漆黒の…
著:トーレント・ソール
訳:シスイ・フロート
――闇が広がっている……闇の中に、一つの、いや、複数の意識があった。その中で、彼は目覚めた――
「はぁーー、ココもハズレか。ホンットに、どこ行ったんだろ?」眩い金髪をなびかせ少女が言った。
少女は探し物をしていた。と、言っても探しているのは、少女の落し物でなければ、物でもない。3日前から、行方居不明の親友――もしくはケンカ友達とでも、言おうか――を探しているのである。が、今日までの2日と少々で手掛かりは全くのゼロ、探す気も失せると言うものである。
「ふふふはははははははは、見ていろ、学院の堅物共。私の正しさを身を持って知るが良い…ふふ……あはははふははははは」
薄暗い部屋の中に、男がいた。その男は、狂気に蝕まれていた、己の行いの愚かさも判らぬほどに…
――外は雨が降っていた。自分が何故ココに居るのか、彼はまだ知らない。――
……土砂降りの雨を見つめながら目覚めた意識は動き始めた…戻れない道を永遠に………
少女は走っていた。
「あぁ〜〜降って来ちゃったぁ。今日は中止かな?まったく、どこをブラブラしてるんだか…」
そんな事をぼやきながら少女は駆け出した。いくら同じ学院の親友でも、2日掛けて手掛かりゼロの家出青年を雨の中探す気にはならない様だ。
男は、ある事に気付いた。己の狂気の産物が目覚めた事に……
「おお!動き出したか。……気分はどおだね?」
――「……………」――
「ん?まだ、所々不完全のようだな、まあ良いこれだけで十分だ。ふふふふ…はははは……ははははははははははは」
――彼は複数の声で、いや、一つの声と複数の獣の咆哮を同時に紡ぎ出した――
「なぜ、アンタがこんな事をする!?」
「なぜだと?君には関係無い事だ、魔獣は魔獣らしく、主人の命令に従っていれば良い。余計な詮索はせん事だ」
少女は濡れた身体を乾かし、学院を目的も無く歩いていた
「あれ?獣の唸り声?」
雷鳴が咆哮する
「気のせいかな?きっと雷がそんな風に聞こえただけよね」
男は彼を魔獣と呼んだ。もう彼は人ではないのだ、漆黒の身体は闇と等しく闇の中には彼以外の意思が数多に存在する。瘴気を吸収し己の糧とする。【漆黒の闇】【真の漆黒】ダークネス・オブ・ダークネスそれが今の彼の名…男が十数年を掛けて作り出した魔法生物それが、今の彼の姿…
――雷鳴が沈黙を破る。彼の声が獣の咆哮が響いた――
「なぜ…なぜ、俺なんだ?」
「理由か……偶然だよ、タマタマ君がそうなってしまっただけの事だ。だが、悔やむ事は無い、これで学院の愚か者共も終わりだ、そして君は人間を超越した。私の力で…ふふふふははははははは、実に素晴らしい事じゃないか」
「まただわ、ここから?」
少女は扉を開けて目の前の光景に言葉を失った…
――「レティーナ……」――
少女の名を呼ぶ声
「えっ?」
「見られてしまったか…仕方ない………殺れ」
――「……断る。どうやら、俺への支配は完了して無いどころか手も付けてないようだからな」――
「…クライス?……それに、副学長…」
「3日ぶりだな、短い付き合いだったが楽しかったよ、礼を言う…」
――そう言うと、彼は男へと向き直った――
「どうすると言うのだ?私を殺すか?元に戻れなくなるぞ、それでも殺すか?」
と、言って笑った。彼を嘲るかのように
「こんな事をして、何になるんですか!」
少女は叫んだ、そして戻らない時を悔やんだ…
「私はコレを学院の連中に見せ付けてやりたい。タダそれだけだよ」
――闇が侵食して行く――
……そして、男の全身を包んだ………………男の居たハズの場所には何も残らなかった。男の衣服を除いては
雨が上がった……
薄暗かった部屋には、少女以外に誰も居ない……
先ほどの豪雨が嘘の様に空は晴れ渡り、薄暗い部屋に光りが差し込める……
部屋には少女以外には誰も居ない…誰も…………
――某魔術学院図書館『魔獣伝承記シリーズ第1巻13章』参照――