倉戸山に迷う                  小山友叶


平成17年9月20日。今年初めてキノコ取りに小河内の倉戸山へ登った。ここは去年は降り道を間違えてき

つい下りを必死で降りた所だ。一歩躓けば20メートルは転落するような急斜面でようやっと降りたところに落

石防止のフェンスがありこれに阻まれて直ぐ下の舗装道路に降りられずフェンスが僅かに切れた隙間から籠

を先に落とし、電柱に抱きついて降りた経験がある。今回は降り口を間違えないように用心して分岐点の目

印にしようと赤いビニールテープを3メートルほど籠に入れておいた。この日案内したのはキノコは初めてと云

う万年青のプロの小南と関口の二人を連れての倉戸山行きである。峰谷橋のたもとのちょっとした公園に車

を停めて去年も行ったトンネル脇から登り出した。時間は9時20分。「最初はどうしてもきつい登りだけど尾根

に着けばあとは楽だからそれまで頑張って」と二人に慰めを言って登坂するのだが途中四つんばいになって

休み休み登るようであった。尾根に到着して登ってきたところにテープを張り、下山の目印にした。尾根に着

けばあとは楽だと云ったが尾根筋はやはりかなりきつい登りが続く。去年来た時には「女の湯」の標識が鞍

部にあった筈だがと首を捻りながら猛々しいドクツルタケだけが嫌に目に付く山道を辿った。今年は毒キノコ

が多い。目指すウラベニホテイシメジは見つからず、良く似ているクサウラベニタケをけとばしながら進んだ。

尾根筋をいくら進んでも女の湯の標識は出て来ない。それに何よりもあの倉戸山の見通しの良い林に到着し

ない。あの見通しの良い斜面が素人には良いだろうと選んだ山なのにそこに到着しない。『何か変だ。コース

を間違えたかも?』といささか不安になった。二人がゆっくり来るので少し先を偵察にと先行した。急勾配の山

を『まだかまだか』と女の湯の標識を探しにかなり下ってから『これはどうやらコースが違う』と諦めた。二人の

所に戻らなければならない。それで下ってきた山道を心臓がバクバクするほど急いで持参した呼子笛を吹き

ながら戻った。小南は尾根に腰を下ろしていたのでホッとした。笛の音で関口も合流した。毒キノコばかりで

嫌気のさした私は「戻ろう」と提案した。時間は既に2時間を過ぎている。二人は這い登ったあの急坂は降り

るのは危険だからあそこは降りたくないと云うので何としても「女の湯」からの登山道を降りたい。引き返す途

中で「女の湯バス停」と云う錆びて良く読めないが小さい標識があった。『こんな小さい標識ではなく確か大き

な道標だった筈だ』と見過ごして決して登りたくない山道を休み休み登った。あまり疲れたので休んでいた。

追いついて腰を下ろした二人に「どうにも女の湯へ降りる標識が見つからない。仕方ないからテープを張った

所から降りよう」と提案した。二人は「テープを張ったのは逆方向だよ。もう遙か向こうだよ。」と云う。「エッ?

まさか?この方向だろ?」「何云ってるんだよ。テープの所からズーッと登って来てるんじゃんか。とすればテ

ープに戻るには今度は下るのが当たり前じゃないか。俺たちはあのテープから降りるのではない新しい所か

ら降りると思ったから付いて来たんだ。テープの所からは遙かに離れてしまった」と二人して云う。『????

』すっかり方向感覚を失った私は「先頭は譲る」と首を捻りながら渋々付いて行った。とにかく捜索隊のご厄介

にはなりたくない。ケータイで助けを呼んでもケータイでは位置が分からない。何とか地力で下山するよりな

い。再び「女の湯バス停」を示す小さい標識のある所まで来た。もうこの標識を信ずるよりないと思った。よく

見るとかなり古びているが鉄線で括ってあるところをみると信用してよさそうだ。「これを降りよう」と二人に提

案して初めての女の湯登山道を辿って漸く降りることが出来た。キノコは僅かに関口が「ウラベニホテイシメジ

」を数株取っただけ。アカヤマドリの老菌があちこちにあった。倉戸山は案内標識が少ない。去年は皇太子が

倉戸山と尾根続きの鷹ノ巣山へ来たのだから倉戸山まで足を伸ばさないとも限らない。それならば尚更標識

を新設して欲しい。登り口にある洒落た標識と肝心の尾根のようやっと判読出来るような貧弱な標識とのギャ

ップに苦情を言うのは私だけではないだろう。







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