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Yen-Xingのあばら屋 BSD物語出張編02

『首都遠征編』1st
 

Index
0.はじめに
1.12/27
2.12/28
3.12/29 早朝
4.12/29 夜
5.12/30 早朝
6.12/30 朝
7.結末

 

0.はじめに

この話はフィクションです。作中に登場する人物・出来事は全て架空の物です。どっかで聞いたことがある様な事例が有るかも知れませんが、それはきっと貴方の気のせいです。間違っても該当しそうな関係機関・各人、その他に問い合わせしない様お願いします。
 

 登場人物紹介

 私(管理人=《オーヴァーロード》)
 ->このサイトの管理人

 ティナ(ティナ=バークレー)
  ->UNIXネコミミメイド、怪電波を操る

 P
  ->管理人の学校のころからの悪友

 Hill
  ->管理人の学校のころからの悪友
 

 

1.12/27

 この国には年に二度大きな催しがある
 
 【同人誌即売会】
 
 それは全国津々浦々から人々が同人誌を持ち寄り、販売を行う。日本でも最大規模の即売会だ。参加人数は軽く万を越える。管理人も以前から友人に参加しないかと誘われていたが首都までの距離と3日間という日程に阻まれ参加を見送ってきた。しかし、どういう訳か今年の冬は3日の日程が2日になり、どうにか参加できる見通しが付いた。私は早速1ヶ月前から交通機関の手配とホテルの予約を行い参加の段取りを整えてきた。
 
 しかし、ここまで来て思わぬ障壁が立ちはだかった。風邪だ。

 リュックに着替え、交通チケット、着替えを詰め込みながら激しく咳き込む私にティナが心配そうに声をかけた。

 「ご主人様、なにも今回で最後というわけではないのですから参加を見送られては」
 「いや、2日に日程を詰めるのは今後も続くとは限らない。今回こそ無理してでも参加しなきゃ」
 「今回『も』同行させていただきますが、万一体調が悪化した場合、強制的に休んでいただきます。それで宜しいですね?」
 「了解……ごほっごほっ」
 激しく咳き込む私にホットレモンを差し出すティナ
 どうやら今回の旅も先行が怪しそうだ

 

2.12/28

 23:20
 地元の小さな駅前路線バスの停留所に数人の人影があった。
 ここから夜行バスに乗り、東京へ向かう私とティナ、見送りに来たレイナの他数名の同乗者が其処へ 集まっていた。
 「ティナさんはどうされたんですか」
  「ああ、ティナなら既にボクのハンドヘルドPCに移動しているよ」
 以前ティナと遠出したときにも使った手法なのだが、ティナのエイリアスを腕時計型ハンドヘルドPCに納め、出力を眼鏡に組み込んだ網膜投射型ディスプレイに設定することで文字通りティナを“持ち歩く”事が可能になる。そうしてティナを表に出さない事により不要な混乱を避けることが出来、交通費も軽減できるしティナも常時私のそばについて行動できる。
 車掌が夜行バスへ乗るよう促した。発車時間が迫ってきているのだ。
 「ではご主人様、おきをつけて〜」
 「行って来るよ。何かあったら連絡を!」
車掌にバスチケットを渡すと一つの席を指示され座るようにと指示された。それは進行方向向かって左側前から3列目というなかなかの場所だった。夜行バスは3列分離型のシートで臨席を気にする必要は少なかった。車内は満席、思ったより暖かい。暫く本でも読むかと思っていたが発車してすぐに車内も暗くなった。どうやら寝ろと言うことらしい
 「これでは本を読むどころか何かすることも難しいですね」
 「いやいや、こういうときにこそ読書灯で……」
 「ご主人様、熱と咳を薬で散らしているのをお忘れなく。ここは早い目に寝て体力を温存すべきです」
 「うーん」
 「到着したら起こして差し上げます。どうかごゆっくりお休みください」
 「じゃあ、宜しく頼むよ」
 「おやすみなさい」
そうして、揺れる車内で浅くではあったが、管理人は眠りについた。

 

3.12/29 早朝

 「起きてください。ご主人様、起きてください」
 「んー? いまなんじー? どこー?」
 「現在、西京バスステーション、6:30です。予定より若干遅れています」
 腕時計が震動し、ティナが私を起こす。眼鏡のフレームに仕込んだ骨伝導マイクで私に呼びかけ、私を起こしてくれた。網膜投射型メッセージシステムは当然目が開いていないと使えないのだ。
 バスが高速のサービスステーションに到着し、3時間ごとに起きてしまったが、リクライニングを最大まで倒し、靴を脱いでフットレストに脚を預けて寝たおかげでほぼ熟睡に近い状態だ。体に疲労もたまっていない。パイプ椅子を3つ並べて仮眠ベッドにするよりも遙かに良い寝心地だ。強いて言うならもうちょっとフットレストの位置を前に出来れば脚が伸ばし切れたのだが……まぁ、上等という物だろう。
 関西(カンゼイ)で使われている交通パスシステムは関東(アズマヒガシ)でも使えるとは聞いていたが、若干の不安は残る。しかし、私の不安を余所にパスカードはシステム端末に接触させただけであっさり処理が通った。余分な杞憂だったらしい。
 電車の行き先を確認した上で一路サイバーシティ「秋葉原」へ向かう。車内ドア上に液晶パネルがあり、様々な情報を送り出すシステムは見ていて新鮮だ。なるほど、これなら限られたスペースでより多くの情報を流すことが出来る。
 「ご主人様、あまりきょろきょろすると田舎物に見られますよ?」
 「いうな、十分お上りさんなんだから」

 バスを降り、乗り込んだ駅から秋葉原まで10分もかからなかった。朝7時、電気街など開いて居ようもない時間だ。

 駅を降り立ったが……こまった、予め来る前に記憶していた地図と今見ている場所が一致しない。
 「ティナ、左目に周囲マップを投影、出来るね?」
 「はい、少々お待ちを」

視界が現実の風景と投影された地図で二重写しになる。一寸目眩がするがそれをこらえて地図と現実空間を一致させる作業を続ける
 「あの、カーナビモードに切り替えましょうか?」
 「アレ使うと道や位置が覚えられないから良いよ」

程なく、目的の電気街へ到着。開店前の電気街を一通り歩いておよその街の構成を記憶、一緒に早朝からあいているカフェをさがし朝食にする。其処の上の階に24時間ネットカフェがあるというので電気街が起きる11時までそこで待機すると共にレイナと連絡を取ることにした。

 「レイナ、こちらは無事に到着。其方の様子はどう?」
 「こちらは異常なしです〜。 それとマスター、天気予報で其方は1日雪との予報が出ています。風邪を悪化させないように注意なさってくださいね」
 「ゆきぃ!?」

慌てて店外に出ると外は一面の雪。それも滅多に見られないぐらいの激しい振り方だ

 「あっちゃー」
 「これでは……パーツを買っても濡れてしまう可能性がありますね。あちこち回るにもご主人様の体力消耗が怖いですし……早めにチェックインして体力維持に勤めましょうか?」
 「いや、同じ休むなら別のところで休む!」
 「別の所って……どちらです?」
 
 「メイドカフェだ!」

 左目、ティナのメッセージウィンドからの彼女の視線はそれはそれはその日の秋葉原と同じくらい冷たかった。

4.12/29 夜

 「マイクテス、マイクテス、"P"応答願う」
 「こちら"P"感度良好」
 「"秋葉原駅前"にて待つ、到着次第再度連絡されたし」
 「了解」

 「今の通信相手は何方です?」
 「ああ、母校からの悪友の一人で明日の案内をしてくれる友人だ。今回はかなり無理を言って同行をお願いした。後で礼を言わなきゃ」

 今回、私にとって初の同人誌即売会参加に踏み切れたのは現地で同行する友人がいるからだ。その友人と連絡が取れ、日も暮れてきた秋葉原駅前で無事合流することが出来た。

そして、今回首都来訪の目的のひとつ・・・・・・BSDをモチーフにした居酒屋に"P"氏と突撃をかけた。が……

 「どう思う? ティナ」
 「どう、も、こう、も有りませんわ。これでは単なる“小悪魔”のコスプレ居酒屋で“BSD”である理由が見あたりません。期待はずれです」
 「とはいえ、BSDのユーザにターゲットを絞った居酒屋なんて会ったらそれこそ客が来ないんじゃないか?」
 「でも、Linuxカフェなんていう普通そうなカフェもありましたよ? そういう限られたターゲット限定で店舗が成り立つのがこの街なのでは?」
 「うーん、あと、今日に限って言えば常連が多すぎて我々みたいな一見さんはかまっている暇ないのかもね」
 「その点、忙しくてもきっちり対応できていた店も他にあったことですし……まぁ、色々有るんでしょう」
 「レイナなら客が増えてもサービスしきれるんだろうけど(笑)」
 「でも、彼女のサービスは相手を選びますよ(笑)」

同行してもらった"P"氏にはあまり合わなかったのかいささか面白味に欠ける飲み会となった。その上私の体調が悪いこともあり、早々に切り上げ本日の宿泊地であるホテルへ引き上げ。荷ほどきをすると共に明日の準備を始めた。

聞くところに寄ると公共交通機関が動き始めた始発で行く者も多いと言うが其処まで早く動いたところで買う物がそれほど多いわけでもなし。早朝合流を6:30と定めてその夜は就寝したのだった。

5.12/30 早朝

早朝
「起きてください。時間ですよ?」
ティナが私を揺り起こす。
「もうそんな時間か……寝た気がしないなぁ」
「体調はいかがですか?」
「若干寝不足気味かな? 体の動きがまだ鈍いや。でも、風邪はなんとか抜けたみたいだし……出力75%って所かな?」
「シャワーで体起こしてきてください。その間に朝食の準備をしますから」

ティナの進めに従ってバスルームで熱いシャワーを浴び体を強制起動する。ついでに顔を洗う。バスルームから出たところでドライヤーを渡してもらい良く乾燥。こうすれば風邪の悪化は無いはずだ。そうしている間にティナは予め用意して置いたパンと紅茶のティーパックで朝食の準備をして置いてくれた。

「これを食べ終われば頃合いも良い時間です。私は荷造りしていますね」
「充電は大丈夫?」
「私は大丈夫ですが……汎用携帯無線電話端末のバッテリーが若干不安です。消費は押さえていきましょう」

若干の不安材料はあるものの最悪外付けバッテリーを入手すれば何とかなる。我々は忘れ物がないことを確認し、部屋を後にした。

エレベータ内でティナを腕時計型ウェアラブルPcに収納、こちらは太陽光&生体電気で稼働する優れ物だ。仕様が特殊なため他に電力を回すことが出来ないのが残念だ。

6:30 1Fロビーにて"P"氏と合流。ホテル最寄りの駅から公共交通機関を乗り継ぎ会場へと向かうが……

「なんだこの人の多さは!」
「聞きしにまさる人の多さですね」

すでに車内は大混雑。"P"氏を見失う

「しまったっ!! ティナ動画記憶を5分前に戻して再トレース!」
「お待ちください。目的地は同じですし、会場でどのみち別行動になります。ここは無理に探すことなくとりあえず現地へ向かう方が良いでしょう。その間に私は"P"氏とメールで連絡を取っておきます」
「たのむ・・・・・・」

正直。全く始めての場所で私はかなり不安になった。しかティナも居ることだし何とかなるだろう。何とかなるはずだと思いながら私は人混みに逆らわず会場へと向かった。

6.12/30 朝

駅からの人の流れにのり、会場へと到着。すでに長蛇の列が出来ていた。右を見ても左を見ても人人人……人の数なら正月に隣市の稲荷神社へ向かう客の方が遙かに多いだろう。しかしこの人だかりが秩序を持って奇麗に整列されていることに驚いた。正直もっと雑然としているかと思ったのだ。暫く人の整列に見とれている間にティナが"P"氏と連絡を取ってくれ、どうにか合流。そこへ、もう一人からのメールが到着した。
「Hill? また懐かしい名前だなぁ……ってここに来ているのか」
「良かったらこっちに合流しないか? ってことですね」
「久しぶりに連絡くれたんだし。顔見に行くついでに行くか。」
5年以上会っていなかったHillは当時と変わらない笑顔で私を迎えてくれた。学校を出ていらいあちこち転勤しながら今はこの地方に住んでいるとのこと。

彼はサークルでの入場券を持っているので先に行くという。私はそのまま一般入場することにした。

10:00
【同人誌即売会】開場が宣言された。
動き出す人の流れに乗り会場を回る。そして買い込んで置いたカロリーメイトであわただしく昼食そして再び会場巡り……はぐれてしまった"P"氏となんとか合流を果たせたのは3時近い時間だった。資金も体力も限界に近い。我々はこの辺りを引き時とし、秋葉原へと撤退した。

17:00

秋葉原は即売会帰りの人でごった返していた。そんな中でとあるソフト屋を"P"氏に紹介してもらう。発売されてから暫くたったソフトがなかなか手ごろな価格で売られているので手頃な物を選び購入、今回の首都遠征で最もかさばる荷物となった。

20:30

帰りの弾丸特急の時間が迫っていた。翌日帰るという"P"氏に別れを告げ首都ターミナル駅へと向かう。乗り込んだ弾丸特急はその日の最終、年末という時期もあり、見事に満席、予めチケットを予約して正解だったと痛感した。

小腹が減った物の車内販売はすでにおつまみ中心、あきらめて私の住む古都までうとうとすること3時間余り、更に乗り換え30分。日付が大晦日となった頃、私達はようやく屋敷へとたどり着いたのだった。

7.結末
「なんというか……あまりの勢いの凄まじさに飲まれっぱなしでしたね」
「言わないでくれ、未だに気力が抜けたままなんだから」

首都から無事に帰ってきた翌日はエネルギーを使い果たした為、私もティナも脱力して何かをしようと言う気に全くなれなかった。しかし、この日は大晦日、全く何もしないと言うわけには……

「本日はお任せください。わたくしの方で滞り無く年越し準備させていただきますわ」

ミレイの言葉に甘えて、我々はその日一日ダウンしたままであった

最後に一つ

この日、近年まれにみるほどの大雪がこの国を襲った。その為弾丸特急は大幅な遅延が発生。無理してその日中に帰ってきて良かったとティナ共々胸をなで下ろしたのだった。
 
 

かくして、突発的な首都遠征及び同人誌即売会一般参加は幕を下ろした。
あまりに急なため十分な準備もできないままでは合ったがそれなりの成果を上げることが出来た。次回以降の参加は全く見通しが立たないが、出来るなら、また行きたい物である事を最後に書き添える。

終わり