*white kiss*
「大ちゃ〜ん、また何か通販頼んだ〜?」
そう言いながら安部がスタジオへと入ってきた。その手には、白い大きな箱。
「え。知らないよ、僕」
「本当に? じゃあ、どうしよ。差出人欄に何も書かれてないのよ、この荷物」
「え〜、あやしいね。ちょっと振った途端に、ドカーン!とか……」
「ちょっとヤダ、脅かさないでよ」
「わかんないよ〜?」
「でもコレ、大きい割には結構軽いのよね。爆弾入ってるような重さじゃないと思うなぁ……」
しかし、くすくすと笑う大介にも、送り主不明の荷物を持つ安部にも、まったく危機感はない。
安部に至っては、そう言いながら耳を近づけ件の箱を軽く振っていたりする。
問題の箱は、安部がやっと抱えられるくらいの大きさだ。しかし彼女はそれを軽々と運び、あまつさえ振っている。……もちろん、彼女が並はずれた怪力な訳ではない(そんなこと言ったら殺されます)。
「……とりあえず開けてみようか。まぁ、滅多なこともないでしょ」
「一応気を付けてよ、大ちゃん〜」
「平気、平気。大方ファンの子からのプレゼントじゃないの?」
そう言いつつも、大介は普段より幾分丁寧な手つきでその箱を開封する。
程なくして大介の腕の中に現われたのは、大きな白いクマだった。
「くまだ…。くまさんだよ、安部ちゃん」
「……その中にバクダンとか、トウチョウキとか、仕掛けられてないでしょうね?」
「う〜ん、大丈夫じゃない? 固い感触もないし……」
ぎゅ、ぎゅ、とそのクマを抱きしめて、大介は笑った。
「かわいいクマだね」
「まあ……、大丈夫ならいいけど。ホントにファンの子からのプレゼントだったのかしら……。でもなんでFC宛じゃなくて、スタジオの住所が……」
しかも匿名だし、と呟いた安部は、しかしクマを抱いて微笑む大介の笑顔にそれ以上何も言わず、仕事に戻った。
その晩ベッドに入った大介はなかなか寝つけなかった。普段大変寝つきがよろしいだけに、眠れないことに苛立ち、何度も寝返りを打った。
――それというのも……。
(先生がいけないんだっ。いきなり来るなんて言っておいて、全然来ないし……)
「夜中に行くからアニーを別の部屋で寝かせておけ」という哲哉の指示通り、いつも一緒に寝ているアニーをリビングに寝かせたはいいが、連絡を寄越した本人は一向に来ない。寝つけない大介とは逆に、いつも抱いている金色の温もりはすっかり気持良さそうに寝入っていて、さすがに起こすには忍びなく、大介は持ちかえってきた白いクマをベッドに引っ張り込んだ。
(先生のばか……。もう、先に寝てやるっ)
そう思いつつも、いつの間にか寝入ってしまったらしい。
他人がベッドに入ってくる気配でようやく目が覚めた。
「あ、……れ? ……せんせい?」
「ああごめん大介。起こしちゃったね」
「――”起こしたこと”より前に、謝ることがあるんじゃないですか、先生」
「……遅くなってごめん」
「……うん」
「ベッド、入ってもいい?」
「うん」
隣に横たわった哲哉は、そこでやっと大介が大事そうに抱えているものに気付いた。
「――大介、そのクマ……」
「これですか? 先生が、アニーはダメって言ったから、腕がさみしくて抱いてたんです。今日もらったの」
「……そう。――でも、アニーはまぁいいとして、さみしかったからって、そんなのと一緒に……。貸しなさい」
大介がぎゅっと抱いたクマを、哲哉は少々強引に引き離しに掛かる。
しかし大介はそれに抵抗した。
「――やだ」
「やだじゃないでしょ。いつまでそれ抱いてる気?」
「……先生が遅いのがいけないんです」
「だからごめんって。――もう僕がいるんだから代わりなんて必要ないでしょう」
「――今日はこのコと寝るんだもん〜」
そう言って聞かない大介に、哲哉は尚も白クマを引っ張る。
「なんで差出人不明の得体の知れないクマなんかと平気で一緒に寝れる訳!? 無用心だよ、大介っ」
「――……? なんで先生が、このコが差出人不明だって知ってるんですか……?」
「あ…っ……。――そ、それは今どうでもいいでしょう、大介! とにかく離しなさい!」
大介がぱちくりと目を瞬かせて力が緩んだ隙に、哲哉は今だとばかりにクマを取り上げた。
「あ〜!! クマちゃん……」
「クマは逃げないんだから、明日でも明後日でも構ってあげればいいでしょう、僕の代わりに」
「……ぷ〜……。得体の知れないクマとなんか一緒に寝るな、って言ったのは先生ですよ?」
「――いい。僕がいない時は、このクマと寝ていいよ」
「自分勝手ですね」
いつもながら、という大介の呟きを都合よく無視した哲哉は、自分の背中の向こうにクマを寝かせ、やっとのことで大介の身体を抱きしめた。
「じゃあ今度から先生がいない時は、そのクマかわいがっておきます。テツヤって名前付けて、先生の悪口いっぱい言っておきます」
「悪口? 愛の囁きじゃないの?」
「……テツヤー、先生ったら日本語分からないみたい〜」
「――悪かったよ。でも、このクマ、気に入ってくれたみたいでよかったよ」
くす、と笑いながらそう言った哲哉に、大介は小首を傾げる。なんだか、引っ掛かる。
「”キニイッテクレタミタイデヨカッタヨ”……? ……あ! ひょっとしてこのクマ、先生が送ってきたんですか!」
「あ……いや……、まぁ……」
「なんで荷物に自分の名前書かなかったんです!?」
最初危険物だと思ったんですよ、と言う大介に、哲哉は苦笑を返すしかなかった。
「――その様子じゃあやっぱり、このコに付いたタグ、見てないね、大介」

END.
この話を書いた直後、公式サイトのムービーで白いクマの大きなぬいぐるみを抱えてる(というかワンちゃんと遊んでる)浅倉さんを目撃してしまい、とてもビビりました(苦笑) えっ、まさか、みたいな(笑)

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