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「スノーホワイトとの同居顛末記04」

著:グリーン=ヒル
訳:Yen-Xing                                                                      
 
 

 街を駆け抜ける風も暖かくなる、春

 この学院にも召喚術を学ばんと志し、やってきた若者が集まってきた。当学院は他都市の学院と異なり「門戸は広く、実力主義、本人任せで、後はがんばれ」と若手を育てる気がやる気があるのか無いのか今ひとつ不安になるような方針を主張している。何も大金を積まなくとも入学自体は出来るがより高度な学問を修めようとすると相応の実力が要求されるのだ。その率およそ8割、その甲斐あってか最終過程まで進んだ召喚術士は非常に優秀なことで知られる。もっとも一癖も二癖も有る者達ばかりだが……

 ともかく、期待と夢を胸一杯に詰め込んだ新入生達の数は多く、教授会のなかでは下っ端に位置する私は彼らの面倒を見るという仕事を押しつけられた。果たしてどのような若者かと不安を抱いていたのだが、彼らの有様は、というとこれがまた酷い有様で……

私が教壇の前にたっても一向に止まない雑談
授業ガイダンスがはじまってゆうに20分も立っているのに悪びれもせず入ってくる遅刻者
延々、説明会中化粧したあげく「聞いていませんでした」とのたまう女学生

……やる気は有るんですか? 諸君

ふと、教室内を見渡すと我流で召喚したのかエルフの少女を連れて見せびらかしている者までいる。ご丁寧に重たそうな金属製の首輪が悪趣味にも付けられている。その表情を見ればお世辞にも厚遇しているとは言えなさそうである。おまけに瞳に光がない。術で意識まで縛っているのであろうか。

「君、学園内での召喚術は資格と許可を取ってからにしたまえ。」
「コイツは俺の命令を聞くように親がオレにくれた物です。あんたが私有物に対して口出しすんなよ!」

仮にも召喚に応じてくれた存在に対し「物」呼ばわりとは……程度が知れる。大方召喚術を対象を支配する術という程度にしか理解していないのであろう。此処はちょっとお灸を据えてやるか。

パン!

教壇を手にした学生簿で一叩きすると音に驚いたのか学生全員が此方を向く。その機を捕らえてすかさず話を続ける。

「此処で諸君らに一つ忠告しておきたい。召喚術とは相手を自分の意のままに制御する術だと思っている者もいるようだが、実際には相手に丁寧に依頼を行い、遂行してもらう術である。その方法如何によっては相手の機嫌を著しく損ねる事もある。例えばこの様に」

と、そこで私は指を鳴らした。

教室内に響き渡ったその音は一定の周波数を保ち、術に捕らわれている彼女の目に光がともった。

「助けてください!」

悲痛な彼女の叫びはその教室中の全ての学生の耳に突き刺さった。有る程度想定していた私はまだ無事だったが……この分だと学生達は意識が朦朧としているかも知れない。

「何をしやがる!人のエルフを勝手に開放しやがって!!」

彼女の所有権を主張していたその青年は私に躍りかかってきた。が、その程度は想定済みだ。

「セレーネ」
「は〜い♪」

緊張感を甚だしく殺ぐような声と共に窓からスノーホワイト……セレーネが飛び込んできた。そして手のひらに冷気を集めたかと思うと青年に投げつけた。エルフを開放した私のことしか眼中にない青年がセレーネに気が付くはずもなく……見事にその場に氷柱となって文字通り釘付けとなった。

「コイツを職員室へ運んでそこで解凍して学院長に事情を説明してくれ。多分停学処分だろう。」
「停学処分で良いの?」

『停学処分』の言葉に場がざわつく。まさか入学早々此処まで酷い処分が下されるとは思いもしなかったのだろう。が、入学要項にも「不要の召喚はこれを堅く禁ずる」と明記されている。しかも、教授連絡会で彼には数度の警告がなされていたことが報告されていた。にもかかわらずこの行為である。停学処分はまぁ、妥当な線だろう。

「助けていただきありがとうございます。しかし……そちらの精霊は絶滅危惧種のスノーホワイトでは有りませんか?」

助けたエルフの発言に教室が再びざわつく。普通はそう思うだろう。が、コイツは一癖も二癖も有るスノーホワイトなのだ。

「だってセレーネは召喚されているんじゃなくて自分の意志で此処にいるんだモン」
「まぁ! そんなことがあるなんて……」

驚きを隠せないエルフの少女。まぁ、余所では自由意志で人間に付いてくる精霊は珍しいのだろう。この学院でいえばそう珍しい物ではなかったりするが。

「貴方の身柄は教授会が預かります。今回は貴方を縛る召喚術を即席で無効化していますが効果はこの学院内でしかありません。出来るだけ早く完全解放しますので暫くお待ちください」

私の言葉に深々とエルフ式のお礼をして答える少女、衣服から判断してかなり身柄の良い出自と思われる。後々問題にならなきゃ良いけど……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

不幸なことに

この予想は見事に当たった事を最後に記しておく。
 
 
 
 
 

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