*Halloween*




 がたっ、という物音が聞こえると、大介はそれまでいたリビングを出て、トコトコと廊下を歩いていった。大介の思った通りに、玄関には靴を脱いでいる小室の姿が見える。
 小室に気付くなり大介はすぐにタタッと駆け出してその足にまとわりついた。
「せんせ〜〜、おかえりなちゃーい♪」
「ただいま大ちゃん。いい子にしてた?」
「うんっ。きょーはねぇ、また、きょく、ちゅくったの〜v きいてー、きいてー!」
「ホント? もちろん聴くよ、どんな曲だろう、楽しみだなぁvv」
 自分の足元にある小さな身体を片手で抱き上げて、小室は大介のふっくらとした頬にキスをする。それに照れた大介は、小室の首にぎゅっとしがみつくと顔をうずめた。
 目の前の柔らかな金髪に頬刷りした小室は、大介を抱え上げたままリビングへと移動すると、大介をやさしくソファへと下ろした。にっこりと微笑むと、もう片方の手に持っていた大きな包みを差し出す。
「はい、いい子にお留守番してた大介にお土産だよ」
「えっ、ほんとっ? わぁいv せんせーだいちゅきvv」
 大介がやっと抱えられるほど大きなそれは、カラフルな包装紙に包まれていた。
 一旦大介の隣に座った小室は、横に座る大介の身体を抱え上げると、自分の膝上へと座らせる。
 小室の膝に乗った大介は、プレゼントを抱えて小室を見上げた。
「あけていいー?」
「いいよ」
 小さな手でビリビリに破かれた包みの中から現われたのは、大きなオレンジ色のバケツだった。
「…うわぁ……。かぼちゃさんだぁ…!」
 オレンジ色で少し丸みがかったバケツには、黒く目と口とが描かれていて、黒く細い取っ手がちょこんとついている。
 小室が買ってきたのはハロウィン用のかぼちゃバケツだった。
「かわいいでしょ? 大ちゃんが仮装してこれ持って回ったら、きっとこのバケツが一杯になるくらい、たくさんお菓子が集まるよ」
「わぁ、おかし〜v ……え、でも、ぼく、およそのおうち、まわるの…? ひとりで?」
「ううん。さすがに日本じゃそんなイベントやってるお宅は少ないでしょ。第一そんなことしたら、大ちゃんかわいいから誘拐されてイタズラされちゃうよ」
「じゃー、どーするの?」
「スタジオのみんなとハロウィンごっこしようと思ってるんだけど」
「ほんと? たのちみ〜〜vv」
「でね、大ちゃん。仮装なんだけどね……」











「うん、かわいい♪ よく似合ってるよ大ちゃん」
「えへへ、そぉかなぁ〜〜。せんせーが、ぼくのために、かってくれたやつだから、にあうの。きっと」
 よく分からない理屈をつけた大介は、よほどその仮装が気に入ったのか、かぼちゃバケツを手にくるん、と一回転してポーズを決めた。
「へへ、かわいい?」
「かわいい、かわいいvv」
「みんなのとこ、まわってきていーい?」
「いいよ、いってらっしゃいv」
「いってきまーしゅ!」
 ちゅ、と小室にキスをしてから大介はスタジオを出た。そのままガラス張りのエレベーターへと向かう。
 この日のロジャムスタジオスタッフには、全員にお菓子の配給がされており、「大介が来たらお菓子を渡して遊んでやってくれ」との指示がTKから出ていた。
 1階に降りた大介は端から順にブースを回って、1人1人にお菓子をねだる。
「おかしちょーだぁい? くれなかったら、いたずらしちゃう〜v このかーどのでぇた、ぜーんぶけしちゃうもーん!」
「あっ、うわ!! それだけはダメ、大ちゃん!!! ほらほら、お菓子あげるからっ、それだけは〜〜」
「ありがと、れーじさん♪ じゃーね〜〜」
 身体が小さくとも、しゃべり方が多少危うかったとしても、"大ちゃん"は浅倉大介なのだ。カードのデータも、パソコンのデータも、お手の物である。彼は次々とスタジオスタッフを恐怖のどん底へと落し入れながら、順調にお菓子を回収していった。
「きねしゃーん、おかしちょーだい?」
「おっ、来たな大ちゃん。じゃあ、じゃんけんで勝ったらあげるよ。じゃーんけーん……」
「まってよっ、きねしゃん、ずるいっ! ぼくが、ちょき、だせないの、しってるくせに!!」
「あはは、気付いたか〜」
「……大人げないよ、木根…。はい大ちゃん、僕からはこれね」
「うちゅ、ありがとーvv」
 宇都宮から受け取ったベビースターをバケツの中へと入れた大介は、その膝の上によじ登ると、うちゅだいすきー、と宇都宮の頬にキスをした。そのまま宇都宮の膝の上に乗ったままで木根に催促をする。
「きねしゃんは、くれないにょ〜〜? ――あ。……ねー、それって、ひょっとして、つぎのしょーせつ?」
 大介は木根の前に置いてあるパソコンを指差して言う。
「ん? ああ、うん、一応ね」
「――。きねしゃん、おかしくれなかったら、そのぱしょこんのでぇた、ぜんぶ、けしてあげよっかv」
「え……?」
「きねしゃん、しってる? はろうぃんって、”おかしくれなかったらいたずらしてもいいひ”、なんだよぉ」
「……いや、大ちゃん、それはちょっと違うと思うけど……。木根、大人しくお菓子あげといた方がいいよ? この子、大ちゃんなんだよ? パソコン触らせたら…どうなることか……」
「ぅあ……。――仕方ないなー、ほら、大ちゃん」
 不本意ながら、といった様子で木根はクッキーをかぼちゃバケツの中に放り込んだ。
「ありがときねしゃんv」
 と、そこにこの企画の仕掛け人が現われた。
「どう、楽しんでる、大ちゃん?」
「せんせぇvv」
 突然現われた小室は、さも当然、というように木根と宇都宮の間に座ると、宇都宮の膝から大介を奪い取った。大介の持ったかぼちゃバケツを覗き込むと、満足そうに笑う。
「どれどれ…。お、結構集まったねぇ」
「うんv せんせーも、ちょーだい?」
「んん〜〜? どうしようかなぁ〜」
「くれなかったら、いたずらしちゃうよぉ?」
「したかったら、してもいいよ?」
 むー、と唸った大介は、小さな手をいっぱいに伸ばして小室の脇をくすぐった。
「じゃあ、くすぐりのけい〜!!」
「はは、そんなんじゃあ効かないな〜」
 にっこりと微笑む小室を見て、大介は、うーん、と考えた。小室が今一番困ることは一体何か……。
「んー。じゃあ、えいっ!」
「うわ、大介、それはちょっと待って!!!」
「――おかしくれる?」
「あげるっ! から、ちょっと待った!!」
 小室は自分の服を脱ぎかけた大介を押し止めると、頭を抱えながらポケットからキャンディーを取り出して与えた。
 幾分乱れた大介の仮装の裾を元通りに戻しながら、小室はうめく。
「わぁい、ありがとーせんせー」
「……まさかそんな手に出られるとは……。
 本当にダメだよ大ちゃん、人前でそんなことしちゃあ……」
 かぼちゃバケツ一杯のお菓子を持って素直に喜ぶ大介を見て、小室は溜め息をついた。
 それを脇で見ていた木根は、わざわざ宇都宮の隣に席を移動しながら、こっそりと訊いた。
「……おいウツ、あれのどこがイタズラなんだ?」
「大ちゃんの裸を見せたくないんでしょ」
「はぁ? コドモの裸、しかも男の子の裸なんて見せたってどうってことないだろうに」
「僕たちの前で大ちゃんに裸になられると何かマズイことでもあるんだろ、テッちゃん的には」
「――それって…。何かすごく大問題じゃないのか……?」




END.

「まんが」ページの「大ちゃんと僕」同様、大ちゃんが小さいです。んで、仮装大ちゃんが描きたくて書いた感じのお話ですね(苦笑)。……あ、もう皆さんお気づきでしょうが、私、ハロウィン大好きです。

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