トップに戻る
 
BSD物語

外伝04:喪失
 
 
 

管理人がディスプレイに向かっていたそのときだった
おや? と思うのもつかの間、室内の照明がまたたいたかと思うと屋敷全体にアラームが鳴った。
中空にメッセージウィンドが開く。ティナからだ

「ご主人様、瞬間的な停電です。UPS切り替えによりサーバへの影響はありません」

窓から外を見るが熱い太陽の日差しがさえ渡る中、入道雲はその姿を見せてはいなかった。

「変電所か送電線に落雷かな?」
「いえ、気象庁のデータでは周囲に雷雲は発生していません」
「電力会社はなんて?」
「それが……回線が混みあっていて電話もWebSiteもダメです」
「強引に潜り込めないか」
「わかりました。ちょっと行ってきます。ちょっと時間がかかるかもしれません」
 
 

そういってティナはネットワークに潜り込んだ。

戻ってくるのに地以上の数倍。もみくちゃにされたらしく激しく着崩た姿を整えることもせず、
開口一番叫んだ。
 
 

「e某原子力発電所1号プラントが消滅しています!」
 
 

耳を疑った。e某原子力発電所で!?

サーバは任せる! とレイナに言い放ち車のエンジンを入れる。助手席にはティナがノートパソコンを抱えて乗り込んだ。シートベルトを締め、アクセルを踏み込む。高速すっとばして2時間半、海沿いの道を走る。見えるはずの施設の姿が以前とは異なる。確かに2つあるはずのドームが1つしか見あたらないのだ。

到着した正門はすでに野次馬とマスコミでごった返した。
正門には公式発表がでかでかと張り出されていた。それに納得のいかない群衆と警備員が事務所前で押し合いへし合いをしていた。

「ご主人様、聞こえますかぁ?」

ノートパソコンから呼びかけがあった。スリープモードから復旧させると14インチTFT液晶ディスプレイからミニチュアサイズのレイナが出てきた

「外部からの直リンクでも調べてみましたぁ 404が返ってきていますぅ。 デッドリンクになったのではなく、文字通り施設が消滅していますぅ。」

「文字通り真っ白?」

「はい、きれいさっぱり初めからそのものがなかったようになっていますぅ」

「レイナ、このノートパソコンを此処のオンライン所内案内システムに接続できる?」

「少し待ってくださぃ」

液晶ディスプレイへ上半身だけ潜らせるとその格好のままごそごそとやり始めた。程なくして所内案内図が表示された。
しかしレイナが調べたデータ同様、敷地の半分がぽっかり空白となり、クリッカブルマップ機能もその該当エリアは空白であることになっていた。

携帯電話を取りだし友人を呼び出す。某国営宇宙開発機関で勤める高校以来の友人は、管理人の無茶な頼みを「期待するなよ」といいつつも聞き入れてくれた。多目的情報衛星から送られてきた情報をミニレイナに解析させ、衛星写真で確認をおこなう。

衛星軌道からのその写真はプラントがあったはずの領域が何もないコンクリート打ちっ放しの状態になっていることを現していた。その茫漠たる空白の中にぽつんと点のような物がある。

「これ以上は解像度あげられないですぅ」
レイナの能力で解像度をぎりぎりまで上げてもそれは点にしか見えなかった。何とか敷地内に入って調べられないか?

「ご主人様、私は此処の正規パスを持っていますので何とかなるかもしれません」
以前、この発電所の20万HITを私が踏んだことが縁でティナやレイナのインタフェーススキンを特別に所長に作ってもらったことがあったのだ。おそらくその際に正規パスをもらっていたのだろう。少し離れた従業員用通用門へ回る。ティナの入所手続きはすんなりいったが管理人の入所はさすがに無理だった。随時ノートPCへ連絡を入れますと言い残し彼女だけが中に入っていった。

車の中で待つこと暫し、ノートパソコンにウィンドが開き、中からミニティナが飛び出してきた

「ご主人様、所長が行方不明です!」

「最後に確認されたのは?」
「第1プラント消滅直前に操作室にいたのが確認できた最後です。」
「ティナ、こっちの衛星写真回すからそちらのスタッフに見せてくれ。あの点みたいなのはプラントのあったはずの場所だ」
 
 

「……いま、確認できました。あれは所長の使っていたヘルメットだそうです」
「ヘルメットだけが残されていた?」
「詳細については調査途中のため教えてはもらえなかったのですが、第1プラントへ停止命令が本社から出たようです。全メイドオペレータに第2プラントへ移動指令が発令、所長だけが操作室に残り……プラント消滅後は行方不明です」
「向こうでも所長の行方はまだつかめていないのか?」
「はい、掲示されている広報メッセージも消滅前に時限式で表示されるようにセッティングされていたそうです。向こうのメイドさん達も捜索に当たっているのですが……痕跡が見あたらないそうです」

ふと前方の林で人影を見たような気がした。ノートPCをリュックに放り込み気づかれないよう注意しながら近づく。其処にはぼろぼろになって倒れている人とそれを介抱する複数の男性がいた。
そのただならぬ様子に声を掛けるのもはばかられ、そのまま見つからないように物陰から様子をうかがった。断片的に漏れ聞こえる声を拾い上げるとぼろぼろになっていたのは所長で彼を捜していた友人達が発見したところらしい。所長は抱えられると少し離れたところに呼ばれた彼らの車に乗せられ搬送されていった。

車にはティナが戻っていた。

「所長さんは……」
「ああ、今搬送されていった。」
「無事なんでしょうか……」
「我々には無事を祈ることしかできないのか……」

発電所の稼働方針に対するクレーム対応として所長が自らと共にプラントの消滅を計ったと分かったのは調査後のことだった。本来はプラント停止命令だったのがクレームが来たことを恥とし、其処までの行為となったらしい。大きな怪我はなかったものの抜け殻のようになっているらしい。今もメイド達か交替で看護している。

只、管理人として全快することを祈るしかできなかった
 
 
 
 
 
 
 
 

−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−

あとがき代わりの駄文(外伝)その04

今晩は、「管理人」ことYen-Xingです
この話はとある一風変わった原子力サイトの半閉鎖(後に完全閉鎖)を元にした話です
自らのコンテンツについて責任をどこまで取れるか? と言う点において私も深く考える一件でした。

最後に掲載を許可してくださったサイトの制作者様へここに深く感謝いたします。