「パワー全開・米代川の天然遡上アユ」          木ア 勝年

──来たっ、来たぞ!

 待ちに待った一本目のアユだ。

 徹夜走行の睡魔と戦いながら、もう二時間も引いてきたのだから、超嬉しい。

──何としても取り込まないと…。慎重になッ!

自分を戒める。メタセン○・一二五号の仕掛を取り付けた九メートル竿

が半月に曲がっている。下流にいる仲間からも「慎重になっ!」との声が、瀬音を消して飛んできた。

 八月十日午前十時過ぎの米代川。

 秋田県能代市の日本海で幼魚期を過ごし、いくつもある大支流へ浮気もせず〈本流一筋〉で八十キ

ロも遡ってきた〈天然アユ〉だから、滅法強い引きだ。

 それに比べると、四日前の富士川・富山橋の瀬で掛けた二十七センチのアユなんか、放流アユだ

から体型がスマートで、パワーが全く比較にならない。

 しばらく強い引きを楽しみながら溜めていたが、楽しんでいる場合ではないので抜こうと試みた。

だがオトリさえも水面に浮かない始末。何歩か下り、また竿を上流に寝かせた。

 立っているところは護岸帯を守るためのコンクリートの波消しブロックの上である。そのブロックの

切れ目からいきなり太股までの水深だが、流れは少し弱い。そこへ寄せれば何とかなりそうだ。

数歩下ってそこへ誘導した。

 もしも立ち込んでいれば「那珂川返し(抜き)」でやれる。

もう七年前だが米代川支流の阿仁川ではその方法で大分取り込んでいる。

 那珂川返しについて、敢えていう必要もないが、読者層が厚い?本紙だから参考までに記すと、

「先ずオトリを空中に上げ、次は掛かりアユを波頭へ乗せてタイミングを図り抜く。抜いた二尾を釣り

師の上流五メートル(竿の長さや仕掛けの長さにもよるが)ほどへ飛ばして着水させる。二尾が流れ

てくるから素早く空中糸を掴んで玉網へ落とし込む」方法だ。この方法でバラすのは、着水と流す

ときのバランスである。どちらも緩めるとバレてしまうことが多い。

 今日はいつもの取り込みと違っていた。それは左手の玉網へ右手で竿を操作して、何度か伸され

ながらも取り込んだからである。

──やったぜベイビー

 しばらく玉網の中の天然遡上のパワーアユを観ていた。綺麗で太っているアユが口をパクパク

させている。足は長くはない。「お前はパワーがあったなあ」と右手を当てて測ると二十三センチ

オーバーだった。

 仲間がきて「どうよ型は?」と玉網の中を覗いて聞く。「型の割には凄いパワーだね」と言い、

鼻環などを取り付けた。

 立ち上がり流れに入れようと竿を高く上げると、仕掛が切れオトリが逃げていく。

慌てて玉網を抜いて掬ったが、後の祭りだった。メタセンとナイロンの編み込み部分から切れて

しまったのである。

 何やってんだ、バカ丸出し―

 二番目はメタセン○・二号に、次は取って置きのワイヤー(○・四号)にして一進一退を繰り返した。

 これも程なく切られたのでいよいよナイロン糸にしたが、○・四号など全く溜められず「スパ切れ」

だった。このあとナイロンの○・六号にしてやっと止まってくれ、「五連ちゃん」の入れ掛かりなどが

あって、パワー全開の天然アユが貯まり出した。

 秋田の名川・米代川の友釣りは、一喜一憂であったが、最終的には「塞翁が馬」であった。

釣行記