Sキャプテンのこと        M新前甲板員

 この頃、海釣りに凝っています。釣行はSキャプテンに連れて行ってもらっています。

Sキャプテンは1級小型船舶免許を持っているので行こうと思えばハワイでもオーストラリア

でも釣行は可能なのですが、種々の事情で逗子沖で済ましています。

キャプテンは難関といわれている国家資格に合格しており、気も優しい沈着冷静ないい男です。

ところが、です。一端、操船に入ると人が変わってしまいます。

「こちら葛飾区亀有公園前派出所」通称「こち亀」のマンガを御存知と思いますが、これに出て

くる白バイにまたがった途端に形相が変わってしまう、両津巡査の同僚の本田速人巡査と

同じ様なのです。

 逗子といえば湘南ボーイ、湘南ボーイと言えばヨットですが、そのヨット群を平気で横切ったり、

中に割って入ったりして、こっちは気が気ではありませんがSキャプテンはどこ吹く風です。

およそ普段とは似つかない姿を見せてくれます。また、Sキャプテンは加山雄三の大ファンです。

いつでしたか雄三のアルバムを聴くといってカセットデッキを持ち込んだのはいいのですが、

これがまた小学校の運動会で使うような1メートル近くもある馬鹿デカイ代物で、そうでなくて

も狭いプレジャーボートの中は邪魔なことといったらありませんでした。

本人はいたって気持ちよさそうで「ぼかあ幸せだなー」なんておっしゃってました。

 Sキャプテンからは「キャプテンというものは船上では全責任を負っている。ボートに乗り込ん

だらキャプテンの指示を聞かなければならない」と毎回、厳しい注意が飛びます。

最初は「何言ってんだい」と馬耳東風を決め込んでいましたが、なるほど考えてみれば

船舶免許を持って操船できるのはSキャプテンだけです。しかたなく素直に受けることにしま

した。何時の日でしたか、そんなSキャプテンの信じられない勇姿?を目撃したのです。

いつもの調子で「海が呼んでるぜー、ぼかあ幸せだなー」なんて言いながらSキャプテンの

操船するボートはスルスルとマリーナの桟橋を離れました。しかしです。30分もしないうちに

顔が真っ青になっています。額には冷や汗も出ているようです。心配してSキャプテンの顔をのぞ

き込んで聞いてみると蚊の啼くような小さ〜な声でやっとお答えになりました。

「俺、酔っちゃった。陸に揚がりて〜」耳を疑うような言葉です。

なにぃー、キャプテンは船上では全責任を負ってる?、ボートに乗り込んだらキャプテンの指示

を聞かなければならない?、あきれてものも言えません。泣く泣く引き返すことにしましたが、

やっとの思いで操船してきたSキャプテンはマリーナの桟橋に接岸した途端「ゲーゲー」、

こんな場所では釣れないことをご承知のはずなのに、丁寧に撒き餌をされてました。

海の男は何処へいったやら、見るに忍びないお姿です。

しかたなく、その日の釣行は中止しました。

 案の定、帰りの車中ではSキャプテンから一言の御発声もなく、一同無言のまま帰路に着い

たのは言うまでもありません。

 そうそう、Sキャプテンには二人のお子様がいらっしゃいます。

二人とも親に似て優秀でありまして、男の子はK大の経済学部卒でこの春、

確か6たす2だったか、9ひく1、それとも5たす3、いや10ひく2だ。う〜ん、難しい面倒な

計算だ。難しくてもこれ位の計算ができなければ私としても恥ずかしい。えーと、えーと、えいと、

エイト、そうだ8だ。よく考えれば答は簡単です。そうです、お台場にあるFテレビに就職した

そうです。今は何の番組だかわかりませんがディレクターの卵で頑張っているそうです。

Sキャプテンはこのことについて言いたがらないので私が勝手に記しました。

さて、ここまでSキャプテンのことを色々と書いてきましたが、この人は一体誰なのでしょうか。

@1級小型船舶免許を持っている。

A税理士の資格を持っている。

B沈着冷静ないい男

Cすぐに「すいません」と言ってしまう。・・・・もうお判りでしょう。そう、Sキャプテンとは誰あろう。

あの人です。

 ところで、Fテレビでは大勢の女子アナが活躍していますが、Fテレビといえば

戸部洋子アナが可愛いです。Sキャプテンがなんと言おうと私は好きです。・・・

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