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ドラゴンメイル

著:グリーン=ヒル
訳:Yen-Xing
 

私は以前より学院から倉庫を個人的に貸与してもらっている。賃貸料が他の倉庫の管理・整理とわずかな金額であるという条件は、貧乏学者の私にとってかなり有り難い物だった。

ある日、使われなくなって久しい倉庫の整理を命じられ、その倉庫に乗り込んだ。あまりの埃の為、先日召喚したキキーモラに掃除をお願いし(ずいぶんと喜んでいたが)私が乗り込めたのは翌日のことだった。

倉庫内は見違えるほど綺麗になり年代を感じさせる物のそれは不愉快な物ではなく……そう、いうなれば、よく手入れをされた骨董品を見て回るかのような錯覚さえ覚えた。もっとも奥まった一角に装備品が並べられた場所があった。私はそこで既に製法が失われた幻の装備品を見つけた。

「ドラゴンメイル」

それをまとう者はあらゆるアイテム・戦闘スペル・儀式スペル・特殊能力によって死なないと言う伝説の鎧である。文献によればこの鎧はある種の龍の鎧から作られるスケイルアーマーであるとされている。本来のスケイルアーマーは小さな金属片をつなぎ止め、その外見が鱗の様であるところから命名されている。その特徴は柔軟性と加工性である。しかしながら材質が金属(それも鉄ないし鋼)で有るが故にプレートアーマーほどではないにせよ相応の重量がある。この鎧は材質を金属片から龍鱗に変更することにより、耐久力をそのままにあらゆる副次的な効果をくい止めることが出来るようになった優れた物である。

驚くべき事に、この鎧はそれほど珍しい物ではなく一般的な他の種の鎧と同程度の価格で取り引きされていたことが当時の武器・防具市場を調査した文献から判明している。これはいかなる事であったのか?

龍種はいずれの種族も高い魔法能力を持つが、意外なことに耐性を持つ龍種はその種類の多さにもかかわらず非常に少ない。「大龍種総覧」によれば、この様に「アイテム・戦闘スペル・儀式スペル・特殊能力」に対して耐性を持つ龍種はわずかに1種のみである。

『ファフニール』

東方のモーングロシア地方に住む龍の一種で、当時でさえストームドラゴン同様なかなかその姿を見ることは出来なかったという。絶対個体数が少なく、生息域も暴嵐山脈の一部と限られているのもその一因であろう。
当初、「ファフニールはドラゴンメイルを作るために乱獲され絶滅した」とする説もあったが、市場流通量から逆算すると説明が付かない。少なくとも一般人でも容易に手にはいるためにはファフニール自体が六門世界一体に広く分布していなければ価格にしても量にしても説明が付かないのである。

当時の文献では南方ソラステルや西方ウォーレスで、その地の代表的種族であるオークやリザードマンがこの鎧を着た小隊を組み、戦時中、多大なる功績をあげたと言う記述も数多く見つかっている。もし、これらが全てファフニールの鎧から作られたのであるとすると、量もさることながら鎧の運送料によりウォーレス辺りでは価格が少なく見積もっても2〜3倍になっていなくてはおかしい。しかし、当時のウォーレス市場でもドラゴンメイルはそれほど貴重品というわけではなかった。

こうしてみるとドラゴンメイルの材質がファフニールであるという説は考え直さなくてはならない。では、いかなる方法で作られていたのか?

同じ倉庫内を捜索する内に当時の鎧についての文献を発掘した。私は戦士ではないため普段ならそのまま放っておくであろうその文献に何か引っかかる物があった。

「当時はいかにしてドラゴンメイルを補修したのか?」

その文献を読み進める事でこの疑問を解き明かすことが出来た。確かにドラゴンメイルは生物の鱗を使った文字通りのスケイルアーマーではあるが材質は龍種の物ではなく、もっと他の動物の物が使われていたというのである。(たとえば西方ウォーレスに生息するグランガチなど)
 

すなわち、手近な鱗に強力な耐性を持たせるように加工した上で鎧状に編み上げたというのがこの鎧の製法だったのである。もっとも初期はやはりファフニールの鱗が使われていたらしい。そして口伝えにこの噂が広まり爆発的な注文が殺到した。しかし、材料を手に入れるあまりの困難さに当時の防具ギルドがモーングロシア地方の領主に相談、お抱えの魔法使いに研究させ同じ効果を付与させる方法を発見したらしい。さらに、この効果を付与させる方法は各地の魔法使いギルドに伝わりこれにより各地でドラゴンメイルの量産が可能になったというのだ。

では、なぜこの方法が失われてしまったのか?

ここからは推測であるが当時の魔法使いギルドと学院は激しく対立していた。各地の魔法使いギルドを学院が廃したときに痕跡を残らず消し去ったと言われるがその中にこの製法もあったのであろう。もっとも、学院はギルドを滅ぼすときにそこにあった資料を丸ごと持ち去ったとも言われるのでひょっとしたら学院図書館の非公開資料の中にこの製法が記載されていると言う可能性もある。また、当時は広く普及していたので地方によっては口伝・秘伝等で残されている可能性も高い。

もし、諸君らが見つけたらその公開には慎重に慎重を重ねる必要がある。この技術は六門世界の軍事バランスを容易に大変革させる技術であることを忘れないようにここに願う物である。
 

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