ジョン・ウェットン
『ライヴ・イン・トウキョウ 1999』

〜回収台ならぬ回収CD〜 (2001/1/1)

 詐欺だ、
 ジャケットを見て、まずそう思った。
 私は本作に収められている公演を、観に行っていた。1999年の夏にしてようやく、初めて目にする生のジョン・ウェットンを。
 その公演は本作のライナーにも記述してあるように、本来はジェフ・ダウンズ、カール・パーマー、そしてウェットンによるエイジア・リユニオン・コンサートとなる筈だった。しかしダウンズがそれを拒否したため、エイジアはリユニオン寸前に空中分解。だが「それでもライヴをやってほしい」との日本プロモーター側の意向のもとに、ウェットン単独でのライヴとなったのだ。
 そうして始めて見るウェットンは、昔の面影はどこへやら、急激に太り、髭を蓄えていた。私の席はステージには近くなかったためギターとベースの区別も付かず、実のところ、歌い始めてようやくそれがウェットンであると気付いたほどだ。
 だのにジャケットには『アクスティカ』のジャケットに変色加工されて使われた写真、その元写真を流用している。内ジャケは『サブ・ローサ』の流用だ。よって、髭面の太っちょであった事実はどこへやら。おまけに唯一オリジナルであるバックレイは、富士山をバックに数機の飛行機が飛んでいるという、非常にセンスの悪いものだ。
 もはや、ブートレッグとの区別も付かない。購買意欲を失わせるジャケットであると言わざるを得ない。
 しかしまぁ、そういったことはよくあることだ。特にライヴ盤では「曲順が違うぞ」だの「ここじゃ観客の拍手はなかったぞ」だのと言われることは、どのミュージシャンでもままある。そういった「中身の問題」は別として、ジャケットなぞ服であるのだから、最後は中身で勝負すればいい、そう思いつつ、ライヴ観賞の想い出を噛み締めながら購入した。
 それが、失敗だった。
「想い出で終わらせておけばよかった!」
 これが、最初の感想なのである。

 何が酷いって、とにかく音質だ。前述の「よくある不評ライヴ盤の原因」2点は、プログラムは一応順番通りであるようだし、拍手や歓声も、明らかに嘘臭い、被せた気がしない部分もないではないが、まあ頷ける……のだが、この音質は許しがたいものだ。
 なぜかって?
 あなたがたは、ファンからものすごい不評をかったアコースティック・ライヴ盤『ヘイジー・モネット』をご存知だろうか? まるっきり客席から録音されたことが明白なうえ、観客の下品な笑い声まで入っており、そのうえウェットンの声や演奏よりその客の声の方が良く聞こえるという、最近稀に見るほどの悪質録音盤のことだ。それをご存知なら、話は早い。本作は、それとほぼ同じ環境で、観客の話し声と笑い声を取り除いた程度(いや、もうちょっとはマシか)の音質であるからだ。
 最近は、ブートレッグだってもう少しマシな録音をしてくれる。もはや「会場の音の返りが悪かった」などという次元ではない。それをオフィシャルで出してしまえる、という「ウェットン周囲の状況」に私は疑念を抱かざるを得ないのだ。
 その前に、音質についてもう少し具体的に触れておこう。
 冒頭のインスト「ザ・サークル・オブ・セント・ジャイルズ」からして、何だかこもったような不明瞭な音質で始まる。それでもまあ、これはキーボードのインストだから仕方はないかと思って聴き続けてみる。すると、その曲が収録されていたスタジオ盤『アークエンジェル』と同じように「ザ・ラスト・シング・オン・マイ・マインド」に続いていくわけだが、ここで音質の悪さがますますもって明らかになる。
 高音が、聴こえない。
 よーく集中して聴くと、かろうじてサポート・メンバーであるデヴィッド・キルミンスターのギターが聞こえてくるのだが、気を抜くと、ウェットンのベースにそれが掻き消されてしまう。そう、低音域に比重が置かれたミックスになっており、高音域は随分と潰されてしまっているのだ。
 そのうえ歌が始まると、疑念は確信となる。
 まるで風呂の中で歌っているような声、
 確かにウェットンの声はこもりがちで掠れているから、反響しやすい声質かも知れない。しかし、そんな人間の声色で誤魔化されるようなものではないぞ、これは。かといって前述のようにハコの状態で言い訳できるようなものでもない。
 あ、やられたな。
 恐らく本作は、公式盤で発売する予定もなく、単なる記録として残しておいたものなのだろう。それこそ『ヘイジー・モネット』と同じだ。だが、その日のライヴをCD化してほしいというファンの声は多く、同日のブートレッグは横行するし、おまけに日本のマーケットはウェットンにとって重要な拠点だ。
 そこで、この音質を改良することもなく、リリースされるに至ったのだろう。
 私は「日本のマーケットがウェットンの重要な拠点」と書いたが、それはあながち嘘でもない。現に、ウェットンのファン・クラブは日本にある。本国イギリスではその存在さえも不明だ。その現状が物語っているように、ウェットン・ファンの多くは日本にいる。それは彼がソロ・アルバムのリリースに於いて契約が難航していた際、日本で『ヴォイス・メイル』をリリースして以降、明白だ。
 そこへきて最新スタジオ盤『ウェルカム・トゥ・ヘヴン』の存在。
 海外では“WELCOME TO HELL”と名を変え中身を変え発売される(後日追記:その予定だった)その最新スタジオ盤が「日本と海外」でもって区分されていることが、まず日本のマーケットの大きさを物語っている。「イギリスとアメリカ」などではないのだから。そのうえ国内ライナーには「ウェットンはアルバム録音もできないほどの資金難に見舞われ、否応なしにライヴ盤リリースを続けていた」とある。とすれば本作や、それと比較している『ヘイジー・モネット』のような悪品質ライヴ盤も、その一貫であるのだろうか? そう言われてしまっては、彼の演奏よりも彼自身を愛してしまっているコアなウェットン・ファンなどは、納得せざるを得ないではないか。販売元は違うものの、双方とも親会社がマーキーであることがまた疑いに拍車を掛けてしまう。
 まあ、それを信じたうえで、仕方ないこととしよう。
 あの文は、こういった今後のライヴCDの音質の悪さを前もって宣言し、納得させてしまう名文であったのだ、と。

 さて、演奏であるが、これはなかなかの好演である。というよりも、そう言わないとこのライヴ盤の存在価値さえなくなってしまう……言い換えれば「普段のウェットン・ライヴらしい」のひとことに結実してしまうのだが。
 当日は音響トラブルがあり、ギターが鳴らなくなってしまったこともある。その部分もそのまま「実況録音」という言葉で正当化されて残っている。かのロバート・フリップであれば、間違いなくその音源は使用しないか、ミックス時に音を被せるだろうけれども。
 あ、終わってしまった。
 というように、演奏については別段語ることは多くはない。せいぜい「エイジア・リユニオンの予定だったためかエイジア曲が普段のライヴより多目になっている」ということぐらいだ。そのセルフ・カヴァー具合もできるだけオリジナルに忠実であり、キルミンスターのメタリックなギターがチトうるさいかな、と思ってしまう程度だろう。もう少し音質が良ければ、私も語る言葉を選んだであろうし、得ていたであろうけれども。
 そうそう、当時話題を呼んだ「スターレス(暗黒)との決別宣言」のMCも収録されているのだが、これが実に曖昧な言い口であった。私の拙い聞き取り能力のうえで、意訳してみると以下のようになる。
「この曲は最後の演奏だ。バイバイ、スターレス」
 最後の演奏というのは「今日のライヴの最後」であるのか「スターレスという曲を演奏するのが最後になる」のか判らない。さらには続く「バイバイ」も、「観客に投げた別れの言葉」なのか「スターレスという曲に投げた別れの言葉」なのかはっきりしない。
 もしや、そのどちらの意味も含めて、ウェットンはそう言ったのだろうか?
 現にその日のライヴは「スターレス」で一端、幕を閉じた(日本盤プログラムではこの曲からアンコールであるかのような表記をしているが、それは誤り)。CDではすぐにもう2曲続いているが、これらはアンコールである。そのため「ライヴの最後の曲」でもあるし、しかしこのライヴの後、しばらくウェットンは「スターレス」を封印していたという情報もある(だが最近ではまた演奏している)。
 そのダブル・ミーニングのメッセージを投げかけておいて、フリップ言うところの「曲を演奏することのできる時代になった」頃には復活させた、ということにでもなるかも知れない。
 ただ、そのMCさえもよくは聞き取れないぐらい音質が悪いのが現状である。

 私は、このライヴには或る種の想い出がある。
 ウェットンの声との出会いが、年齢的に遅かった自分自身。だからこそ、1999年にしてようやく出会えた生のウェットン。これに感激し、涙してしまったからだ。目の前に伝説を作った男がいる、という想いのもとで。
 しかしこのライヴ盤では、その疑似体験はできない。
 当日体験者は想い出が打ち壊れるか、まあ仕方がないと諦める。一方の未体験者は、私が涙した理由など解らないだろう。本作に太鼓判を押す人には、私は「ウェットンであれば何でもいいという、評価もできない偽善ファン」もしくは「ライヴ盤というものや、ウェットンの曲に対する嗜好が普遍的ではないか、客観的に見ることのできない人物」との疑いを投げかける。そう断言してしまえるほど、つまりは「どーだっていい(あ、言っちゃった)」出来でしかないのだ。私が当サイトを立ち上げてから、時期的には書けた筈のQANGOの『ライヴ・イン・ザ・フッド』のレヴューを書かなかったのも、実はそれと似た理由である……結局は、同じことの繰り返しだったからだ。それを安心めかして書くこともないだろうと思ったし、無理に誉めたり貶したりする必要もないだろう、そう判断してのことだったのである。
 しかし本作は、貶すだけの価値はある。
 良い意味でも、悪い意味でも、また違った意味でも……「貶すだけの価値」は。ライヴ内容からすると、ごく似ているものの高音質の『ノーマンズランド』を買った方がいいし、そちらの方が満足度も断然高いのは歴然としているが。

 パチンコには、回収台というものがある。
 パチンコ屋はもちろん玉を出す台を作ってやらないと客が入らない。しかし全部が全部、出てしまうと儲けにもならない。だからこそ「悪質の」台を作っておいて、そこで利益を得るのだ。
 本作は、その回収台ならぬ、回収CDとでも言えようか。勝ち続けたい人は無視すればいいし、負けてもいいからウェットン・ファンを続けたい人は買えばいい。または、キング・クリムゾンの発掘ライヴ盤さながらに、毎年税金を納めているようなものだ。その還付金代わりのCDがクリムゾンでは高品質なのだが、ジョン・ウェットンでは粗品が戻ってくる。しかし税金だから同様に納めなければいけない……そうとでも考えればいい。

 だからね、
 私が言いたいのは、そうとでも思わなければ「やってられない」ということなのだよ!


 最後に、アルバム評とは異なることなのだが、ひとつ、どうしても書き残しておきたいことがある。
 前項『ウェルカム・トゥ・ヘヴン』でも少し触れたが、マーキーより発売されているCDの邦題表記に、私は毎回憤りを感じざるを得ない。それも本作の発売元であるヴォイスプリント・ジャパンには特に、だ。
 まずは前項でも触れたが“of”の発音は「オ」ではない。「オ」である。“v”は「ブ」でも「ヴ」でも許されるが、“f”は明らかに“ヴ”などとは読まない。
 そのうえ、本作『ライヴ・イン・トウキョウ 1999』は他の曲も日本語クレジットが酷い。まず別レーベルで発売され続けているアルバムでは生き残っている邦題の存在が無視され、カタカナ表記になっているものが多くある。それは目をつぶったとしても、何も“Emma”までひねくれて「エンマ」と読むことはないだろう。「エマ」のままでいいんだから。あまつさえ“Heat Of The Moment”が「ハート・オヴ・ザ・モーメント」とはどういうことか? 自作編集テープに自分好みにタイトルを付けるリスナーじゃないんだから「こう書いた方がカッコいいでしょ?」ってな問題じゃないんだぞ。
 おまけにオビとライナーでは表記が異なり、ライナーでは曲やアルバム・タイトルを統一せず原題と邦題で呼ぶこともあるんだから、滅茶苦茶だ。曲順の表記を間違っていることもしばしばあるし、今回はそれが特に酷い。普段は文章の部分部分を装飾することをあまりしない私でも、警告の意味を込めて、こうして強調してしまうほどに。インディー・レーベルだからといって許されることではないぞ、これは。仮にも公式盤なのだし、こんなことをアマチュアである私に指摘されている場合じゃなかろう。まったく……そのうえ以前、輸入盤に表記されている曲の原題が“Night Watch”であった際、ライナーで「正確には“The”が付く」だとか偉そうに指摘していたこともあった。何が「正確には」なんだか。自分のことを棚に上げておいて。
 よって特別に、本項末尾のプログラム表示はオビと日本語ライナー双方を掲載する。フツーはそんな必要ないのにね……まあ、見てみて頂きたい。決して、私が記入ミスしているのではないのだぞ。
「買わなければそんな思いもせずに済むだろうに」という虚無を気取って問題解決した振りをするニヒリズムはなしに、お願いしたいね。


LIVE AT THE SUN PLAZA TOKYO 1999
(最も正確な表記)
ライヴ・イン・トウキョウ 1999
(オビ表記)
ライヴ・イン・トウキョウ 1999
(ライナー表記)
<Disc-1>
1. The Circle Of St.Giles ザ・サークル・オヴ・St.ジャイルズ ザ・サークル・オヴ・St.ジャイルズ
2. The Last Thing On My Mind ザ・ラスト・シング・オン・マイ・マインド ザ・ラスト・シング・オン・マイ・マインド
3. Sole Survivor ソール・サヴァイヴァー ソール・サヴァイヴァー
4. Battle Lines バトル・ラインズ バトル・ラインズ
5. Book Of Saturday ブック・オヴ・サタデイ ブック・オヴ・サタデイ
6. Martin Orford's Solo マーティン・オーフォード・ソロ マーティン・オーフォード・ソロ
7. Emma ザ・ナイト・ウォッチ エンマ
8. The Smile Has Left Your Eyes エンマ ザ・スマイル・ハズ・レフト・ユア・アイズ
9. Hold Me Now ザ・スマイル・ハズ・レフト・ユア・アイズ ホールド・ミー・ナウ
10. The Night Watch ホールド・ミー・ナウ ザ・ナイト・ウォッチ
11. Only Time Will Tell 時へのロマン
12. In The Dead Of Night イン・ザ・デッド・オヴ・ナイト
<Disc-2>
1. Easy Money オンリー・タイム・ウィル・テル イージー・マネー
2. After All イン・ザ・デッド・オヴ・ナイト アフター・オール
3. Rendezvous 6:02 イージー・マネー ランデヴー 6:02
4. Time Again アフター・オール タイム・アゲイン
5. Starless ランデヴー 6:02 スターレス(アンコール)
6. Heat Of The Moment タイム・アゲイン ヒート・オヴ・ザ・モーメント
7. Don't Cry スターレス(アンコール) ドント・クライ
(8.) ハート・オヴ・ザ・モーメント
(9.) ドーント・クライ

(VPJ 159〜60)

間違い探しCDかッて言うんだ!