雲泥の差があるのだが）、まさに質の差のようなものがあるように思ってしまう。
＜猪熊弦一郎現代美術館＞
この美術館を訪れたのは、今回で2度目となる。
初めてこの美術館を訪ねたのは、僕がまだ同和火災の不動産部に勤務していた頃で、
当時、僕は同和火災松山支店の新築工事を担当し、
打合せのため何回か松山に来ていた。 1度、その帰りに立寄ったことがある。
著名な建築家である、竹原義二さんが今年の4月から
大阪市立大学の教授になられた。
今、大学院で彼の授業を履修しているので、
僕は竹原さんの生徒という立場になる訳だが、
実は、僕が同和火災を退職する前に、竹原さんに相談したことがある。
当時、退職することを決めていた僕は、
やっぱり建築が好きだし、設計の仕事に戻りたいとか、
また、大学院で勉強もしたいとか という話をした。
竹原さんは、 『大学院に進学するなら、京都工芸繊維か
大阪市立大学がいいと思う』 とアドバイスをしてくれた。
大阪市立大学なら、自宅からバイクで10分かからないし、
仕事のことを考えれば時間的にもそれが最良であろうと判断した。
また、僕はそこの建築学科出身ということも大きな理由の一つではあった。
ともあれ、あらためて学生という形で、第一線で活躍している建築家の講義を
聴けるというのは誠にありがたいことである。
同じく、著名な建築家である貴志雅樹さんも、大阪市立大学で非常勤の講師をされている。
（貴志さんは、安藤忠雄が日本建築学会賞を取った有名な『住吉の長屋』の
設計担当者で
あることでも知られている）
貴志さんともよく話をするのだが、竹原さんの講義は学生よりも、実際、
建築設計に係わっている我々の方が聞いていてためになる。
それほど、竹原さんの『ものづくり』としての視点・手法といったものが新鮮かつ
深いということなのだろう。 とにかく、勉強熱心な人である。
建築家としての仕事、講演、そして大学と、 たいてい夜の11時頃まで
仕事をしているのに、休みの日ともなれば朝早くから、
奥さんと愛犬を連れてあちこちの興味ある建物を見て回っておられる。
そのひたむきな姿勢に、ぐうたらな僕は何時も反省させられる。
11月2日に、その竹原さんの授業で香川県丸亀市にある猪熊弦一郎美術館、
同じく牟礼にあるイサム・ノグチ庭園美術館を見学した。
猪熊美術館は、平成3年に完成したもので、設計は谷口吉生である。
谷口吉生は、僕が最も好きな建築家の1人で、彼のなんとも形容しがたい気品ある作品は
いつも僕に感動を与えてくれる。
僕が感じるに、彼の作品には、西洋のキレの良いセンスと日本の美意識の融合を
見て取ることが出きるように思う。
とにかく、建物が上品である。
これは、僕等がいくら真似をしようにもできないような気がする。
そこに我々が感じるのは、人間としての能力の差ではなく（もちろん、僕とは能力も
雲泥の差があるのだが）、まさに質の差のようなものがあるように思ってしまう。
＜猪熊弦一郎現代美術館＞
この美術館を訪れたのは、今回で2度目となる。
初めてこの美術館を訪ねたのは、僕がまだ同和火災の不動産部に勤務していた頃で、
当時、僕は同和火災松山支店の新築工事を担当し、
打合せのため何回か松山に来ていた。 1度、その帰りに立寄ったことがある。
何時間見ていても、飽きることがない。
ずっと、この場から離れたくないような気持ちに包まれてしまったことを憶えている。
今、あらためて、当時のことを懐かしく思い出していた。
そして、その時の自分と今の心象風景を重ね合わせながら、
この“美しすぎる美術館”に 別れを告げた。
＜イサム・ノグチ庭園美術館＞
イサム・ノグチ庭園美術館に着いたのは、もう、約束の３時を半時間も過ぎていた。
さっそく、係りの人の案内で見学が始まったが、雨も小降りになり、
庭も、建物も、イサム・ノグチの彫刻も、雨の中で、しっとりと落ち着いていた。
イサム・ノグチは、ニューヨークで知己となった、友人である画家の猪熊弦一郎から
庵治の石を知る。この地を大変気に入った彼は、ここに自分のアトリエを構えるのである。
そして、和泉正敏さんという、優れた技術を持つ共同製作者を得た彼は、多くの代表作を
ここから世に送り出したのである。
この庭園美術館には、150点あまりのイサム・ノグチの彫刻作品が展示されている。
そして、彼自身選んで移築した展示蔵や彼が住居としたイサム屋、そして、
ランドスケープ・デザイナーとしても優れた才能を持つ彼自らがデザインした
プライベートな庭園等も見学することができる。
竹原さんが、イサム・ノグチと和泉さんの仕事ぶりについて、こんな話をしてくれた。
今日で作品が完成する、最後の手を入れる日の朝。
和泉さんが何気なく、『先生、今日はいい天気ですね。』とイサム・ノグチに声をかけた。
すると、ノグチは『なんて、緊張感のないことを言うのだ。今日で作品のすべてが決まるのに、
そんないいかげんな姿勢でどうするか』と和泉さんを叱咤したと言う。
シュンとした和泉さんは、もう一度自分の家に戻り、そして再び新たな気持ちで
家を出て仕事に取組んだと言う。
師匠と弟子の峻厳なる瞬間を垣間見ることができた。
すぐれた師匠というのは、なにげない弟子の一言に、その人の姿勢、一念を
瞬時に感じ取ってしまうものである。
そして、それは常に弟子を成長させようという心を持っているからなのだ。
ノグチが問題にしたのは和泉さんの言葉ではなく、その言葉の裏に隠されていた
彼の仕事に取組む姿勢を見抜いたからであろう。
ノグチはすぐれた師匠であり、また、その師匠の心がわかる和泉さんも
立派な弟子なのだ。
＜竹原さんと学生たち＞
最近、日本経済新聞の美術欄でも報道されたので、ご存知の方も多いと思いますが、
イサム・ノグチは1904年、米国ロサンゼルスの生まれ。
父は、詩人の野口末次郎。母は、米国の作家であったレオニー・ギルモア。
日本人でもなく、アメリカ人でもないと感じていた彼は、常に自らのアイデンティティを求めつづけた。
その彼が、たどり着いたのがここ、牟礼という土地であった。
彼が和泉さんに遺言のように頼んでいたことがある。
それは、生前、ノグチがこよなく愛した石のことだ。 彼は、いつか自分が死んだら
この石に帰る。この石を自分の墓にして欲しいと言い、自分でその石に線を引いた。
和泉さんは、彼の死後、そのとおりにその石を加工し、墓石とした。
それは、今、ノグチのプライベートな庭に作られた築山の頂きに静かに置かれている。
残念なことに、和泉さんは11月1日に東京でのイサム･ノグチのシンポジウムにパネラーとして
出席されていたため、今回、お会いすることができなかった。
（ちなみにこのシンポジウムには谷口吉生氏も出ておられる）
アトリエの中を見せていただき、和泉さんの奥さん、娘さんとしばしお話をさせて頂いた。
和泉さんのお孫さんに“愛ちゃん”という、幼稚園か小学校上がりたてぐらいの
可愛らしい女の子がいて、ノグチの作品集を2階の和室に置いてある長持の中から
せっせと運び出しては 僕等に見せてくれた。
イサム・ノグチは1988年にこの世を去ったため、“愛ちゃん”はイサム・ノグチに
接することは当然できなかった。
それでも、この幼い少女にとって、イサム・ノグチはきっと誇りに思う “おじいちゃん”なのであろう。
幼少の時から、美しいものと美しいものを愛する人達に囲まれて育ってゆく
“愛ちゃん”が、僕には大変うらやましく思われた。
〇猪熊弦一郎現代美術館
住 所：香川県丸亀市浜町80‐1
JR丸亀駅前にある。
〇イサム・ノグチ庭園美術館
住 所：香川県木田郡牟礼町牟礼3519 �筺�087‐870‐1500
高松空港よりタクシーで45分 JR高松駅からタクシーで25分
開館日：火・木・土 の午前10時、午後1時、3時。
（事前に往復葉書で日時を指定して、申込みをすること。）
入場料：一般・大学生 2000円、高校生 1000円、中学生以下 無料。
