釣行記 

気違いむじな                                       大沢 飛映

 信濃沢の合流点へ着いたのは、まだ夜明け前であった。支度をして、薄暗い山道を神田さんと歩き始めた。

この山道が心臓破りで、ハアハア言いながら歩き、沢を二回渡った所で朝食にした。

 朝食後、ここから釣り上がったが、二人とも空ビクである。小さな滝の上へ出て、向こう側へ渡ることにした。

氷の上に乗ったとたん、つるり。三米ほど滑ってやっとの事で止まった。幸い肘を少し打っただけで済んだが、

びしょ濡れである。少し上流の営林小屋で着替えをした。

 神田さんがGパンを乾かしてくれた。見ると火がついているではないか。「神田さん=火=」。

 この火がついたGパンをはき、気を取り直してまた釣り上がった。釣れてくるのはチンピライワナばかり、

相変わらず空ビクのまま。 神田さんは何匹か五〜六寸のイワナを釣り上げた。今度は下流へ降りて「むじな沢」

をせめることにした。合流点からすこしの所に滝があるというので、その上流まで歩くことにした。

 この山道が曲者で信濃沢なんてもんじゃない。山道はつづらおりになってはるか上まで続いて、崖がいたるところ

崩れて命がけである。こんな山道を一時間半も歩いて魚影なしである。

 ここを「気違いむじな」と呼ぶことにした。