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キキーモラ

著:グリーン=ヒル
訳:Yen-Xing
 

今回は我々になじみが『深かった』箒と共にいる精霊を取り上げたい。「キキーモラ」と呼ばれるこの精霊は古来より我々の側にいた。その記述は古代帝国時代にまで見受けられる。

キキーモラのついて述べるに当たり、ちょっと本人? を呼び出して話を聞いてみたいと思う。机の上を簡単に片づけ、六紡星の魔法陣を記した布を広げる。簡単な準備だがこれで十分だろう

『アブラ・ラ プエルタ デル ティエラ 

     汝 六大の均衡を守護する者 歪みを正し邪なる力祓う 清めの聖霊よ

   盟約に従い 我が前に現れよ *・*** ******』

魔法陣に精霊界へとつながるゲートが開きその中からかわいらしい姿を持った者が現れた。

「お呼びになりました?」

擬人化した犬にメイドの格好をさせて箒を持たせたようなその精霊、キキーモラは召還主の私に挨拶をすると
周囲をきょろきょろと見渡した。

「また派手に散らかっていますね。これはお掃除し甲斐がありそうです」

「掃除をしてもらえるのは有り難いけど、それはまた今度にするとしてちょっと聞きたいことがあるんだ。いいかな?」

怪訝そうなキキーモラの前にミニサイズの椅子と同縮尺のコップに入ったミルクを差し出す。箒を手近な魔法辞書に立てかけ、椅子に腰掛けるとコップを受け取り一口つける。どうやらお気に召してくれたようだ。

「まず、何で掃除をしてくれるの?」
「誰の為って訳ではありません。召喚呪にもある通り私たちは歪み、もっと端的に言うなら散らかった状態が我慢できないのです。それで呼ばれた主の指示の場所を掃除しているんです。私たちが普段から居着いた家ではもっと積極的にお掃除させていただいています」
「じゃあ、掃除のために呼ばれるのは本望ってこと?」
「あまりしょっちゅうだと私たちも怒ります。たいていは寝ている間に寝具をはぎ取って風邪を引かせるぐらいですが、実際にそこまでやることは滅多にないですね」
「仲のいい精霊っている?」
「家に居着かせてもらっていますのでブラウニー達とは仲がいいことが多いですね、同じ属性でもありますし。逆にいたずら者のレプラコーンや部屋中散らかしてくれるポルターガイストとは大喧嘩になることもあります。もっとも、喧嘩の後かたづけは私たちがすることになるんですが」

 そう彼女は笑って答えると僕にミルクのお代わりを頼んだ。追加のミルクと自分のお茶と片手に書斎へ戻ってくるとすでに書斎はきれいに掃除された後だった

「いつもながらあっという間に掃除が終わるけど、どうやって掃除しているの?」
「きれいにしているわけじゃないです。有るべき様になるように箒の力で元へ戻しているだけです」
「そもそも、有るべき姿とは?」
「全てが整然となっている状態です。この世の法則で、全ての物は整った状態から乱雑に崩れた状態へと遷移していきます。私たちはその状態を元の整然とした状態に戻しているだけです」

基本的にきれい好きな精霊だけ有って整理整頓された環境がなにより好きらしい

「戦闘に使われるのは嫌?」
「あまり好きじゃないです。でも、召喚主の命令とあらば従わざるを得ません。もっとも、家の中で暴れるような相手の場合は別ですよ? 室内を整頓しつつ戦う存在って聞いたこと有りませんから」
「君の能力は相手の「常に働いている力」を一時的に消す力だけどそれってやっぱり歪みを正す力の応用なの?」
「そうです、常に働く力は大なり小なり周囲の世界に歪みをもたらします。それを箒で元のあるべき様に戻しているんです」

「最近、君たちの箒だけが出回るようになったけどそれについてはどう思うの?」
「何ともいえないですね。以前は私たちを戦う時だけにに呼び出す方も多かったですから。箒の登場で私たちが呼ばれることがめっきり減りました。その分だけ家の守護に専念できますが、逆に呼ばれる回数が減りましたのでちょっと寂しいです。私自身、こうやって呼ばれるのは数ヶ月ぶりです」

私が若い学生の頃は室内がどうしようもないくらいに散らかるとキキーモラを呼び出して片づけてもらった物だ
。当時は『またですか、しょうがないですね』とため息をつきつつ片づけてくれた物だが最近はそういうこともなくなってきたらしい。彼女はせっかく呼び出されたのでしばらくはこの家に居憑きたいという。願ったりなので居憑いてもらうことにした。

さて、変わった同居人との生活がどうなるか……また、機会があったら報告したいと思う。

−−−召喚術士 グリーン=ヒルの手記より抜粋−−−
 

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