私の大好きな鶴岡市周辺                          新井 一男

 テレビの旅番組を見ていたら、満国屋の名前が出てきた。満国屋と言えば、弘法大師

が開湯したという伝説が残る温泉の一つである、山形県の温海温泉である。

この宿の前を流れているのが、温海川である。

 十年余り前この宿の前で何度か鮎釣りをしたことがあった。鶴岡に赴任していた友人

を訪ねる際、お土産として途中の河川で鮎や山女を調達していったのだが、そんな時良

くこの川に入った。ここで釣りをしていると、鮎釣り見物に下駄を鳴らしてくる泊り客も少

なくない。その当時はこのような場所で鮎釣りをする釣り人も少なかった。

割烹料理屋のおとり屋があり、そこでやっと囮になるような元気のない小さな囮を買い、

川に入った。

「ここ一週間くらいは竿が入っていないよ。」みたいな主旨の言葉をこの割烹料理屋さん

からよく耳にした。 越後荒川などが増水して大濁流となってしまい、釣りにならない時

の逃げ場とした。そんな時は、やはりこの温海川も増水していて、足首くらいの深さの

ところも腰丈になっていたが、竿は出せた。割烹料理屋さんの小さな囮では全く役に立

たなかったので、こんなときは、よく鮎姫に登場してもらい、野鮎を取り、釣りを続けた。

 川の状況は、さすがに温泉街だけあって、宿々から流れ出る湯水で誉められたもの

ではなかった。

温泉街より上流は人家も少なく、水質は良い。温泉街を過ぎた少し上流に大きな堰堤

があり、堰堤下では山女も釣れた。ただし、かなりハヤが混じる。

アメマスも上ってくるそうだから、時期によればかなりの大物が期待できるのではないか。

 ある年の九月に中流域で山女を釣ったことがあった。シイラ顔をした、マスのような

模様の、形は全て二十センチくらいのものを、一畳ぐらいの場所で、一時間半くらいの

間に二十数匹釣ったことがあった。放流物がその場所にかたまっていたのだろうが、

ひれはピンとしてきれいだったのを記憶している。

 鶴岡に宿泊した際は、寒河江川の上流の根子川に岩魚釣りに出かけた。

国道112号線を鶴岡から寒河江方面に走り、朝日村に入り、湯殿山を左にして、

大越峠を越え、少し下り、国道を右にそれると寒河江川の上流部に入る。

しばらく走ると花柳玄舟(知っている人がるかなあ?)の家などが出てくる。

更に走るとすぐに人家はなくなり、ほぼ川に沿い林道が走る。

四・五センチもあるようなオニチョロを採取し、流れに乗せれば、真夏の昼間でも

すぐに何匹かの岩魚が魚篭に収められた。山女もつれたが、なぜか妙に鼻の丸い

ハヤが釣れた。魚影は非常に濃く、釣堀などより多くの岩魚が淵に並んでいるのを

目にした。餌を投げると、その中の数匹がサッと下流に走り、それぞれが餌が流れてき

そうなポイントに身構えた。途中にある大井沢という支流に入ったこともあるが、

堰堤下では次々に岩魚が落ち込んでくる流れに飛び上がっては、落ち込みの沫に

消えていた。足元の自分の立っている岩の下からは、鮭ほどもあるような岩魚の頭

が見え隠れしていた。だが、行く度に魚影は薄くなり、最近は立ち寄ることもない。

何ともさびしい限りだ。

 鶴岡というと、すっかり忘れ去られているが絶対?忘れてならないのが、あの有名

だった人面魚だ。善宝寺というお寺の池に住んでいる。二千年の八月に訪れたこと

があった。嘘かと思ったら、人面魚はいっばいいた。本当にいっぱいいたのだ。

 それよりたまげたのは、巨大なすっぼんがその池に住んでいたことだった。

人面魚を捜していると、たくさんの人面魚が集まってきたが、亀もたくさんいて亀も

「わっしわっし」と集まってきた。訪れる人などが餌をくれるからだろう。

その「わっしわっし」と集まってきた亀は、ちょっと怖いくらい人なつこかった。

周り中から「わっしわっし」と集まってきていた亀を「すげえ眺めだなあ」などと感心

して見ていたら、最後尾の亀の付近の水面が突然盛り上がったかと思うと、甲羅の

直径が二尺を超そうかと思われるような巨大な亀が「わっ」と浮上してきた。

ところが、現れた亀の顔は、なんとすっぽんのものだったのだ。

野生のすっぼんなどというものにお目にかかったことがなかったせいもあり、

その迫力に腰を抜かしたいくらいびっくりしたのだった。

「こんなのに喰いつかれたら、どうなっちやうのかなあ…」などと話していたら、

人面魚どころの騒ぎではなくなってしまったのだ。

その巨大すっぽんも周りの亀に負けないくらい妙に人なっこかったのだが、ちょっと

やっぱり怖かったのだ。鶴岡をお訪ねの際は是非善宝寺に立ち寄ってみてください。

 この鶴岡を流れている川に赤川があるが、この赤川の支流の大鳥川にも行ったこと

があった。上流には滝太郎伝説の大鳥池がある。上流部までは行ったことがないが、

その当時、山女の姿は少なくはなかった。

この赤川に最近鮎釣りに出かけることがある。引き味のよいわくわく鮎釣りが堪能できる

ときがある。本格的な鮎つりシーズンが始まろうとしているが、今年はどうだろうか。

ちょっと気になる釣り場がある。
旅行記