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Yen-Xingのあばら屋 BSD物語出張編01

『Analog Game Convention』
 
 

0.はじめに

この話はフィクションです。作中に登場する人物・出来事は全て架空の物です。どっかで聞いたことがある様な事例が有るかも知れませんが、それはきっと貴方の気のせいです。間違っても該当しそうな関係機関・各人、その他に問い合わせしない様お願いします。
 

 登場人物紹介

 私(管理人=《オーヴァーロード》)
 ->このサイトの管理人

 ティナ(ティナ=バークレー)
  ->UNIXネコミミメイド、怪電波を操る

 局長さん
  ->管理人のネット上での友人、MCというTCGをやっており、強いらしい

 水魔な人さん・アインシュタインさん・MSさん・才蔵さん
 ->局長さんの友人らしい
 
 

1.a Talk on The network

 「小坂までエア=バスで遠征ですか……それはまたキツイですな」
 「なに、若いから出来るんですよ」
 「で、現状で4名……宿はどうされるんです?」
 「カプセルホテルにでも泊まろうかと」
 「ふむ・・・・・・小坂での宿なら私に心当たりがありますよ。4名ならこちらに任せてもらえませんか?」
 「いいんですか? ではお言葉に甘えさせてもらいます」
 「到着時刻が HH:MM……、到着地点が……小坂駅梅橋口改札付近のエア=バス・ターミナルっと了解しました。お待ちしてます」

チャットを終え、中空ディスプレイを全てクローズ後、シートから立ち上がろうとしてひどく咳き込む。ここ数日風邪をこじらせてなかなか完治しないのだ。心配してティナが駆けつける。

 「ご主人様っ!」
 「心配ない。寝れば直るよ」
 「だからあれほど医者に行ってくださいと申しあげているのに……」
 「現状で僕が医者にかかれないのは分かっているんだろ?」

ちょっと分け有りで、今の私は医者にかかれない、医療保険がややこしい事になってしまっているのだ。下手すると3割どころか全額払う羽目になる。おまけに近くの病院と来たら、たかが風邪でもどっさり薬を出してくれるのだ。当然薬代は高くなり……それなら薬局で効き目の強い総合感冒薬でも買うか、という結論になる(現に医療費自己負担額が増えてから薬局の総合感冒薬の売り上げは上がったそうだ)

 「で、チャットログを読ませていただきましたがこんな状況で小坂に行くんですって!?」
 「まてまて、ログはチャットルームから退室した時に全てクリアしたはずなんだぞ!?」
 「リアルタイムでモニタさせていただいています。この通りログのバックアップもあります」

彼女は屋敷内でファイアウォール(インターネット上での防御・警護)を実質的な屋敷の警備と共にしている。ま、ティナ相手にごまかせるとはおもわなかったが……

 「止めても行くでしょうし……仕方有りません。私も同行することが条件です」
 「ついて来るっての!?」
 「途中で倒れられるより遙かにましです。それに小坂なら万が一があってもどこでもレイナと連絡とれますし・・・・・・。それとも勝手に抜け出してお仕置きの方がいいんですか?」

紫電を一房はねた前髪にまとわせながら、危険な笑みを浮かべつつ近づいてくるティナ。私が聞かない場合は毒電波でもって「強制」するつもりなのだろう。ちなみに小坂は全国政令指定都市の西京・小坂・船台などの中でも、いち早く全区域をホットスポット化していた。無線LANでの直接通信で無線さえ届けば、どこにいても屋敷とリアルタイムに連絡がとれる為「まぁいいでしょう」ということらしい。

 「わかったわかった! ティナ同行ってことで了解するよ」
 「では早速準備しますね」

そんなこんなでティナと私の小坂行きが決定したのだった。
 
 

2.Waiting in the Ozaka station

 「遅いなぁ……」
 「そろそろ到着のはずなのですが……あ、航空広報サイトにディレイ(遅延)が発表されています」
 「どうだって?」
 「ええと、西京から静丘へ抜ける途中で民間機と米軍のニアミス(異常接近)が発生。それに伴う管制の混乱で約1時間程度の遅れです。現在エア=バスは小坂特別区に入ったばかりですが、他の便の発着ラッシュに巻き込まれて上空待機を強いられて更に遅れそうです」
 「もうちょっとかかるかぁ、暖かいレモンティーでも買ってこよう」
 「例年より遙かに暖かいから気温は大分ましですね……ってご主人様!なんで其処のハーマップへ行くんですかっ!!」
 「いや、中古HDD大安売りって書いて有るし、その、……」
 「あれほど言っているじゃないですかっ! HDDは消耗品ですから新品買ってくださいって!! この前も中古HDDで買ったばかりでクラッシュしたの忘れたんですかっ!!!」

 ふと、辺りを見ると周囲からの視線が集まっていた。日ノ本橋や大型PC店のハーマップ店内ならともかく、小坂駅周辺では流石に目立つ。ティナをつれハーマップ店内へ入ると奥の方へと進む。流石にハーマップ全店でも最大規模を誇るだけあって、店内でネコミミメイドはそう目立つ存在ではなかった(何人か見かけたほどだった)

 「ティナ、ちょっとコレを見て」
 「ご主人様……?」

彼女の前に出したのはリストバンド型PDA、この秋に出たばかりの最新型だった。PDAでありながら一昔前のノートPC並の処理能力を誇る。それをのぞき込んだティナをリストバンド型PDAの中に頭から押さえ込むようにしてしまい込む。と、押し込められたティナからの抗議が眼鏡に仕込んだ網膜投写型メッセージボックスに表示された。

 <いきなりナニするんですか!?>
 <これから合う人はUNIXネコミミメイドとは縁が無い人達なんだ。>
 <だからってひどすぎます!>
 <まぁまぁ、とりあえず僕の監視は出来るだろ?>
 <しょうがないですね(はぁ)>

幸いハーマップ店内では同じ様な方法でサポート用のネコミミメイドを連れている人がそう珍しくないため奇異に見られることはない。逆を言えば、外では一人でぶつぶつしゃべっている怪しい人物と言うことになるが、コレは仕方がないと言うことで割り切る。店外に出ると、大雨になっていた。天気予報では雨が降るとは聞いていたがちょっと予想外の天候だ

 <この雨でエア=バス着陸できるの?>
 <航空管制局からカテゴリ3(計器のパラメータだけで離着陸)という指示が出ていますね。ええっと局長さんが乗っているエア=バスの固有通信バンドは搭乗しているのがxxx便ですからこのバンドっと……あ、ダイバード(目的地変更)を提案されていますがパイロットが蹴りました、強行ランディングするみたいですね>

 と、その時。急に雨が止んだ。その間を縫って一台のエアバスがランウェイへアプローチ、見事な着陸を決めた。ボーディングブリッジの出口で待っていると、私とネット上でやりとりをしていた人「局長」さんが先に私に気が付き、手を振ってくれた。

 「お待たせしました」
 「西京から半日も缶詰では大変だったでしょう」
 「青春18切符とかで旅行は慣れていますがいくらエア=バスが快適になってもキツイ物はキツイですね」
 「おや? ひぃ、ふぅ、みぃ……お一人足りませんね」
 「何でもエア=バス車内でチケットを無くしてしまったらしく車内で足止め食らっています」
 「まだエア=バスってチケット制だったのですか……」
 「もうすぐエア=バスもネットIDによる精算式になりますよ」
 「風情がない、といえば風情が無いですな」
 「西京からはこの4名だけですか?」
 「他にも先遣隊として1名、他後続が別ルートで4名、名新屋からもかなりの人数がAGCの大会に来るとか」
 「AGCの大会って……MC大会ですか?」
 「ええ、《オーヴァーロード》さんも参加されるんでしょ?」
 「ちょっと今回はパートナーに心当たりがないんで参加を見送るつもりです。今回はパートナー選手権だそうですから。」
 「ゲリラ戦もあるそうですからそちらに参加されては?」
 「私の腕は大したことないんですが……参加してみるだけ参加してみますか」
 「此処で話し込むのもナンですし移動しましょうか」
 「そうですね、じゃ宿泊先まで案内します」

ちなみに、《オーヴァーロード》というのは私のHNだ。

そこへ、局長さんの携帯PDAへ連絡が入る。

 「はい、局長です。え? 才蔵さん易波ですか? こっちは小坂駅なんですが。こちらに向かう? 今から歩いて!? そりゃ無茶で……きれちゃった」
 「だれかこちらに向かうって?」
 「ええ、知り合いが易波に来ているそうなのですが、こちらへ向かっているとか」
 「30分はかかりますよ? それに待ち合わせどこにします?」
 「それが・・・・・・才蔵さん携帯PDA持ち歩かない人なんです」
 「一体どうやって連絡取るんですか」
 「向こうが公衆電話から連絡してくるのを待つんです」
 「ひぇぇぇぇ」

公衆電話は未だ健在……とはいえ、昔に比べてその数を大きく減らしている。若い人に至っては公衆電話を使ったことが無いという人までいる。「こちらへ来るのを待つしかないか」と少し移動してじゃまにならないところへ座り込んでいると、その「才蔵」さんらしき人がやってきた。なんとも幸運な。

小坂駅の地下に広がるショッピング街で夕食。正直テナント料も有るのか若干高く感じる。うどん屋に入りそれぞれに食べた後、更に小坂でも有名な「食い倒れ」へ遠征に行くとか。そこへティナからのメッセージが視界内に入った。

 <ご主人様、現在の体温、脈拍から判断してこれ以上は無理です。一時撤退してください>
 <しかしつきあいがだなぁ>
 <それに、皆さんの寝具の準備も有るじゃないですか>

ティナのいうとおりだ。そこで 「申し訳ないですが……」 と先に帰り、他のメンバーを泊める準備をしたのだった。
 
 

3.The midnight last adjustment

泊めたのは私の家が管理する空屋、とは言っても何時でも使えるように電気ガス水道は使用可能だ。しかし、家を空けていた期間が長かったためほこりが溜まっている。大急ぎで掃除をし、人数分の寝具をそろえる。準備が終わり、一息ついた頃に局長さんから「近くまで来たので案内して欲しい」と腕時計型PDAへ連絡が入ったので迎えに行く。

12畳の部屋に招き、中央に折り畳みのテーブル(大きなちゃぶ台と思ってもらいたい)をセット、お菓子でも……と思いキッチンへ行き、準備をして戻ってくると既にテーブルはMCのカードで埋め尽くされていた。何でも明日の大会用の最終調整を行うとか。それならばと私も唯一もってきていたMCのデックを鞄から出すと局長さんがそのデックを診断してくれるとのこと。

 「トキシン3枚ってのはちょっと多いかも」
 「弓9枚ってのも多いですね。出来ればもうちょっとユニット増やしたいところですが」
 「でも、バステトonlyってのがミソですから」
 「さすがはオーヴァーロードさんですな」

局長さんはざっと数枚のカードを手持ちのカードと入れ替え、そのデックでテストプレイを始めた。行うこと数回、更に数度の調整の後、その調整済みデックを私に戻した。

 「これで大分戦えると思います。あとはオーヴァーロードさんの実戦経験です」

そのデック内容は次の通り
 
 

バステトの
聖戦士団・精霊甲冑団・白獅子騎士団・
看護婦団・福音騎士団・護衛神官団 以上各3枚

コメットストリーム*2、ブラックライトニング*3、ホーリーサンシャイン*3、魔剣クラウソラス*1

鋒矢の陣*2、魔力の泉*3

マジックミサイル*3、リジェネレーション*2

トキシンの矢*3、シャンヴァー*3、トルクメンの矢*3、
ゾルドイルの矢*2、ランページの矢*3
 
 

と言う内容だ。わざわざ大会前夜の貴重な時間を調整に使ってくれた局長さんに感謝。宴は深夜1時まで続いた。明日は7時起きとのことなので早めに就寝。
 
 

実は、この時点で私はかなり風邪が悪化していたのだった。
 
 

4.Early morning cleaning

 「おはようございます〜」
 「おはようござい……ふぁ〜ぁ」
 「おは……ごほっ」
 「オーヴァーロードさん、大丈夫ですか?」
 「薬もってきているから大丈夫ですよ。それよりも会場に早く入るんでしたっけ」
 「ええ、開場は10:00ですが参加受付が先着順なので出来るだけ早く会場入りしたいところなのですが」
 「昨日お話ししたとおり、この近くの栗名月駅から終点の桜田駅まで乗って、そこから山町線乗り換えでいけます。ルガールカードは昨日買われましたよね? それで全線通過できます」
 「では、お世話になりました」
 「がんばってくださいね〜」
 

 ……
 …………
 ………………

ゴホッゴホッゴホッゴホッ
局長さん達が曲がり角の向こうに消えるのを確認して無理して我慢していた咳を開放する。あまりのひどさに思わずうずくまる。

 「だいじょうぶですかっ!」
 「流石にちょっとやばいわ。マジで悪寒までしているよ」
 「とりあえず寝ていてください。後かたづけは私がやりますから」
 「……1時間だけ寝かせてくれ。薬で散らすから」
 「まさか、AGCへ行くんですかっ!?」
 「昨日の調整で局長さんにカードをお借りしているし、返さないと……」
 「そんな無茶な……」
 「向かいの果物屋さんからみかん買ってきて。起きたら食べるし」
 「分かりました。おとなしく寝ていてくださいね」

体温は38度近く、喉の腫れがひどく声も出しにくい状態だ。予め用意しておいた朝食のパンを強引にカフェオレで詰め込むが半ばむりやり嚥下しているような状態だ。薬を飲んで。一つだけ畳まずにおいてあった寝具に横になる。寝ること1時間、9時に鳴るようにセットしたアラームの音で目が覚める。枕のそばには心配そうにのぞき込むティナがいた。

 「ご主人様……」
 「腕時計型PDAで体調モニタリングしているんだろ?」
 「ええ、体温は36度8分まで低下、喉の炎症も多少収まりつつあります。無理をしなければ参加は何とかなるでしょう」
 「じゃ、そろそろ行くか……と、その前に」
 「どうしました?」
 「ティナ、掃除機出してくれるか?」
 「はい?」
 「掃除機で、掃除してから出ていく」
 「開場に遅れませんか?」
 「どうせ開場の10時に着いたところで待たされるんだ。パートナー選手権には参加しないんだし。多少遅れていったところで問題はないさ。それより掃除をして体調の様子を見てから行っても問題はないだろ?」
 「では、お手伝いします」

結果的にこの選択は正解だったことが後に判明する
 
 

5.a Dogfight

開場予定時刻の10:00から1時間近く遅れ、ようやく私はAGC開場近くの山町線酒井筋奔町駅に到着。変な人目を集めるのを避けるため早めにティナを腕時計型PDAへ収納し、会場へ向かう。

 <おや? あそこの親子連れ、AGCに向かっているのかな?>
 <他にも参加者らしい人がいますね>
 <AGCってそんなに大きな大会だっけ?>
 <エアドーム小坂が見えてきましたが……まだ行列が出来ています!?>
 <そんなばかなっ!? もう11時近いんだぞ!?>

休憩と掃除をしてから栗名月を出発したため、AGC会場に到着したのは11時近い。にもかかわらず入場待ちの行列は建物の入り口から長く伸びていた。予定通り開場されたのなら開場から1時間経ってもまだ入れない計算になる。やむなく案内の看板に従って並ぶが……ふと、その看板に描いて有るキャラクターに目が止まった

 <これって・・・・・・国民的配管工事夫ですよね?>
 <うん、まごうことなき国民的配管工事夫だ>
 <AGCって【Analog Game Convention】の略ですよね? 彼は電源系ゲームの代表人物だったと思うのですが……>

 そばにいた係員に聞いてみると、どうやら同じ会場で電源系ゲームのコンベンションが併設されていたらしい。訳を話し、AGC会場へ案内してもらう。こちらは既に入場待ちの行列もなく、会場へすんなりと到着できた。MCの会場では局長さんがパートナーとパートナーマッチ戦の準備をしているところだった。

 「ようやくとうちゃくできましたよ〜」
 「おつかれさまです。ところでどうです? この召喚術士」
 「【葉っぱとアグネスのょぅι゛ょコンビですか何か?】……コレがチーム名ですか? しかもまたデックが色物ですなぁ」
 「すでに「じいゃ」からなにげにチェックが入っていますよ」
 「うむ〜 ときにゲリラ戦は何時からなんでしょ?」
 「第一回戦が終わってからですから12時くらいからでしょう」
 
この時点でティナは腕時計型PDAから出ない様に指示してあり、更に腕時計型PDAを隠すように長袖シャツの腕のボタンを留めてある。それは、過去に次のような経緯があったからだ。

MCと言うゲームは二人かそれ以上で遊ぶゲームだ。基本的に屋敷へは滅多に来客が来ないし、私もそうそう屋敷から出かけることはない。なのでMCの対戦相手を見つけるのは自然とネット上で……と言うことになってしまうのだが、ティナに相手をしてもらえば良いじゃないかと、ふとある日、思い立った。

 「ティナ、MCのルールって大体分かるよね? もし手が空いているなら相手してくれないかな?」
 「お相手自体は出来ますが……面白くないと思いますよ?」
 「なんだそりゃ、接待プレイになってしまうってのかい?」
 「いえ、もっと根本的な原因です。今さっきご主人様がシャッフルしたデック上から順番に当ててみましょうか、バステト、バステト、バステト、弓、矢、バステト、バステト、矢、矢、バステト、バステト……」

 「……そのとおりだ。」

彼女は手も触れずにそのデック50枚全てを言い当てて見せたのだ。しかもそのデックに彼女は一切触るどころか、ろくに見もしていなかった。こんなスタープラチナ超能力者級の能力者が相手ではそもそもゲームが成立しない。それ以降彼女に相手をしてもらうのはあきらめた。ましてや、こんな大会で彼女の助力で相手のデックをサーチしては論外だ。その為彼女が入った腕時計型PDAを外に曝さないような状態で隠してある。

大会開始までまだ若干の時間がある。企業ブースを見て回ると1000円お買いあげごとにMCのプロモーションカードが当たるくじをやっていたので運試しにトライしてみる。結果、当たったプロモーションカードは「スノーホワイト」、幸先がよい。

程なく昼を迎える。パートナー戦は1回戦を終え、三々五々人が席を立ちはじめた。近くのコンビニで昼食を仕入れ、局長さんと共に食べる。食べながらやたらと濃いWW2談義を楽しむが……おかげで周囲から邪魔が入ることはなかった。ちなみに、私の昼は予め買ってきた濃厚なソースのたこ焼きだったのだが、やたらと周囲の注目を浴びていた。後に同じ会場で行われていた別のゲームで「スタッフにたこ焼きを差し入れると差し入れた数だけマスを進む」という微妙なルールがある双六が行われていた。視線を集めた理由に納得。

ゲリラ戦は昼食が終わった後、参加自由という形式で行われた。結果は……あまり誉められた物ではなかったが、個人的に満足がいく結果となった。「後は実戦経験が物を言うだろう」とは、対戦報告をした局長さんからの感想だ。パートナー戦は、というと局長さんと共に西京から参加した2人が決勝まで進出。其処での壮絶な戦いの後に惜敗と言う結果に終わった。
 
 

6.See you agein

慰労会を兼ね、再び小坂駅地下で夕食を食べることになった。イタリア系レストランでピザ・マルガリータを注文したのだが……

 「主を呼べっ!」
 <どうしました?>
 <どうしたもこうしたもないよ、せっかくのピザ・マルガリータが台無しだ>

ピザ・マルガリータとは薄いピザ生地の上にバジル・トマトソース・モッツァレラチーズを乗せて焼くだけの非常にシンプルなピザだ。それ故作り手の技量が非常にはっきりでしまう。私の目の前に出されたそれは、生地の縁が黒く炭化しておりとても食べられる状態ではなかった。明らかに焼きすぎである。店との交渉の結果、幾分値引きしてもらうことで話は落ち着いたが……文字通り後味の悪い結果となった。

局長さん達が帰りに乗るエア=バスは小坂ではなく、二ノ宮から出るとのこと、それならばと小坂駅に隣接するOEL(Ozaka-Express-Line)桜田駅に案内する。昨日買ったルガールカードはこの会社のプリペイドカードだが、まだ少し残っているのでここで使い切ろうという考えである。私が屋敷に戻るためにはどのみちOELを使うのだし、ここで分かれようと言うことになった。

 「大変お世話になりました」
 「またこちらに来るときは声をかけてください。お待ちしています」

電車の時間も迫っていることから別れの挨拶もそこそこにして、我々は別れた。屋敷のある慶都へ向かう特急に飛び乗ると、それまでの疲れも出て、そのまま眠ってしまった。

 

 「……ご主人様、起きてください」
 「いま、どこ?」
 「もうすぐ市場鳩丸です。」
 「もうそんな所まで来たのか……ごほっ」
 「少しぶり返しているようですね。」
 「う〜流石に限界」
 「分かりました。荷ほどき等はこちらでしておきます。屋敷に着いたら顔だけ洗ってそのままお休みになってください」
 「メールチェック……」
 「あきらめて明朝行ってください。それとも悪化させたいんですかっ!!」

情けないことだが、結局殆ど意識の無いまま、屋敷にたどり着いた私は彼女に助けながらそのまま落ちるように寝てしまったのだった。