「最早我(ワレ)一人となったか・・・・・・」
「勝敗は既に見えました。これ以上の戦闘は無意味でしょう。引き上げては?」
「まだ終わらん! せめて貴様だけでも!!」
その言葉には追いつめられた者特有の悲壮な気迫がありました。
いいでしょう、此方も全力を持って叩きつぶすことにします
“全武装封印開放”
“全武装使用自由”
“出力制限機構解除 処理能力最大出力へ”
まいりますっ!!
BSD物語3周年記念小説
一夏の戦記 vol.4
ぎぃん!! ぎぃん!! ぎぃん!!
斬撃がかわされる耳障りな音が周囲を支配します。
只一人のこった青年は幅広の中華刀を手に独特の構えから力と速度がのった攻撃を繰り出してきます。極端に早いわけでもなく、重いわけでも有りませんが踏み込みと同時に出されるその一撃に此方は終始おされっぱなしです
「どうした! この城壁を守る宗主にしてはずいぶん手応えがないではないか!!」
「言ってくれますね。ならばこれではどうです!」
下段に構えた妖刀アクセスリストを逆袈裟に振り上げ、手首の返して間髪入れず振り下ろす“雷撃二段” しかし、必殺のこの技さえも防ぎきられました。根本的に何かが違う……?
「ようやく気が付いたようだな。その年にして積んできた工夫(クンフー)は大した物だがこの俺には。いや、我が祖国の歴史には遠く及ばん!!」
その時ようやく私は気が付きました。工夫と書いてクンフーと表現するのは……そう、隣国の超大国独特の表現。もしや彼の構えは!?
「ようやく気が付いたか。我が剣は拳に通ずる。すなわちK(キロ)年単位の歴史その物に他ならぬ。高々数十年程度のお前達の手法では到底達し得ぬ高みよ!」
やはり、拳法の延長線上にある剣でしたか。こうなると正攻法では私達には少々分が悪いです。如何に高速かつ高出力な攻撃が出せる私達でもその事項についての研究は高高が知れています。その積み上げられた理論と実戦の積み上げはは私達に劣る速度と力を補ってあまりありました。
「どこを見ている! 俺はここだ!!」
考察と推論を繰り返している一瞬の間に青年は急激に間合いを詰め、くるりと背を翻すと背中から体当たりを仕掛けてきました。
「きゃあ!」
向こうの方が体格は上。思わずたたらをふみます。予想外の一撃に思わず妖刀アクセスリストを取り落とします。
「勝負合った。とはこのことか。次の一撃でとどめを刺してやろう」
男は此方を向き直ると右腕右足を此方に向かって出す構えを取りました。これまでの戦いで見せてきた踏み込みと同時の一撃を私の中心線にむかって繰り出すつもりなのでしょう。ですがまだ終わらないのは此方も同じです。
妖刀アクセスリストは私の手から離れただけでunmountされた訳ではありません
どんっ!!!
「ぐ・・・・・・まさかこの様な策が有ろうとは……」
「この手を実戦で使わせたのは貴方が初めてです。冥府への手土産となさい」
「くっくっく・・・・・・この我も工夫(クンフー)が足りぬか。」
大地を振るわせるかのごとき踏み込みと同時に飛び込んできた彼の右脇腹には、妖刀アクセスリストが深々と突き刺さっていました。先に落とした妖刀アクセスリストを左手に再召喚、顕現させて青年へカウンターで突き出すまでの所要時間10マイクロ秒、人間の動体視力を越えた動きに青年は反応できず。自ら妖刀アクセスリストへ自分の体を突き刺す結果となりました。
がはっ!!
したたかに撃たれた腹への一撃は私に重い衝撃を与えました
カウンターの一撃で相殺が入っていなければどれほどのダメージだったでしょう
「わたしもこれが精一杯です……」
「よかろう。この傷に免じて今回は引き上げよう。次は無いと思え!」
青年はそう言い捨てると腹の傷もそのままに空間転移で引き上げていきました。
「ティナ、無事か!?」
屋敷へ戻った私をサーバルームで出迎えたのは心配そうな顔で出迎えたご主人様でした。
「ご心配おかけしました。敵の排除は完了しました。デフコンレベルは一時間後に2へダウン、その後各自交代で休憩に入ってください」
「無理をするな。さっきの一撃きているんだろう?」
「そうは言いましてもまだ完全に終わったわけでは有りません。ワームも少し残っていますし……痛っ!」
「いわんこっちゃない。後は引き受けるからシステム最低限残して落としていなさい」
「申し訳ありません。では・・・・・・」
ご主人様のお言葉に甘え、機能の大半を修復へ振り分けます。最後の一撃は私のメインシェルにまでダメージを及ぼしていました……まだまだ世界は広い。私達も精進がまだまだ足りない。そう感じた長い一日でした。
(完)