きのこのページ

『きのこ山』          小山友叶

毎年、十月十日をメーンにして前後半月ほどキノコ狩りに小河内の山に行きます。この辺の人はキノコを知らないようで山でキノコ取りに会うことはまれです。場所は留浦の島勝食堂の裏山です。山道を登って行くとまず最初に目に付くのが「カノシタ」です。厚みのある小さい白いキノコ。白カノシタと云う名前。笠の裏が猫の舌のような針センボン。小さいから丁寧に集めます。これはオムレツにします。目の高さにもくもくと生えているのが「ハナビラニカワタケ」ゼリーかプリンかそう云った感じのプルルンとしたキノコ。ちょっとゴム臭いけど澄まし汁にすると良い味です。上の雑木の切り株にはぞっくりと「クリタケ」の大株。笠も軸も栗色。石突きが黒化しています。煮込みウドンに入れると美味しいのです。
「ナラタケ」がこれも切り株についています。笠の下にフリルがあり見分けのつけやすいキノコで、とても美味しい。小菅村でナラタケをおばあさんが筵に干しているので聞いてみました。「キロ三千円」で買ったと言っていました。専門に採る人がいるそうです。ただ、これは美味しいキノコですが食べ過ぎると消化不良を起こします。
「サクラシメジ」が山道のそこここに生えています。宮川広吉さんと行ったときのことですがサクラシメジのフエァリングを見つけたことがあります。それはそれはみごとな円でした。直径五メートルほどのフエァリングでその所だけで背負い籠いっぱいになりました。毎年覗いて見るのですがその後出ていません。桜絞りの模様が美しい割と大きなキノコで如何にも美味しそうですが、料理すると模様も色も消えてしまい、味もいまいちです。それに悪いことに傷みやすいことです。等級を付けるとすれば三等でしょうか。
松葉の下に「くろかわ」が見つかります。毎年同じ場所に出るので何か約束したみたいです。平べったい軸の無いような背の低い大きな黒いキノコ。牛のひたいに似てるから「ウシビテエ」と言う地方もあるそうです。私は「黒檀のテーブル」と呼んでいます。これは三倍酢で食べるとほろ苦く酒の肴に良いです。酒飲みのキノコと云ったら良いでしょうか。此処は共有林らしくて村人が手入れして下草を刈ったり枝おろしをするのでこのクロカワのツボも日が差すようになって姿を消してしまいました。
「トキイロラッパタケ」が鴇色の絨毯を敷いたように姿を見せています。小さいキノコで根気よく採るようです。「アカモミタケ」がオレンジ色をして出ています。軸に指で押したような楕円のシミがあるので分かります。採ると手が赤く染まります。このキノコは日本では評価は低いのですが、欧米では味が良いと人気があるそうです。我が家ではこれをうどんの煮込みの具にしています。
大きくて吃驚するのが「アカヤマドリ」。笠の直径二十五センチほどで軸も太くがっしりしたキノコ。色はカレー色。料理するとまるでとろりとしたカレーのシチューみたい。美味しいキノコにランクされていますがとろりとした汁を飲むのはちょっと躊躇います。
「ウラベニホテイシメジ」が出ています。大きさでは「アカヤマドリ」に次いでナンバーツウ。笠は大きいのだと十五センチ、軸の太さ直径三センチ、高さ二十センチほどもあるしっかりしたキノコで取るときボキリと音がします。大きいからたちまち籠一杯になります。これはバター炒めにすると歯ごたえがあって美味しいのです。このキノコと似ていて下痢する「クサウラベニタケ」と「イッポンシメジ」の二種類の毒キノコがあります。よく似ていて同じ所に出てるから始末が悪い。左のキノコが可食で、右のキノコが毒キノコと云うこともあります。何処の農協だったか「クサウラベニタケ」を「ウラベニホテイシメジ」として売って問題になったことが新聞に出ましたが、間違いやすいキノコの代表です。この区別が出来るようになるとキノコ取りも面白くなってきます。
このエリアに「コウタケ」も出ます。これも大きいキノコで、平成十年には何故か「コウタケ」ばかりが大豊作でした。一つで一キロもあるのを取りました。あまり見事なので文化新聞の記事にどうですかと持って行きましたら、飯能地内で取れたのでなければニュースにならないんだそうです。このキノコは名のように香りが凄い。細かく裂いて糸に通して干しておくのですが室内にはとても置けません。普通悪臭は鼻がバカになってしまうもののようですが、このキノコの香りは悪臭ではないためか鼻が何時までもバカにならないのです。たまらなくなってベランダに出してしまいました。利用方法のベストは炊き込みご飯でしょうか。他には煮染めの具にも良いですね。干しておけば翌年も使えます。燗酒に入れると良い香りの「キノコ酒」になります。尾根に近く小さいながら一番安心して利用できる「アミタケ」があります。小さくて笠が粘質ですから採るとき注意しないと落ち葉などの屑がついて洗っても容易に取れませんからゴミをつけないように丁寧に扱うことです。濃いめのダシで煮てご飯にかけて「アミタケ丼」にしたり、煮込みウドンの具にしたり利用範囲が広く美味しいキノコです。ボイルして煮汁ごと冷凍しておくと何時でも利用出来ます。塩蔵して保存されるキノコの一つです。笠裏が網の目になっていて直ぐ分かります。網の目のキノコに毒はないと云います。東北で塩蔵したキノコを売っていますがこれが多いですね。
この辺には「ホンネツ」も出ます。珊瑚のような綺麗なキノコ。サキッポの色がピンクで、太い軸が真っ白。最高級と云って良い見事なキノコです。
天井の尾根は本州製紙の唐松林になっていて、ここに「ハナイグチ」が出ます。信州では絶対の人気だそうです。明るい茶色の可愛いキノコ。信州の唐松林でこのキノコを籠一杯とるのが今の夢です。
尾根を歩いていて「センボンシメジ」を見つけました。このキノコを見つけたときは一瞬誰かが捨てた「灰の塊」かと思いました。色といい形といいまったく捨て灰そっくりでした。採った場所を記憶して毎年行ってみるのですがここ数年出ていません。
遅くなってもう十一月の猟期に近い頃出るのが「ムラサキシメジ」です。このキノコで想い出すのは女房と行ったときのこと。幸い当たり年でムラサキシメジを籠一杯とって降りて来たのですが何時まで経っても来ないので戻ってみるとムラサキシメジの群落を見つけた女房が、あまりの見事なキノコの集団に採るのが惜しいのかその表情は恍惚としていてまるで酔ってるようでした。
キノコの先達の戸門さんが良いキノコを見つけるとその顔は恍惚とした表情になると著書に書いていますが私もまだ採ったことのないマイタケなどを見つけたらきっとこの時の女房のような表情になるのではないかと思います。果たして今年は何が採れますか楽しみです。
今一番採ってみたいのは「ニセアブラシメジ」別名「クリフウセンタケ」と「シモフリシメジ」です。これを今年の目標にしています。「ホンシメジ」や「マイタケ」などの名菌は大沢飛映氏のようなプロでないと見つかりませんから最初から諦めています。