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竜と耐性

著:フォルテ
訳:ノイズ
 

属性と耐性とは、微妙な点で共通している部分がある。
例えば、火炎属性ならば耐性:火炎を持つことが多い。
しかし、その上位な属性であるドラゴンに耐性が無いのも確かである。
これは遡る事、戦乱の時代。
世界は幾多の種族に分かれ、争いが絶えなかった。
しかし、種族ごとの能力を考えれば戦いにならなかった事もあった。
特に強力な能力を持つドラゴン種族。
彼らはその強靭な肉体と怪力、そして生まれ持った特殊能力で凄まじい力を発揮した。
彼らは天使や悪魔を制し、あと一歩で世界を手に入れられる所までいった。
しかしそんなある日、事件は起こった。
あるドラゴンとあるドラゴンが仲たがいを始めたのである。
元々ドラゴン同士は仲が良いわけではない。
仲が良い者もいたが、当然のように非情に険悪な仲の者もいた。
そのドラゴンが言った。
「貴様がいると熱くてかなわん」と。
相手は火炎のハイドラゴンだった。
彼はその赤き肌と自らが持つ灼熱の息を自慢としていた。
言われたハイドラゴンは怒りの形相に身を震わせた。
「なんだと、この軟弱者め」。低俗な言い争いが始まる。
しばらくの間、言い争いは続いた。
けれど、それはあまりにも見苦しいものだったので、周りから静止の声があがった。
二匹はお互い譲れず、睨み合いを続けた。
そこへ、一匹の竜がやって来た。
それは老いて戦う力も無かったが英知に優れた竜の軍師だった。
彼は言った。
「お前の言う事は良く分かる。炎の竜よ、いっそ相手の気持ちがわかるようにしてみてはどうだ」と。
老いた竜は火炎のハイドラゴンにある魔法の実を与えた。
それは匂いを嗅ぐだけで己の耐性を失うという物だった。
火炎の竜は言われるままにその匂いを嗅いだ。
とたん。
「熱い! なんと我が身は熱いのだ!」
思わずそう口走った。そして、火炎の竜は自分への抗議を身に染みて理解したのである。
老いた竜は言った。
「失わなければわからない物もある」と。
竜達はその火炎の竜に続き、次々と自分の耐性を捨てていった。
それは自ら奢り高ぶる低俗さを嫌った竜達の高貴さがさせたのである。
老いた竜は満足して実へと語りかけた。
「よくやってくれた。お礼におぬしに生命を与えよう」と。
魔法の実、ドリアンはその時から意志を持つようになったという。
こうして竜達は自らの耐性を捨てる事で誇りを取り戻す事ができた。
今でも六門世界では竜とは遥か高き偉大なるもの、と呼ばれている。
 

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