それはウェットンのソロ開始までのキャリアをコンパクトにまとめたものだった。クリムゾンとU.K.の曲を中心とし、ソロ第1作『コート・イン・ザ・クロスファイア』からの曲を付け足したような、中途半端な感があったことは拭えない。
 そもそも、私は、ウェットンの作曲センスは寧ろポップにあり、と考える人間だ。それは彼のソロ作をきちんと聴いていけば当然のことであるのだが、やはり世の中にはクリムゾン信者なり、プログレ幻想者が多いのでウェットンには批判が尽きない。理解する以前に、理解を拒む彼らにはウェットンの方向性が未だに見えないのかも知れない。
 だが、ポップ志向のウェットンの理解者も多く存在する。
 そこでようやくにして出た「ウェットンの」ベスト盤。この登場を喜んで迎え入れようではないか! と思ったのだが……。
 やられた。
 何が? というと、クレジットだ。
 私のように、ウェットンの作品を網羅したがる人間には、このベスト盤――『アンソロジー』を未発表曲目当てで買った者が多いだろう。確かに“Thirteen”という見慣れないタイトルのトラックが設けられ、さも未発表曲であるかのように居座っていたのだから。
 しかし、それは曲ではなかった。
 ライナーによればこれは「ウェットンが“Thirteen”という曲をクリムゾン時代に作ったが、ロバート・フリップに採用されず、それを踏まえてジョークとして3秒のブランクを1トラックに配置、それに同名のタイトルを冠した」ものであるらしい。まぁ、その経緯はいいとしよう。
 問題は、このベスト盤が「ウェットンの許可を得ていない」ことだ。
 彼の許可を得ずして、どうして彼のジョークとやらを採用できるのだろう? そこに私は大きな疑問を感じる。そもそも、3秒のブランクに曲名を付けることがジョークとなるのだろうか? 私にはそれが、単純に「未発表曲のように見せかけて売り上げを伸ばす」という、ブートさながらの手段にしか思えない。もしウェットンが正式に許可して、そのブランクに曲名が付けられたのなら仕方がないだろう。ミュージシャンの意向なのだから。しかし、このベスト盤はウェットンの許可を得ていないのだ。
 それが引っ掛かり、あやうく、良点さえも見過ごしてしまうところだった。

 一度、その大きな汚点を無視してみよう。
 選曲は(後述のように納得のいかない点はあるが)、ソロにスポットを当てるのであれば妥当な線だ。無論「どうしてあの曲を入れないのか?」「なぜこの曲が入っているのか?」という一個人からの視点はあるが、妥当とは言える。懐古盤として、時々の息抜きとなる「とりあえずの一枚」として、プレイヤーにセットしても楽しめるだろう。
 特記するべきは音質だ。本作は、各ソロ・アルバムよりもとにかく音質がいい。特に『ウェットン/マンザネラ』からの3曲などは、まるで生まれ変わったかのように良質の楽曲になっている。小粒な曲がだらしないマスタリングで収録されていたアルバムでは埋もれがちだったが、佳曲であることに今さらながら気付かされたものだ。他のアルバムからの楽曲も、随分と音質が向上している。但し『コート・イン・ザ・クロスファイア』は割合最近にリマスタされたので、そちらとの大差はない。だが無論、リマスタ前のものより向上していることは推して測るべし。
 だが、いかんせんデザインがよろしくない。これは本人無許可だからなのか、ジャケットはCGで描かれた龍の頭部(龍はライヴ盤やサイトにより定着したウェットンのシンボル)なのだが、中途半端な感が拭えない。簡単に言えばダサく、どこか野暮ったいのだ。ブックレットの中身も少しの写真とアルバム・ジャケットが無造作に写され、文字が書かれているだけ。手抜きでしかなく、素人でも作れる程度である。
 また、その時々の所属レーベルのせいもあるだろうが、タイトルに『アンソロジー』と銘打つ割には、選曲の幅がどう見ても狭い。ウェットンのソロ期アンソロジーであるのに、最新作『ウェルカム・トゥ・ヘヴン』からの選曲はない。余興のようであったけれども見るべきところもあるジャック・ナイフの『アイ・ウィッシュ・ユー・ウッド』からの選曲もない。特に「ウォーク・オン・ヘヴンズ・グラウンド」は、最近のウェットンに欠かせないポップ・センスが花開いた曲でもあったのだが。ライヴ・トラックや他ミュージシャン名義のアルバム参加曲からの抜粋などもなく、何ら気の利いている部分がない。選曲がいかにも「ウェットンが好きで自分で選曲してベスト作ってみました!」という素人ノリのものであるのだ。そのうえ……まただ。また表記ミスが目立つ。ジャケットのプログラム表記から「ホールド・ミー・ナウ」が抜け落ちており、日本語ライナーのプログラム表記もオリジナルと多々異なる。まさに「個人的ベスト」の領域を脱していないではないか。
 ひどくアマチュアの匂いがするベスト盤である。
 午後のひとときや、街の散歩のBGMぐらいには良いだろうけれども、これを「ウェットンのベスト」とするにはいささか抵抗がある。
 確かに、前述のように『ウェットン/マンザネラ』期3曲のリマスタリングは抜群だ。だが全体に漂うCD部分の素人臭さが、その3曲のために金を投げ打つ覚悟をためらわせる。繰り返しになるが、確かに音質はいいのだ。しかし音質だけを売りにしたところで、目新しさも懐かしさも、何らの配慮も感じられないのは問題だろう。せっかくの歌の良さも、素直に評価できなくなってしまう。
 これをお勧めできるのは「ソロのウェットンを聴いてみたいが、どれを買えばいいか解らない」という方に「とりあえず、でよければ」と差し出す場合ぐらいだ。あとは、ウェットンの全作コンプリートを目指す方か、音質の違いを聴き比べて楽しむ余裕のある方ぐらいだろう。

 オフィシャルであるのに無許可、
 どうしてもそれが痛切に感じられる、中途半端なベスト盤である。
 音質だけは、飽くまでも、すごく良いのに……もったいない。


*例によって邦題の不採用、タイトル表記の差違などが認められるので( )内にそれを補足します。

ANTHOLOGY アンソロジー
1. Caught In The Crossfire コート・イン・ザ・クロスファイア
2. Have You Seen Her Tonight
(原題では最後に“?”が付く)
ハヴ・ユー・シーン・ハー、トゥナイト
(オリジナル邦題:彼女に会ったかい?
 また原題にもカンマなどなく、
 なぜ句読点が設けられるのか疑問である)
3. Batle Lines バトル・ラインズ
4. Jane ジェーン
(オリジナル邦題:愛しのジェーン)
5. The Circle Of St.Giles ザ・サークル・オブ・セント・ジャイルズ
6. The Last Thing On My Mind ザ・ラスト・シング・オン・マイ・マインド
7. Desperate Times ディスペレイト・タイムズ
(オリジナル邦題:デスペレイト・タイムズ)
8. Cold Is The Night コールド・イズ・ザ・ナイト
9. Paper Talk ペイパー・トーク
10. Suzanne スザンヌ
11. Round In Circle ラウンド・イン・サークルズ
(オリジナル邦題:円を描いて)
12. Crime Of Passion クライム・オブ・パッション
13. Thirteen サーティーン
14. I'll Be There アイル・ビー・ゼア
15. Emma エマ
16. Hold Me Now
(ジャケット無表記)
ホールド・ミー・ナウ
16. Space & Time
(原題は“Space And Time”)
スペース・アンド・タイム
17. After All アフター・オール

(MSIF 3837)