イエス
『ラダー』
〜素晴らしき哉「融合」精神〜 (2000/6/19)

『危機』と『ロンリー・ハート』の融合、
それが90年代イエスの絶対的命題であった。
その命題をもとに作成されたアルバムは多数ある。中途半端な『危機』的側面(長い曲、ってことぐらいだが)が打ち出されていた曲しか評価が良くなかった『トーク』や、命題が掲げられておきながら『ロンリー・ハート』的側面が強くなった『オープン・ユア・アイズ』、さらに言うなればリック・ウェイクマンが一時復帰していた『キーズ・トゥ・アセンション』のライヴ・ラインナップも再現然り、であった。スタジオ・ナンバーはどうにも評価が低いが……。
果たしてそんな融合など果たせるのか? ということがさらなる命題になってしまったように思えた頃、
できたのである。
無論、この『ラダー』に於いて。
空間的な広がりを持たせつつ、誇張せずしっかりまとまる。ポップ寄り/プログレ寄りという音の質こそ違えども、それはジョン・ウェットンがエイジアで果たした「プログレとポップの融合」と本質は同じであろう。
じっくり聴いても楽しめる、
軽く聴いても楽しめる、
賛否はあれども、少なくとも許容は広い。「コレ解んねえんだったらあっち行けよシッシッ」でもなく「ほらほらこっちにおいでよ楽しいよー」でもない。中庸と言えば言葉は悪いが、それをイエスが果たしたということが問題なのだ。EL&P並に、エゴとエゴのぶつかり合いを体現してきたイエスだからこそ。『危機』は繰り返し聴けば満足感も大きいが、かなりの集中力が必要になる。『ロンリー・ハート』は繰り返し聴いても苦ではないが、どこか薄っぺらな部分がある気がして仕方がない。だが本作は、繰り返し聴けるうえに満足できるのだ。
曲自体について言うなれば、全体的に「楽園志向」を感じさせる。ジョン・アンダーソンは、イエス/ソロ問わずそれを目指してきた側面があったのは明白だと思うが、それがようやく、ここに結実した感がある。そしてそれは「統合」でもある。
各メンバーについて触れれば、クリス・スクワイアは「限りなく暴力に近いベース・フレーズ」の復活を遂げ、アンダーソンは常々提唱する「愛」の世界を言葉により限りなく具現化した。今までの活動から得たものを取り繕わず素直に出せるようになったスティーヴ・ハウの個性的なフレーズ、相変わらず堅実なアラン・ホワイトのドラムさばき、イゴール・コロシェフの意外なまでに「イエス的(=リック・ウェイクマン的)」な音色と、そのひとつひとつではバラバラになりかねない音を結合させるかのようなビリー・シャーウッドの多彩なプレイ……といった、ありがちな言葉ではあるが、実にうまく、それらが噛み合っている。最近の「個人主張型」イエスにはなかなかできなかった「全体、そして全員のアンサンブル」が成されているのだ。
それこそが、『危機』と『ロンリー・ハート』の融合の「鍵」ではなかったのか?
各人が今まで、俺が俺がと自己を誇示し過ぎていたがためにまとまりに欠けていた。それこそ過渡期EL&Pの『ワークス』のように。近作に於いて、これほど気持ちよくスクワイアとアンダーソンの歌声が絡み合っていたものもないだろう。
融合の鍵は、実はメンバー自身が宿していたものなのだ。
だからこそ私は、最終曲「ナイン・ヴォイシズ」にかぶさる「トゥルル・トゥルル」という「アイヴ・シーン・オール・グッド・ピープル」さながらのコーラスに、黄金期のテンションを取り戻したイエスの自信のようなものを感じずにはいられない。並びに、イエスに瑞々しい活気を取り戻し、そのテンションを取り戻すための起爆剤となったシャーウッドの脱退が残念に思えてならない。まるで、それこそが自分の責務であると確信し、懸命に果たした満足感から歩み去っていったかのような彼の痕跡が……。
まあ、苦言を呈すれば「結局ポップにできてるんだよなぁ」といった趣もあるが、そういった非難を覆い隠すだけの「統合された理想世界観」がここには存在する。アルバムを発表するたびに影で囁かれてきた「イエスはまだ存在する必要があるのか?」という問いに、今こそ“YES”と胸を張って、答えられるだろう。
因みに、ボーナス・ディスクの過去曲ライヴは「現代風に力押しなリメイクだ」と批判されがちですが、僕は結構好きです。なぜならイエスが元気だと再確認できるから。
| THE LADDER | ラダー | |
| 1. | Homeworld(The Ladder) | ホームワールド(ラダー) |
| 2. | It Will Be A Good Day(The River) | イット・ウィル・ビー・ア・グッド・デイ(リヴァー) |
| 3. | Lightning Strikes | ライトニング・ストライクス |
| 4. | Can I? | キャン・アイ |
| 5. | Face To Face | フェイス・トゥ・フェイス |
| 6. | If Only You Knew | イフ・オンリー・ユー・ニュウ |
| 7. | To Be Alive(Hep Yadda) | トゥ・ビー・アライヴ(ヘップ・ヤッダ) |
| 8. | Finally | ファイナリー |
| 9. | The Messenger | メッセンジャー |
| 10. | New Language | ニュー・ランゲージ |
| 11. | Nine Voices(Longwalker) | ナイン・ヴォイセズ(ロングウォーカー) |
| <Bonus Disc> | ||
| 1. | I've Seen All Good People a) Your Move b) All Good People |
アイヴ・シーン・オール・グッド・ピープル a) ユア・ムーヴ b) オール・グッド・ピープル |
| 2. | And You And I a) Cord Of Life b) Eclipse c) The Preacher The Teacher d) The Apocalypse |
同志 a) 人生の絆 b) 失墜 c) 牧師と教師 d) 黙示 |
(VIZP 6 / VIDV 18)