総覧へ戻る
 
 

ガネーシャ武闘伝

著:スカイト・ユキーリア
訳:空雪
 

俺はノワザン。ちっとは名の知れた格闘家だ。
しかし……。
「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
どたーーん!!
俺は無様にも仰向けになって青い空をぼんやりと眺めていた。
「ぬははははは!!修行が足りんぞ!!若造よ!!」
勝ち誇った声でゆうゆうと見下ろしている相手…。俺はこいつにあっさりと負けていた。
おかしな話だった。
こいつはかなりの距離があったはずなのに手も触れずに俺を吹き飛ばして見せたのだ。
魔法を使ったような気配も、道具を持っているようにも見えなかった。
「くっそう…何故だ…」
思わず声に出さずにはいられなかった。
「世の中上には上がいる、そういうことだ」
そいつはそう言った。
ガネーシャ…象の頭と筋骨隆々とした肉体を持つ種族。
俺はこいつらの所に弟子入りし、その技を盗み取ろうと試みた。
しかし…それがどんなに難しい事かなど、この時は予想だにしなかった。

「ではまず、君の適正を見せてもらおうか」
適正?…力、技、速さのどれを生かした格闘家であるか、ということだろうか?
まぁいい、どうせやれば分かることだ。
ガネーシャの審査員は俺を洞窟の崖に連れて行き、おもむろに背中に背負っていた荷物を差し出す。
長い崖だ、こんな所で何をするというのだろうか?
「では第一審査、この荷物を持ってあの崖を跳び越えたまえ」
「は?」
思わず、間抜けな声が口をついて出た。
崖の下を見ると底は暗く、全く見えない…。
しかもこの荷物…中身を見ると鉛が大量に詰まっている…。
こいつ、俺を殺す気だ…。俺は身震いした。
「さぁ、早く跳びたまえ!!」
「無理を言え!!あんな所を跳び越せるわけないだろ!!」
「仕方ないな…この審査は不合格だ。まぁ、まだ審査はある、次の審査に移ろうか」
次があるのか…。少々うんざりしながらも技を盗み、強くなりたいのも事実。ここが我慢のしどころだ。
今度は滝に連れて来られた。さては滝に打たれさせて精神力を推し量ろうって考えだな。
その程度なら昔やったことがある。楽勝だ。
しかし、こいつがそんな甘いことを言うと考えた時点で俺の負けだった。
「いかなる手段を用いても構わん。この滝を昇りたまえ」
「はい?」
また思わず間抜けな声が出た。
一応説明するとこの滝は大した長さは無い。しかし、流れが急でしかも…。
「準備、できましたーー!!!」
上の方にアイアンアーチンを持ったガネーシャの姿が見える。
どうやら昇って来る途中にアレを投下するらしい…全くもって恐ろしい奴らだ。
「待て、こんなものどうやって昇れというんだ!?」
「ぬぅ、またできんのか?」
「できるほうがおかしいんだ…」
もう声を出すのがやっとだった。
「せっかくアイアンアーチンまで用意したんだがな…」
心底残念そうだった、こいつは俺を殺すと言っているのだ、間違いない…。
結局この先一時間ほど明らかに無茶な「審査」が続いた…。
当然ながら、俺にこなせるものは…いや、人間にこなせるようなものは無かった。
「むむ…君には基礎体力が足りないようだね、基礎コースから始めてもらう事にするよ」
なんだかよく分からないが基礎コースとやらならなんとかこなせそうな響きだ。
少々時間はかかりそうだが絶対にこいつらの技を盗んでやる!!

後日…俺は基礎コースとやらを受け、身も心もズタボロになった。
ガネーシャと人間では基礎体力の差が高すぎるのか…それともここの奴らの常識がイカれてるのか。
俺が技を盗むのに10年はかかりそうだった…。

〜武聖・ノワザン=ホスカニール、若き日の日記より抜粋〜
 

総覧へ戻る