釣行記

 北海道鮭釣り紀行                               石井 岱三

 六月の初旬に知床半島に観光旅行に出掛けた。参加者は十六人。大型バス一台で豪華な仕掛けで一泊二日の旅だった。

 知床半島の山々はまだ雪を被っていて、知床峠には雪が降っていた。そのバスの中でガイドさんが標津町の方に近づいた時に鮭釣りの案内があった。季節は八月

の終わり頃より九月いっぱいで、湾に入ってきた鮭を船で釣ると云う説明であった。

 帰宅してからこの鮭釣りが頭から離れず、JTBに調べて貰った結果、八月二十七日が解禁で河川で釣るにのは北海道庁の許可が必要とのこと。

早速十人分申請して、その許可が下りたのが八月十五日だった。現実に釣りを目的に参加出来る人は五人となってしまい少々出鼻をくじかれた。

 八月二十六日(月)午前七時五十分羽田発釧路行きの飛行機に頭数大小集めて九人が乗り込んだ。

 頭の中では大きな鮭がリールを際限なく引いている光景を描いている五人であった。釣らない四人は小生の妻と孫三人である。釧路空港には九時三十分に着いて

出迎えの現地の案内人達と合った。この案内人の第一声が「川は前夜の雨で濁りが強く釣りにならない」と云われた時はお先真っ暗になった。

実は飛行機が着陸態勢に入る前に空港の周りを旋回しているときに窓から見て釧路川などの河川は真っ茶色になっているのを見ていた。

仕方なく連絡拠点となっている隣町の金物屋(白糠町)に行って情報を得ることにした。

 車を走らせること四十分。目的の拠点に着き、早速情報をと話し出すと「河川はダメですね」とあっさり云われて少々とまどった。「何処かで竿が出せる所はないか」

と聞くと「堤防ならば」という返事が来た。釧路川の河口にある堤防でここで釣るのであれば許可も何もいりませんと説明された。

釧路に戻るには抵抗感があったが釣る場所がそれ以外にないといわれると素直に戻ることにした。竿と餌を用意してもらい再度釧路の堤防を目指した。

 この時、堤防釣りに限界があるのではと不安に思ったので翌日二十七日の船の予約を決めた。船で沖釣りをする予約で出航は午前四時三十分とした。

 釧路に戻って昼食後堤防釣りを開始したのが午後一時を過ぎていた。期待を込めて竿を海に振り込んだが一時間、二時間と時は流れるがアタリもない。

少々飽きが来たとき、隣の釣り人に強いアタリがあり、竿が弓なりになったのを目の前で見た。強く引いてゆくものと思って小生の竿を急いで上げると、隣の竿はリール

に力がかかってない様子、静かに寄って来る。鮭って引きがないのかと思ってみていると抵抗することもなくタモの中に入ってしまった鮭にいささか落胆した。

こんな静かに上がるのかなと感じていた。 釣り餌を聞いてみるとサンマのブツ切りである。小生達は赤イカを使っていたので喰い付きが悪い様に感じていた。

 時間がまた流れて午後四時頃、今度は右側の人に当たった。強く引くことなくタモに入れて上げた。粘ってはみたが県外の人には恵みはなかった。

翌朝の船を期待して納竿。ホテルに帰って来た。本日の天候は釧路の夏で初めての晴天であるとのガイドさんが言っていた。

 二日目の朝午前三時三十分にホテルを出発、北海道の道東特有の霧で前方がタクシーの光で百メートルぐらいの視界の中を走った。約四十分で白糠港に着き、

「勝有丸」をさがして出航十五分前に到着。乗船後、各自が担当する電動リールを点検し、漁場に向かって出航した。

 釣り師達は大きな鮭を釣り上げた気分で笑顔だった。霧の中を走ること四十五分。第一の漁場に船長は船を留め、四十五メートルぐらいの深さで釣ってくださいと

指示があった。夢中でリールの糸を出しアタリを待つこと一時間ぐらい。小生の竿にアタリを感じたのでアワセをくれて竿を上げゆっくりと巻いてみた。

その時、船長が「巻かないで」とストップをかけ小生の竿に素早く近づいて来た。船長は船から身を乗り出して海中を覗いて「このままでいて下さい」と言って反対側の

仲間の竿の所に行ってリールを巻くように指示した。糸が巻かれると小生の竿がしなり始めたので、これは海中でお祭りをしたのだなと思った。

このお祭りは反対側の仲間にタラが掛かって動いた結果出来たものであった。「こんな初歩的なことが分からなかったのか?」と少々自信を失っていた。

時の流れは早いもので二時間の経過で誰もアタリなく竿を上げて次ぎの漁場に移動することになった。

 朝日が昇り、霧も少し晴れた大海原に現れたのがイルカの大群であった。数え切れない程の大群が船の両側に群れているのは圧巻であった。

 船長も長いこと漁師をしているがこんな大群を見たのは初めての経験と言っていた。このイルカの群れを見て変な予感がしていた。

この群れが小魚を追うために今日は坊主かなと脳裏に感じていた。次の漁場は二十五メートルぐらいと浅く、釣れたものがカジカであった。

また次の漁場から次々と移動したが、小生の予感が不幸にして的中した。最後の漁場で正午近くになったので竿を納めることにした。小生達は水深が七十メートル

前後の所で釣っていたので早巻きでは一分少々ぐらいで糸はリールに納まった。

その時反対側の竿にアタリがあり、みんなでタモを持って近寄ると大型の鮭が浮き上がってきた。

 前日の堤防釣りのように余り引きはなく釣り上がり船長の出すタモに納まった。みんなで「バンザイ」をして笑顔の帰路になった。

 反省として九月の初旬以降が好釣りの時期であると全員の意見が一致して再度の挑戦を誓い帰飯した。