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「スノーホワイトとの同居顛末記03」

著:グリーン=ヒル
訳:Yen-Xing                                                                      
 
 

学園の冬は寒い。

幸いにも冬季に降る雪の量はそれほど多くない。積もるか積もらないかと言ったところだ。北の豪雪地方で見かける雪下ろしの重労働からは開放されているのだが……平野と言うこともあり、遮る物が何もない平野を吹き抜ける乾いた風はかなりの速度を持つ。寒風はともすればしっかりと着込んだコートの上からでさえその冷気を体に叩き付ける。平原に生きる人々は街の周りに巡らせた高い城壁とどっしりとした石造りの家の中でその寒さが通り過ぎ、やがてスパークヘッジホッグが己の影を見るまでじっと堪え忍ぶのだ。

しかし、何事も例外という物はあるのもで……

「セレーネ! 頼むから帰ったら窓を閉めてくれ!!」
「え〜? 折角気持ちいい風と遊んでいたのにぃ〜」

この厳寒の中、彼女たちスノーホワイトにとって北部上空の冷たい空から吹き下ろす風は故郷からの便りであり、また遠い異国の地で巡り会った古い友人のような物なのだろう。冬に入ってからセレーネの「お出かけ」回数は一気に増えた。もっとも、彼女は私が召喚・支配している精霊ではないし、こちらも彼女の行動を余り制限するつもりはない。一々外出先を聞くこともしていない。何時でもセレーネが帰ってこられるように2階の窓を一つだけ鍵をかけず半開きにしているのだが……セレーネは帰ってきたときにこの窓を閉めないのだ。火災防止の意味もあり、寝る前に暖炉の火は当然落とす。よって夜間、熱源を失った室内温度は下がる一方だ。そんな状態で窓を開ければ……当然室温は急激に下がる。

水が凍り付く様な寒さの中でさえその身に薄着をまとい素足で駆け回れるスノーホワイト達にとって「寒い」という感覚は我々人間とは大きく差違がある。現在の寒さも彼女たちにとって「気持ちのいい」代物らしい。もっとも、たかだか人間であり、貧乏が故に薄い布団と毛布をひっかぶってどうにか寝ている私にとってこの寒さは足に冷水をぶっかけられるような物であり……結果、此処数度と無く夜中に飛び起きる羽目となったのだ。
(学生諸君へ、眠気覚ましには足を冷やすと効果的である。一度お試し有れ)

「セレーネ、これだけはお願いだ。帰ってきたら窓の戸を閉めてくれ。鍵はかけなくても良いから」
「そもそも、なんで窓に『扉』なんてあるの?」
「いや、扉がなかったら開きっぱなしじゃないか」
「窓って閉める物なの? ずっと『なんで閉めているんだろう?』っておもっていたけど」
「こんな所に異種族間の生活環境の差異がでようとはッ! 有無、早速次の講義にコレを組み入れないと!!」
「って、お〜い……あ、だめだ、論文モードに入っちゃった」

そして……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「ふぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜あ、昨夜はいきなり夜中に講義用の資料作成しはじめたからなぁ。あ〜まだ体が寝てるや」
「もう! 起きて!って何回も起こしたのに〜」
「さっきの鐘何回鳴っていた?」
「え〜っと、9回。かな?」

「なんだってぇ〜〜!!!」

9回ってことは完全に遅刻じゃないか!!
よりにもよって今日は早朝から教授会の打ち合わせがあるというのに!!!

結論から言うと教授達があつまった中で遅刻を責められたのは言うまでもない。

遅刻を責められるのは学生だけではないのである。
 
 
 
 
 
 

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